◆遺留分とは
遺言による相続分の指定は、遺言者本人の自由ですが、すべての財産を、例えば、 相続人の見知らぬ第三者 (近しい友人、親密な異性など) に遺言されたら、残された相続人(遺族) の生活や相続への期待が守られません。

そこで、法律(民法)は、兄弟姉妹以外の法定相続人(妻、子、親)には、遺言によって影響を受けない、遺言がどのように書かれていても最低限相続できる割合を定めています。 これを「遺留分」といいます。

具体的な割合は、直系尊属(親)だけが法定相続人である場合は、相続財産の3分の1、それ以外の場合は、相続財産の2分の1です。兄弟姉妹には、遺留分はありません。

言葉では分かりにくいので、相続人のケースごとに表で表せば、以下のとおりです。

◆遺留分算定の基礎となる相続財産とは
遺留分算定の基礎となる相続財産の算定方法は、少し複雑です。大まかには以下のとおりとなります。

相続開始時(被相続人が亡くなった時)、の財産のみを計算の基礎とするのではなく、今回遺言で遺贈した分や過去に被相続人から贈与された一定の財産も合算します。(これを遺贈財産の「持ち戻し」といいます。)

合算する贈与は、
① 相続開始前の1年間にした贈与
② 相続開始前の1年間より前にした贈与したもので、特別受益に当てはまる贈与、
または遺留分権利者に損害を与えることを当事者双方が承知した上での贈与

遺留分計算の基礎となる財産=相続開始時の財産+今回の遺言書での遺贈分+上記
に該当する贈与-被相続人の負債(借金など)
 となります。

◆遺留分を侵害された場合はどうするのか
遺留分を侵害された遺贈がなされたことがわかったら、遺贈や贈与を受けた人に対して財産の取り戻し請求をします。これを「遺留分減殺請求」(読み方は、いりゆうぶんげんさいせいきゅう) といいます。

請求は、口頭でも法的には有効ですが、証拠能力の点と時効の関係から、内容証明郵便を送付して通常は請求します。

但し、仮に遺留分を侵害されていても、特に文句はない方は、請求する必要はありません。何も請求しなければ、遺言書どおりの分配になります。

注意すべき点は、遺留分減殺請求権は、相続開始(被相続人が亡くなったこと)と自分の遺留 分が侵害されたことを知ってから1年以内に請求しないと時効によって権利が消滅します。
また、侵害の事実を知らなくとも相続開始時から10年で権利が消滅します。

 

※令和元年7月1日改正法が施行されます。これにより、以下の通り変更となります。

◆改正により、遺留分の法的性質が変更され、新法では遺留分の請求は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求権」となりました。これにより、「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」に変更されました。

◆従来、遺留分の請求は「物権的な効果を伴う形成権」とされていました。遺留分権利者の減殺請求により、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利はその限度で当然に遺留分権利者に帰属する扱いでした。改正により遺留分の請求は、「債権的な効果に過ぎない金銭支払い請求権」に変更されました。(少し法的な効力が弱くなった感があります。)

◆「遺留分算定の基礎となる相続財産」も一部変更となります。
合算する贈与は、第三者への贈与と相続人への贈与を分けて考えることとなりました。
(第三者への贈与)
① 相続開始前の1年間にした贈与
② 相続開始前の1年間より前にした贈与したもので、遺留分権利者に損害を与えることを当事者双方が承知した上での贈与
(相続人への贈与)
③ 相続開始前の10年間にした贈与で、特別受益に当てはまる贈与 (婚姻又は養子縁組又は生計の資本として贈与したものに限る)
④ 相続開始前の10年間より前にした贈与で、特別受益に当てはまる贈与 (婚姻又は養子縁組又は生計の資本として贈与したものに限る)で、遺留分権利者に損害を与えることを当事者双方が承知した上での贈与

これらの要件に当てはまる贈与財産を「相続開始時の財産」と「今回遺贈した分」に合算することとなります。

「遺留分権利者」「遺留分率(遺留分の割合)」「時効期間」については、変更ありません。

但し、遺留分侵害額請求権が金銭債権に変更になったことから、時効期間については、注意が必要となります。令和2年4月1日より債権法が改正となり、金銭請求権の時効期間が一部変更になります

具体的には、遺留分権利者が1年の時効期間内に遺留分の請求をして、遺留分侵害額請求権を取得した場合、遺留分侵害額請求権は金銭債権の為、金銭債権の時効期間が適用されます。その結果、
1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
時効消滅します。

◆具体的な遺留分侵害額の計算は複雑となりますので、専門家にご相談下さい。

 

◆遺言書作成上の考慮点
遺留分減殺請求権が一定の相続人にはありますので、遺言書の作成に当たっては、この点も少し意識して、あまり極端な遺産の分配方法は、仮に指定しても、ご本人の死亡後、相続人や遺産を遺贈された人と争いが生じる恐れがあります

争いが生じた場合、当事者間の話し合いでの解決を目指しますが、できなければ家庭裁判所に対して調停の申し立てをします。ここでも決着できなければ、地方裁判所での訴訟ということになります。

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