「法定相続分と異なる割合」で相続させたい場合、遺言書でどのように書くのですか

遺産相続を行うにあたって、相続人が複数いる場合、各相続人の相続分は法律の定めによって決まっています。これを「法定相続分」といいます。例えば、夫が亡くなって相続人が妻と子供2人の場合は、妻の法定相続分は相続財産の2分の1、2人の子供の法定相続分は、それぞれ4分の1となっています。


一方、遺言者は生前に「法定相続分」の定めにとらわれることなく自由に各相続人の相続分を定めることができます。これを「指定相続分」といいます。指定相続分を定めるには、必ず「遺言書」に書いて行わなければなりません。遺言書に書いた指定相続分と法定相続分が異なる場合は、指定相続分が優先します。

簡単に言えば、遺言書に書いておけば法定相続分に関わらず、本人の希望で相続分を決めることができるということです。但し、完全に自由に決められるかというと各相続人には「遺留分」という権利があるので、その点には注意が必要になります。


遺言書において具体的な相続分の指定方法としては、通常、次のような文言で書きます。

(遺言書例1)

……

第××条 遺言者は、別紙財産目録記載の財産について、下記のとおり相続分を指定する

               記

妻  (昭和○年○月○日生) 5分の3
長男 (平成○年○月○日生) 5分の1
長女 (平成○年○月○日生) 5分の1

……  

相続分の指定は、通常、遺産全体に対する分数的割合で表現されます。分数的割合で指定された相続分を基準にして、具体的な相続財産については、相続人全員で「遺産分割協議」を行って「誰がどの財産をいくら相続するか」を決めます。

相続財産が銀行預金だけの場合、分数的な割合が指定されていれば、自動的に各人の相続金額が決定できます。しかし、相続財産には、不動産や宝石、貴金属や書画骨董など色々なものがあります。単に「指定相続分」の割合だけ示されても相続財産を特定することができません。


そのため、相続人全員で遺産分割のための協議が必要になるのです。このとき「指定相続分」の割合が分割を考える上での基準となります。

このように遺言書で「指定相続分」を定めても相続人全員による遺産分割協議が必要になります。遺言書に指定しておけば面倒な遺産相続手続がなくなると思って相続分を指定した遺言書を書かれる場合がありますが、勘違いされていることが多いと思います。

そこで、このような面倒を避けるために、通常は「相続分の指定」ではなく「遺産分割方法の指定」を行います。遺産分割方法の指定とは「誰がどの財産を相続する」かを遺言書で指定する方法です。


具体的には、次のような遺言書の文言になります。

(遺言書例2)

……

第××条 遺言者は、別紙財産目録記載の不動産について、妻(昭和○年○月○日生)に相続させる

第××条 遺言者は、下記銀行預金を長男(平成○年○月○日生)に相続させる
○○銀行△△支店 定期預金 口座番号12345

第××条 遺言者は、下記銀行預金を長女(平成○年○月○日生)に相続させる
○○銀行△△支店 普通預金 口座番号98765           

……


このように遺産分割方法の指定をしておけば、遺産は本人が亡くなったと同時に各相続人が相続したものとなります。当然、遺産分割協議の必要はありません。遺産分割方法の指定である旨を明確にするために遺言文言の語尾は「相続させる」とします。

ところで、この「遺産分割方法の指定」方式が遺言書としてはポピュラーになっているため、遺言文言の語尾を「相続させる」とするものが多くなっています。そのため、前半で説明した「指定相続分」の趣旨である遺言書で次のように「誤って」書かれているものがあります。

(遺言書例3)

……

第××条 遺言者は、別紙財産目録記載の財産について下記のとおり相続させる

               記

妻  (昭和○年○月○日生) 5分の3
長男 (平成○年○月○日生) 5分の1
長女 (平成○年○月○日生) 5分の1

……

「相続させる」旨の遺言と「相続分を指定する」遺言では、効果の上で差異があります。「相続させる」旨の遺言で指定された財産は、相続開始の時から、遺産分割協議を経ることなく指定された相続人に移転します。

法定相続分の割合ではなく、本人が希望した「指定相続分」の割合で相続を行ってほしい場合は、遺言文言の語尾は「相続分を指定する」と書く必要があります。この点は注意が必要になります。

もっとも過去の裁判例を見ると、「相続分の指定」と書かれていなくとも遺言書全体の趣旨を勘案して「相続分の指定」と判断された例もあります。しかし、いつでもそのように判断される保証はありません。「相続分の指定」や「相続分を指定する」等の文言を書いておくことがより安全となります。


(まとめ)

法律の専門家が作成支援した遺言書は、本人の反対がない場合は、通常、遺産分割方法を指定した遺言書を作成します。つまり、「相続させる」遺言です。この方が本人が亡くなった後の遺産相続手続が簡単に行えるからです。

ところが、本人が作成する自筆証書遺言の中には、相続分を分数的な割合で指定している場合が時々見られます。この場合は、語尾の文言は「相続分を指定する」等の表現にして頂くことが必要になります。ご注意願います。

 

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