「相続登記」に必要な「戸籍の収集」が令和6年3月1日より簡単になります

「相続登記の義務化」が令和6年4月1日より開始されますが、これに合わせる形で「戸籍制度」が一部改正されて、令和6年3月1日より相続登記に必要な「戸籍の収集」が簡単にできるようになります。

親が亡くなって自宅などの不動産の名義変更 (「相続登記」)を行う場合、非常に面倒な手続きとして亡くなった親の戸籍の収集があります。この場合、収集しなければならない親の戸籍は親が生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要になります。


( 人の戸籍の変遷について )

人は生まれてから亡くなるまで、通常、戸籍の変遷があります。生まれたときは、現在は親の戸籍に入っています。しかし、明治や大正、昭和初期に生まれた方は、生まれたときの「戸主」の戸籍に入っています。戸主とは、「家長制度」を基本とする旧民法によって定められていた家の代表者です。戸主の下に一族を構成する親族が同じ戸籍に入っていました。戦後、憲法が改正されて新しい民法が制定され、戸主や家長制度は廃止されました。

このような経緯から、亡くなった親の生まれたときの戸籍は戸主の戸籍ということになります。戸主の戸籍の変遷 (隠居、家督相続、分家、転籍など)とともに構成員である家族も戸籍を移動することになります。

また、戸籍制度の改正によって、戸籍のフォーマットなどが変更されることがありますが、この場合も戸籍は旧戸籍から新戸籍に変更されます。新戸籍から見て古い戸籍のことを「改正原戸籍」といいます。

さらに、結婚によって現在の民法の下では夫婦の新しい戸籍が作成されます。(旧民法下では戸主の戸籍に記載されます)  転居による「転籍」によって本籍を変更する場合もあります。

このように人の戸籍は生まれてから亡くなるまでに、通常、4回~7回程度は変遷を辿ります。もちろん、生まれて直ぐに亡くなった場合や転籍を繰り返した方など人によって回数は変わってきます。


( 相続発生時の戸籍収集の苦労 )

人が亡くなり相続手続を行う場合、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要になります。相続登記以外にも銀行預金などの金融資産の相続手続でも必要になります。

この亡くなった親の戸籍の収集が非常に面倒となっています。戸籍は「本籍地の役所」でしか現在は発行してもらえません。沖縄で生まれて、九州に転居して転籍し、結婚して名古屋で新婚生活を行い、仕事の都合で東京と北海道に転籍し、最後は仙台で亡くなった場合、沖縄、九州、名古屋、東京、北海道、仙台で住んでいた市区町村の役場に行かなければ戸籍は発行されません。

もちろん、「郵送請求」はできますが、申請書と必要手数料分の定額小為替、返信用封筒を同封して行う必要があります。往復の郵便日数を考えると一式の戸籍を収集するのに大変な時間と手間がかかります。特に、必要な定額小為替の枚数が分からないため、余分に同封する必要があり費用が嵩みます。

 


( 3月1日から開始される新しい制度「戸籍謄本等の広域交付」 )

このような不便さを解消して「相続登記」や各種の相続手続が円滑に行われるように戸籍制度が一部改正されます。具体的には、「戸籍謄本等の広域交付」という制度が開始されます。

「戸籍謄本等の広域交付制度」によって、最寄りの市区町村窓口で戸籍謄本等(戸籍証明書)を請求することが可能になります。従来、本籍地の市区町村窓口に出向くか郵送請求していたものが、最寄りの市区町村窓口に行けば全て取得できるようになります。

これは、法務省にある全国の戸籍のデータベースに対して各市区町村から戸籍データを検索できるように新しいシステムを開発したからです。元々、戸籍データは本籍地の市区町村に保管・管理されていますが、バックアップとして全国の市区町村分の副本が法務省に集中保管されていました。今回、この副本に対してアクセスできるようにシステムを構築して利用できるようにしたものです。

これにより、請求者の住んでいる最寄りの市役所、区役所、町役場、村役場で簡単に亡くなった親の生まれてから亡くなるまでの戸籍が収集できるようになります。


( 「戸籍謄本等の広域交付制度」の注意点 )

戸籍収集について便利な制度ですが、活用にあたっての注意点があります。

◆ 役場の職員が法務省のシステムを検索して戸籍を収集する訳ですが、戸籍を役所の担当者が正確に読み込んで探索していく必要があるため作業時間がかかると思います。印鑑証明書のように短時間では発行されないと思います。1時間以上の役所での待ち時間は覚悟した方が良いと思います。

戸籍発行の手数料が意外にかかります。亡くなった時点の最新の戸籍(除籍謄本)は、通常、1通450円ですが、それ以前の戸籍(除籍謄本、改製原戸籍)は1通750円です。7回戸籍の変遷があると、450円+750円×6回=4,950円かかります。住民票や印鑑証明書の1通300円に比べて費用がかかります。

◆ 広域交付で戸籍を請求できる親族の範囲が決まっています。本人、配偶者、父母・祖父母(直系尊属)、子、孫(直系卑属)の戸籍を請求することができます。しかし、兄弟などの傍系血族の戸籍は収集できません。

親の相続登記をする場合、相続人の中に既に亡くなっている方がいる場合は、その方の生まれてから亡くなるまでの戸籍も必要になります。

親の相続に関して相続人の中に既に亡くなっている方がいて、その方が親の兄弟などの傍系血族の方の場合は、この制度では請求できないことになります。その場合は、その方の直系親族の方に依頼するか司法書士等に依頼する必要があります。


(なお、今回の話は、親の相続に関して「相続登記」をする前提での話として、亡くなった親の戸籍の収集について説明しています。この制度の本来の目的は、必要な親族の戸籍を最寄りの役場で収集できるという制度です。例えば、本人が配偶者の戸籍や子どもの戸籍を最寄りの役場で請求できるというものです。今回の話は、この制度が相続時に最も有効に活用できるということです。)

広域交付は本人が直接最寄りの役場の窓口に出頭して請求する必要があります。郵送や代理人による請求は認められていません。また、本人確認として「運転免許証」「マイナンバーカード」「パスポート」等の顔写真付きの公的身分証明書が必要になります。


( 相続登記等の相続手続を司法書士に依頼する場合 )

従来は、相続登記を司法書士に依頼する場合、亡くなった親の戸籍について収集が面倒なため司法書士に収集を依頼することがありました。今回の制度変更によって、ご自身で戸籍を収集することが簡単にできるので司法書士に戸籍の収集を依頼する必要はなくなります。その分、相続登記の費用も安上がりになると思います。

但し、数次相続等のように相続人の中に既に亡くなった方がいる場合でご自身で戸籍を収集することができない場合(傍系血族の戸籍)で必要な場合は司法書士に戸籍の収集を依頼する事になります。

(「法定相続情報一覧図」の活用 )

収集された戸籍をもとに司法書士は相続登記を行いますが、この作業の中で、「法定相続情報一覧図」の作成を司法書士に依頼することができます。法定相続情報一覧図は家系図のようなもので、登記所によって発行される公的な証明書です。法定相続情報一覧図は相続登記以外の色々な相続手続(預貯金の相続手続等)で戸籍の代わりとして使用することができ大変便利なものです。

司法書士は相続登記用に収集された戸籍を基に「法定相続情報一覧図」を作成し、相続登記の申請と同時に登記所に提供します。登記所では相続登記を行うと同時に提供された「法定相続情報一覧図」を基に公的な証明書を発行してくれます。

この法定相続情報一覧図を使えば金融資産などの相続手続において戸籍を準備する必要がなく効率的に手続きを行うことができます。


(まとめ)

法務省から令和5年度中に「戸籍の広域交付制度」の開始がアナウンスされていました。相続登記の義務化を4月1日に控えて、ぎりぎりのタイミングである3月1日からのスタートとなりました。

「相続登記の義務化」について、政府としてもできる限りの「国民負担軽減策」を色々と考えて施策展開しています。その意味で政府の「相続登記の義務化」に対する並々ならぬ意気込みを感じます。

スタート当初は初期不良もありますので若干のトラブルも予想されますが、素晴らしい制度であると思いますので十分活用してもらいたいと思います。

 

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