「生前贈与」を活用した「節税対策」が難しくなるようです

2023年度の税制改正大綱が政府、与党で議論されていますが、この中で節税対策として広く活用されている「暦年贈与」に大きな影響を与える改正が検討されています。暦年贈与とは、贈与税の年間非課税枠110万円を活用して、毎年110万円ずつ贈与していくことです。10年間贈与を継続すれば1,100万円分の財産を非課税で贈与することができることから相続税対策としても広く利用されている仕組みです。


子供などに毎年贈与を繰り返していけば、その分相続財産の額を減らすことができ、相続税の節税対策として、有力で簡単な方法として広く活用されています。この「暦年贈与」にメスを入れ「暦年贈与つぶし」とも考えられる税制改正が政府、与党で議論されています。

従来より、暦年贈与を活用した相続税対策については、「資産を持っている者と持たない者との間に不公平感があるので、より中立的な税制を構築していく必要がある。」と政府の税制調査会の専門家からも提言が上がっていました。2021年度の税制改正大綱でも相続税・贈与税のルール改正に向けて「本格的な検討を進める。」との一文も入っていました。


このような経緯を経て、今年「暦年贈与つぶし」の税制改正が本格的に議論されることになりました。具体的な変更内容は、2022年12月15日に政府、与党から「相続税・贈与税のルール改正案」として公表される模様です。生前贈与のルール変更は実に65年ぶりとなります。

生前贈与のルール変更は、その可能性が高い事を見越して、既に「駆け込み的な生前贈与」が増えていました。税理士の先生が前倒し活用を積極的に推奨していたことがあるかもしれません。

(予想される制度の改正内容)

今回の改正は、「生前贈与」の非課税枠を廃止したり減額したりするものではありません。従来通り「暦年贈与」を行うことができます。つまり、従来の制度を大きく変更するものではない体裁を取っています。しかし、実際には「暦年贈与」を活用した相続税対策に対して大きな影響を与えるものとなっています。

贈与と相続の関係については、もともと、亡くなる直前に贈与をして相続税から逃れることを防ぐために「持ち戻し」という制度を設けていました。「持ち戻し」とは、相続開始3年前以内の贈与については、相続財産に加算して相続税を計算するというものです。つまり、亡くなる3年前から亡くなったときまでに生前贈与した財産の額は、亡くなった方の相続財産にカウントして相続税を計算するというものです。このルールは1958年度の制度改正で作られました。


今回の制度改正は、この「持ち戻し」の3年という期間にメスを入れるものです。政府の税制調査会は、この期間を現行の3年から5~10年に延長すことが妥当であるとする見解を示しました。そして、今回発表される予定の政府、与党案では、持ち戻し期間「7年」とする方向で調整が進んでいるようです。

(改正案の影響)

亡くなる10年前から毎年110万円の暦年贈与をしていた場合、従来は1,100万円の贈与額から亡くなる前3年分の330万円を控除した770万円の相続財産を減らすことができました。今回の改正によって、亡くなる前7年分の770万円が控除され330万円の相続財産しか減らすことができなくなります。

上記計算例は、贈与を受ける推定相続人などの1人についてのものですので、贈与を受ける方が複数人いれば金額は複数倍となり影響は大きくなります。


今回の改正が成立すれば、「暦年贈与」による相続税対策を活用するには、できるだけ早い段階から、つまり亡くなる7年より前に贈与が完成するようにしなければならないことになります。相当早い段階から暦年贈与を開始していくことは、財産を贈与する本人の財産が早い段階から減っていくことになり、難しい場合があるかもしれません。

また、暦年贈与以外の教育資金などの一部の贈与に認められている非課税枠の特例についても、今後の取り扱いが提示される模様です。

今回の政府、与党案が予定通り国会で改正されるかどうかは政治情勢によると思います。しかし、相次ぐコロナ対策や国防費の増額など、政府は財政規律を維持するため、なりふり構わず増税を検討する必要があると思います。従って、恒常的に増税が見込める本改正案は国会を何としてでも通過させる方向になると思います。


(まとめ)

相続税対策を検討されている方は、確定情報を早期に確認する必要があります。税理士ともよく相談してご検討下さい。

 

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