相続対策で勧められる「一時払い終身保険」の注意点はありますか
金融機関等で相続対策として「一時払い終身保険」への加入を勧められることがあります。JA共済などでは「一時払い終身共済」と言いますが同じ種類の保険です。生前にまとまった保険料を1回で払い込んでおいて、本人が亡くなったら死亡保険金を相続人などに支払うというものです。
( 一時払い終身保険の仕組み )
一時払い終身保険は、契約時に一括で保険金を支払い、本人が亡くなった時に保険金を受け取れる保険商品です。受取人を相続人に指定しておけば「相続税の非課税枠」が利用できるため相続税の節税対策になります。
通常の生命保険は、毎月少しずつ保険料を支払います。保険料を支払っている途中で亡くなれば生命保険金として約定された保険金が支払われることになります。一方、一時払い終身保険は、最初にまとまった金額を支払っておくものです。
最初に支払う金額は、数百万円程度を支払うことが普通です。相続税の非課税枠が相続人1人について500万円利用できるため、500万円とすることが多いと思います。なお、実際に支払う金額は500万円を下回る金額になります。契約時の本人の性別と年齢によって支払金額が変わります。
例えば、60歳男性の場合、500万円の保険金額の場合、一時払いの金額は495万円程度になります。(女性の場合は491万円程度) 495万円支払えば500万円支払われることになります。 500万円との差額が運用益と考えることもできます。通常の生命保険のように毎月5,000円保険料を支払っていたら、3年目に病気で亡くなり3,000万円の生命保険金が下りたというような保険ではありません。
また、掛け捨ての生命保険では、毎月3,000円づつ満期まで掛けていても保険事故(死亡等)がなければ1円も支払われません。一方、一時払い終身保険は掛け捨てではないため必ず支払われる保険です。
つまり、一時払い終身保険は、生命保険という形態をとっていますが、残された扶養家族などへの保証を目的とした保険ではなく、資産運用や相続税対策のために活用される保険ということができます。
なお、一時払い終身保険には、保険会社などによって様々な商品バリエーションがあります。
一応、生命保険ですので「健康告知」の必要なものと不要なものがあります。健康告知が必要なものは、契約直後から支払った保険金以上の保険金が支払われるものが多いと思います。相続税の節税対策で利用する場合は、健康告知が不要のものを選択すれば良いと思います。
また、保険金について「円建て」「外貨建て」の区別があります。外貨建で行う場合は、利回りが高いものが多いですが、為替リスクが発生しますので慎重に考えるべきです。相続税の節税対策で使用する場合は、「円建て」が無難だと思います。
( 一時払い終身保険の相続税の非課税枠について )
生命保険による保険金は法律上は相続財産ではありません。生命保険契約で指定された「受取人」の固有の財産と考えられています。亡くなった方にかけられていた生命保険の保険金ですが、法律的には、生命保険契約により受取人に給付された受取人の財産という位置づけになります。
つまり、本人の死亡によって相続人に「相続」された財産ではないということです。その結果、自宅不動産や預貯金・株式などについては相続財産になりますので、相続人全員で遺産の分割協議を行います。しかし、生命保険金については遺産分割協議の対象になりません。本人が亡くなった瞬間に受取人の財産になっているということです。
しかし、一般に生命保険金は高額なことが多いため、これを相続財産に含めないと相続税の課税上問題 (又は不公平)になります。そこで、生命保険契約によって支払われた生命保険金は、法律的には相続財産ではありませんが、相続税の課税の観点では、これを相続財産に含まれることにしています。これを「みなし相続財産」といいます。
◆ 相続税の非課税枠は次の計算式で求めます。
3,000万円+600万円×相続人の数
例えば、夫が亡くなって相続人が妻と子供2人の場合は、次の算式により相続税の非課税枠は4,800円となります。
3,000万円+600万円×3人= 4,800万円
相続財産の合計価格が4,800万円を超えれば相続税の申告義務が生じるということです。
そして、この相続財産には生命保険金も「みなし相続財産」として含めて計算する必要があるということです。しかし、それでは本来的に相続財産ではないものを課税する形に見えます。そこで、緩和策として「生命保険金に対する相続税の非課税枠」を設けています。
◆ 生命保険金に対する相続税の非課税枠は次の算式で求めます。
500万円×相続人の数
先ほどの例で、夫が亡くなり相続人が妻と子供2人のケースで、子供2人に500万円の生命保険を掛けていた場合の相続税の非課税枠は次のとおりとなります。
3000万円+600万円×3人=4,800万円 (通常の非課税枠)
500万円×2人=1,000万円 (生命保険の非課税枠)
合計で5,800万円までの相続財産であれば相続税が非課税となります。
( 一時払い終身保険のメリット )
- 相続税の節税対策になります。
現金や預貯金で1,500万円相続すれば、1,500万円が相続財産となり相続税の計算がなされます。あらかじめ相続人3人を受取人にして一時払い終身保険を500万円ずつ掛けておけば、保険金1,500万円は非課税扱いになります。
この点が一時払い終身保険の最大のメリットとなります。
- 遺産分割方法として利用できます。
相続財産の分割方法は、本人が生前に遺言書を作成していなければ、相続人全員による「遺産分割協議」で決めることになります。このとき、本人が財産を相続させたい者を一時払い終身保険の受取人に指定しておけば、相続財産を生命保険金の分だけ特定の相続人により多く割り振ることができます。
遺産分割協議でもめそうな場合は一時払い終身保険をうまく活用して円満に分割することができる場合があります。また、一時払い終身保険の保険金は遺産分割協議をしなくても支払われますので、資金が早く手元に届きます。
( 一時払い終身保険の注意点 )
① 相続税の非課税枠に余裕のある場合は検討する必要はありません
相続財産の額から考えて相続税の非課税枠の中に収まっている場合は、積極的に検討する必要はありません。金融機関から勧められても、相続財産の評価額を十分に確認した上で検討することになります。
金融機関の勧めに安易に乗ることは避けるべきだと思います。相続税の非課税枠を超えることが分かっている場合は、話を聞く意味はありますので情報収集して下さい。
② 今後の生活に余裕のある範囲で保険契約する
生命保険の非課税枠があるから全部使わないと損だと考えて、相続人1人に対して500万円を契約してしまうと今後の生活において資金不足に陥る可能性があります。生命保険に利用できる金額については、今後の生活設計を十分考慮に入れて考える必要があります。
一時払い終身保険に限らず、金融商品は一般的に途中で解約すると「元本割れ」をする恐れがあります。当初想定された運用利回りが得られないだけでなく解約ペナルティが定められていることが多いため、場合によっては元本割れも生じてしまうのです。
③ 「契約者」、「被保険者」、「受取人」の定め方には注意が必要になります
生命保険契約では、保険を契約して保険料を支払う人(「契約者」と言います)、保険の対象となる人(「被保険者」と言います)、死亡保険金を受け取る人(「受取人」と言います)を誰にしているかによって課される税金が異なってきます。
「相続税」がかかると思っていたところ、より税率の重い「所得税」や「贈与税」がかかってしまうことがあります。この点は十分に注意が必要になります。
◆ 具体的には、次のようになります。
契約者 被保険者 受取人 税金種類
本人 本人 子 相続税
子 本人 子 所得税
妻 本人 子 贈与税
つまり、本人が被保険者を「本人」にした上で契約し、受取人は子や妻などの相続人を指定しておけば、より税率の低い「相続税」の対象とすることができます。
妻が夫のために契約し、子供を受取人に指定すると「贈与税」の対象となり高額の贈与税を支払わなければならなくなります。
保険商品を契約する時、保険会社の担当者から税金の説明があり不利益になることは少ないと思います。しかし、税金に関する基本的な事柄は理解しておいた方が良いと思います。
疑問点があれば担当の方に質問をして、十分納得して契約する必要があります。
(まとめ)
相続対策として活用する「一時払い終身保険」は大変魅力的な保険商品だと思います。相続税の申告が必要な方は検討する価値があります。
疑問点などがある場合は、相続税に詳しい税理士や相続に詳しい司法書士などに相談して下さい。