遺言書で「1,000株の株式について兄750株、弟250株 相続させる」と書いて問題ありますか

手持ちの株式について複数いる子などに相続させたい場合があります。例えば、三菱商事の株式を1,000株保有している方が長男と次男にそれぞれ750株と250株を相続させたいと考えているとします。このとき遺言書の書き方で注意すべき点はあるのでしょうか。株式は1株単位に分割できるので株式数を明示すれば問題ないと考えがちです。実は、ここに落とし穴があるのです。


( 好ましくない遺言書の書き方 )

よく見られる遺言書の書き方として次のようなものがあります。

<その1>

第○条 遺言書は、遺言者の有する三菱商事株式会社 (銘柄コード8058) 1,000株について、長男山田太郎(昭和〇年〇月〇日生)に750株を、次男山田次郎(昭和〇年〇月〇日生)に250株を相続させる。

又は次のような書き方をされる場合もあります。

<その2>

第○条 遺言書は、遺言者の有する三菱商事株式会社 (銘柄コード8058)の株式について、長男山田太郎(昭和〇年〇月〇日生)に4分の3を、次男山田次郎(昭和〇年〇月〇日生)に4分の1を相続させる。

これらはいずれも相続財産としての株式の特性をあまり理解していない書き方となります。場合によっては遺言者の意図した通りには相続されないことがあります。

遺言書を書く人


( 相続財産としての株式の特性を理解する必要性 )

株式は、時の経過により株式発行会社の経営方針によって「併合」「分割」が行われることがあります。株式の併合が行われると1,000株あった株式の数が500株に減少することがあります。また、分割が行われれば1,000株の株式が2,000株になる場合があります。

株式の数は、併合や分割が行われた場合の併合比率や分割比率に応じて増減します。このため、遺言書において株式数で相続させると書くと、場合によっては遺言書で想定した株式数と違ってしまうことがあります。

例えば、最初の遺言書の例 (その1) のケースで株式の分割 (分割比率1:2) が行われた場合、相続されるべき株式数は1,000株が2,000株になります。遺言書では1,000株について長男、次男にそれぞれ750株、250株を相続させると書いてありますので、残り1,000株が宙に浮くことになります。

この1,000株は遺言書に指定がないことになり、相続人全員による遺産分割協議を行って相続先を決める必要性が出てくる可能性があります。

そこで、株式を相続させたい遺言書を書く場合は「株式数」ではなく「相続割合」を分数で指定する方法が良いことになります。


この点2つ目の遺言書の場合 (その2) は、株式数を明示せず分数表現していますので株式の併合や分割などの株式数の増減には対応できることになります。株式数が少なくなっても増加しても最終的に定まった株式数に応じて分数的割合で相続することができるからです。

しかし、ここにも問題があります。それは株式の増減比率によっては株式の「端数」が生じることがあるからです。例えば併合比率が3:1の場合、1,000株は333.33株等となり端数が生じます。この端数の取り扱いが遺言書に書いていない場合、相続時に困る場合があります。

そこで、遺言書には株式の端数処理についても触れておくことが必要になります。

また、次の点にも注意が必要になります。


( 株式の「準共有」についても理解しておく必要があります )

株式の「準共有」ということも理解しておく必要があります。「準共有」とはは耳慣れない言葉です。共有については「不動産の共有名義など」よく聞かれますが、準共有はあまり馴染みがないと思います。

不動産などの「物」を複数人で所有する場合を「共有」と言いますが、目に見えない権利などを複数人で所有する場合のことを共有に準じる意味で「準共有」といいます。

ところで、株式は複数人で所有することができます。つまり、1株の株式を2人で「準共有」することができるのです。株式が準共有となった場合、当該株式については、権利を行使する者を1人定めて株式発行会社にその者の氏名などを通知する必要があります。通知しなければ会社が同意しない限り株式の権利を行使することができません。

また、準共有している株式についての権利の行使方法については、共有者間の意見調整が必要になります。


遺言書 (その2) の例では、相続する株式について、長男4分の3、次男4分の1と分数割合で指定しています。そうすると、これは1,000株について750株と250株に分けて、それぞれの株式をを兄弟で単独所有する趣旨なのか、1,000株全体について兄弟で持ち分比率 各3/4、1/4で準共有するものなのか区別がつきません。

この点が単純な分数的割合で遺言書に書いた場合の注意点になります。兄に750株、弟に250株を相続させたい場合は、分数的割合の前に「株数で」相続させる旨を明示する必要があります。


( 株式を株数の割合で相続させたい場合の遺言書の書き方 )

これまでの検討の結果、次のような遺言書の書き方が良いことになります。

第○条 遺言書は、遺言者の有する三菱商事株式会社 (銘柄コード8058) の株式について、株数で長男山田太郎(昭和〇年〇月〇日生)に4分の3を、次男山田次郎(昭和〇年〇月〇日生)に4分の1を相続させる。この場合において、端数が生じた場合は全て長男山田太郎に相続させる。


(まとめ)

相続財産に株式がある場合は、遺言書の書き方に注意が必要となります。その1の例にあるような書き方の遺言書が世の中ではよく見受けられます。株式発行会社による株式の増減がなければ良いのですが注意が必要です。


また、非上場会社のオーナーが自社株の承継先として遺言書を作成する場合は、株式の準共有について注意して書かないと、相続発生時、自社株の承継で兄弟間で相続争いになりかねません。注意してもらいたいと思います。

 

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