自分の相続分を他人に譲渡することができる「相続分の譲渡」って何ですか
相続人は遺産の相続開始から遺産分割までの間に自己の法定相続分を他に譲渡することができます。これを「相続分の譲渡」といいます。譲る相手は、他の相続人でも第三者でも構いません。また、有償でも無償でも問題ありません。相続分を譲渡した相続人は遺産の相続権を失います。
自分の相続権を喪失する方法として、別に「相続放棄」があります。これとの違いは、相続放棄は亡くなった方の資産と負債の全てを放棄して、相続人としての地位そのものを無くすことてす。一方「相続分の譲渡」はプラスの資産についてのみ譲渡して、マイナスの負債は引続き相続分を譲渡した方が負担します。
それでは、「相続分の譲渡」はどのような場合に使用するのでしょうか。
(「相続分の譲渡」の活用事例 )
◆ 相続争いから距離を置きたい
相続人が多数いて遺産相続について話し合いが行われているが、中々話し合いがまとまらない。自分としては遺産については興味がないので話し合いから早く抜けたい場合があります。相続トラブルに巻き込まれる前に相続人の1人に「相続分を譲渡」して相続争いから離脱するときに使用できます。
◆ 相続人以外の者に遺産を与えたい
例えば、亡くなった方の配偶者が自分の相続分を孫に与えてたいと思うことがあります。亡くなった方の子供は相続人ですが、孫は通常は相続人ではないので相続分はありません。この孫に自分の相続分を譲渡して希望を叶えるときに使用できます。
◆ 相続人の数が多い場合において、遺産を引き継ぐ関係者を少人数に絞りたい
何代にも渡って相続手続をしていなかった場合、いざ相続手続を行おうとすると相続人の数が何十人になることも珍しくありません。全員で話がまとまればよいのですが、まとまらない場合、遺産分割の調停や裁判になります。このとき、相続争いに関わりたくない相続人が主要な相続人に相続分を譲渡して、譲渡を受けた者だけが裁判手続きを行う場合に使用できます。
◆ 自分の相続分を早く現金化したい
相続開始から遺産分割まで通常は長い期間はかからないと思います。しかし、中には急な出費の必要から、自分の相続分を早期に現金化したい場合があります。この場合、他の相続人に自分の相続分を譲渡して現金化する場合に利用できます。
(相続分の譲渡の方法)
相続分を譲渡したい場合は、相続分を譲渡した証として、譲渡する者と譲渡される者で「相続分譲渡証書」(「相続分譲渡証明書」とも言います) を作成します。押印は実印で行い印鑑証明書も添付しておく方が良いと思います。
そして、相続分の譲渡があったことを他の相続人に知らせておくべきです。口頭でも良いと思いますが、後々問題が生じる恐れがあるのであれば、「相続分譲渡通知書」として譲渡されたことを書面で通知しておいた方が良いと思います。
(「相続分譲渡証書」の文例 )
相続分譲渡証書
最後の本籍
○○県○○市○○町1丁目2番地
被相続人
山田太郎 (令和4年12月12日死亡)
私は、被相続人の相続に関しては、私の相続分の全てを下記の者に譲渡する。
譲受人
住所 ○○県○○市○○町3丁目4番地
氏名 山田花子
令和5年1月15日
譲渡人
住所 ○○県○○市○○町3丁目4番地
氏名 山田三郎 印(実印)
※ 税の関係で対価の有無を明確にしたい場合は、「私の相続分の全てを下記の者に無償で譲渡する。」などとします。
(「相続分の譲渡」注意点 )
◆ 先に説明したとおり、相続分の譲渡は「相続放棄」ではないので「債務」は依然として譲渡者に残ります。債務も含めて全てを無くしたい場合は、相続放棄を行う必要があります。
◆ 税が発生する場合があります。相続人以外の第三者に無償で譲渡すれば「贈与税」が譲り受けた者にかかります。有償で譲渡した場合は、譲渡した側に「譲渡所得税」が発生する場合があります。
◆ 相続分を第三者に譲渡した場合、他の相続人が「相続分の取戻し」を行う場合があります。相続分を譲渡された第三者は、相続人として相続手続に参加します。そのため、第三者が相続手続に加わることに反対の相続人は、1ヶ月以内であれば対価を支払って取戻し請求ができます。
◆ 遺言書が存在する場合で、その内容が特定の財産を特定の者に与える内容である場合は、相続分の譲渡はできません。遺言の内容が「誰々に3分の1、誰々に4分の1…」のような相続分の指定が行われている場合は相続分の譲渡ができます。
(まとめ)
実務の世界では、時々使うことのある「相続分の譲渡」ですが、一般の方には馴染みがないかもしれません。しかし、使い方によっては便利なツールとなりますので必要な場合は検討してみて下さい。