相続開始後「遺産分割前に届いた固定資産税の納付」はどうしたらよいですか

親が亡くなり相続財産について相続人の間で遺産分割協議をしている最中に相続財産である実家などの「固定資産税の納付書」が届くことがあります。まだ、実家を誰が相続するか決まっていない状況の中で固定資産税の支払方法で迷うことがあります。納付額が多くなければ、とりあえず相続人の1人が支払うことも多いと思いますが、相続財産が賃貸マンションの場合など納付額が高額となる場合は簡単には処理できないことになります。


( 遺産に関して発生した固定資産税の法的性質について )

遺産に関して発生した固定資産税などの支払は、「遺産の管理費用」として処理することとなります。遺産の管理費用には、固定資産税・都市計画税などの公租公課、親の実家が借地上に建っている場合の地代(賃料)、遺産である建物が雨漏りをした場合などの修繕費や改築費、親の実家の火災保険の保険料などがあります。

親の遺言があったり相続人間の遺産分割協議が早くまとまれば、親の実家などの不動産を相続した者が遺産の管理費用の負担を負うことが多いと思います。しかし、遺産分割協議に時間がかかる場合や管理費用が高額になる場合もあるため、法律的にはどのように処理すべき費用であるかを理解しておくことが必要になる場合もあります。


( 「遺産の管理費用」の取り扱いに関する色々な考え方  )

この問題は「遺産の管理費用が遺産分割協議の対象になるかどうか」を論点として議論されています。つまり、管理費用を相続財産で支弁できるかどうかということです。考え方には諸説があり裁判例も分かれています。

① 遺産分割協議の対象ではないとする考え方

遺産分割協議の対象となる財産は本人が亡くなった時点の財産であると考える説です。遺産の管理費用は本人が亡くなった後に発生したり請求されるものであるので遺産分割協議の対象ではないと考えます。

この考え方によれば、遺産の管理費用は遺産とは別個のものであり、共同相続人の相続分に応じて負担すべきものということになります。相続人の誰か1人が全額支払った場合は、自分の相続分を超える分は他の相続人に支払いを請求できることになります。支払ってくれない場合は法的な手段 (民事訴訟) を考えることになります。

② 遺産分割協議の対象であるとする考え方

遺産の管理費用は、相続に関する費用なのだから相続財産で負担すべきものであるとする説です。この考え方に立てば、遺産分割協議の中で負担者や負担割合を定め、相続財産の中から支払う(清算する)ことになります。つまり、遺産の管理費用は遺産分割協議の対象に含める必要があるということになります。

遺産分割協議の中で合意できない場合は、裁判手続き(家事調停)を申立ててて解決することになります。


( 実務上の取り扱い方法 )

遺産の管理費用については、上記のように相対立する考え方がありますが、実務上は上記①と②の考え方の折衷的な考え方によって処理しています。

③ 折衷的な考え方

遺産の管理費用は、原則として、相続財産とは別個の性質のものであると考えるが、相続人が遺産分割協議での清算に同意しているのであれば遺産分割協議の対象に含めて良いと考えるものです。つまり、原則は①のように遺産分割対象ではないが、当事者が同意しているのであれば②のように遺産分割協議の対象にして良いとするものです。

相続人間で意見の調整がつかない場合は、原則通り、法定相続分による負担となります。支払わない相続人がいれば、別途、民事訴訟手続による解決になるということです。


具体的な段取としては、次のようになります。

「遺産分割協議」で負担方法(清算方法)について合意できる場合は、その旨を遺産分割協議書の中に明示します。この合意内容に従って遺産分割手続きを行います。

◆ 当事者による遺産分割協議での合意が難しい場合は、別途、「家事調停」を家庭裁判所に申し立てて、調停によって負担割合などの合意形成を図ることができます。

◆ 家事調停での調停が不調に終わった場合は、通常は、上位の手続きである「家事審判」手続に移行しますが、遺産の管理費用は相続財産ではないため、家事審判対象にはなりません。従って、審判手続きは行われません。この場合は、別途、民事訴訟を提起する必要があります。

◆ 民事訴訟による請求方法は、負担を支払ったものから、法定相続分を負担すべき者に対して訴訟を提起します。請求の原因は、「事務管理に基づく費用償還請求権」又は「不当利得に基づく返還請求権」ということになります。


( 税務上の取り扱い )

固定資産税を負担した相続人は、その負担額は相続税の課税価格から控除することができます。

また、相続財産が賃貸マンションなどの収益物件の場合は、その年の初日から亡くなった日までの期間に係る不動産収入について、相続人は相続が発生したことを知った日から4か月以内に税務申告を行う必要があります。これを「準確定申告」といいます。

準確定申告で納税が発生した場合は、この負担額も相続税の課税価格から控除することができます。

また、賃貸不動産を相続した場合、亡くなってから遺産分割協議が調うまでの期間に応じた賃料収入は各相続人に法定相続分に応じて帰属することになりますので、各相続人の所得税の確定申告が必要になります。


(まとめ)

親が亡くなって遺産分割手続きが長引いていると、その間に色々な費用負担が発生することがあります。また、逆に収益が発生する場合もあります。このようなとき相続人間で処理方法について争いがなければ、適宜の方法で処理をしても大きな問題にはなりません。

しかし、負担額が大きい場合や負担方法に争いがある場合は法的な処理方法を各相続人が理解した上で話し合いを行ってもらいたいと思います。

負担方法の考え方を前提に話し合いを行って穏便に決着した方が安上がりになります。もめて裁判手続きで余分なコストをかける必要はないと思います。

 

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