共同相続人の一部が「所在不明」の場合どうすれば良いですか

令和6年4月1日より「相続登記の義務化」が開始されました。義務化の範囲は過去の相続分についても適用されるため長年名義変更の登記をせずに放置してある不動産も対象になります。相続登記の義務化を受けて、いざ登記を行おうとして相続人を調査したところ、相続が数代に及ぶことがあり相続人の数も何十人に広がっている場合があります。そうすると相続人の中には「所在不明の者」が含まれることがあり、どのように対処すべきか悩むことになります。


( 所在不明の者がいる場合の従来の対処方法 )

相続人が誰であるか不明の場合や相続人は判明しているが現在の所在が不明の場合、相続手続に必要な遺産分割協議ができないことになります。この場合の従来の対処方法は「不在者財産管理人」を裁判所で選任してもらった上で不在者財産管理人が所在不明相続人の代理人として遺産分割協議に参加して相続手続を進めていました。

不在者財産管理人は今回の相続に関係のない方で適性のある方であれば親戚の叔父さんでも選任されることになります。適任者がいなければ弁護士や司法書士などが裁判所によって選任されます。

ところで、不在者財産管理人による相続手続きは使い勝手の良くない点がありました。それは不在者財産管理人は不在者の代理人としての立場から、不在者に相続手続で不利になるような対応をすることが難しいということでした。即ち、不在者の法定相続分に相当する財産は不在者が相続できるようにしなければならないということです。

例えば、相続する土地について、他の相続人は話し合いの結果、亡くなった方の長男の山田太郎さんが相続することに同意していても、不在者財産管理人としては不在者の法定相続分は主張せざるを得ないのです。その結果、他に目ぼしい財産がなければ、その土地は山田太郎さんと不在者の共有として相続されることになります。

所在不明者と共有になった土地は、将来的に管理や運用が難しくなるため極力回避したいところです。しかし、亡くなった方の相続財産で他に法定相続分に見合う財産がなければこのような結果になります。

もちろん、運用の便法として「帰来弁済」という方法があります。これは、不在者の法定相続分に見合う財産(金銭等)を共有者の1人が保有し、不在者が帰来したときに支払うという約束を遺産分割協議の中で行って、土地については山田太郎さんの単独所有とする方法です。しかし、全てのケースでこの方法が認められるわけではなく、法定相続分に見合う財産が一定額以下 (100万円程度) の場合に限られるものと思われます。

このように不在者財産管理人による相続手続には、一定の限界があります。


( 共有に関する新しい制度の創設 )

令和3年の民法改正により、不動産が数人の共有に属する場合に共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき、一定の要件の下で、所在不明共有者の持分を他の共有者が取得できる手続きが新設されました。

共有に至った経緯として相続に伴う「遺産共有」の場合もこの手続きを使用することができます。つまり、多数の相続人のうち一部の者の所在が知れないとき、その者の共有持分について一定の手続きを踏めば他の相続人が取得できるということです。

具体的には、相続による遺産共有者の中に行方不明者がいるため10年以上遺産分割協議ができない場合について、共有者は裁判所の決定を得て、所在不明相続人の不動産の持分をその価格に相当する金銭の供託をすることによって取得することができるようになります。

相続開始から10年以上経過している事という条件は付いていますが、この制度を活用すれば、相続される土地などの不動産について特定の相続人の単独所有とすることも可能になるということです。

この制度のことを「所在等不明共有者持分取得制度」と言います。

※ 尚、この制度に類似する制度として「所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与制度」も合わせて新設されています。よく似た制度ですが、こちらは共有不動産について所在不明者の持分を他の相続分と合わせて他人に譲渡することができる制度です。


(「所在等不明共有者持分取得制度」の流れ )

本制度の簡単な流れを説明します。

(1) 共有者による裁判の申立て

不動産の所在地を管轄する地方裁判所に共有者が請求の申立を行います。 

(2) 裁判所による公告

裁判所は持分取得の請求があった旨と異議があればその旨を届け出るようにとの内容で公告を行います。

(3) 裁判所による知れている共有者への通知

裁判所は他の判明してる共有者に対して公告した事項を通知します。

(4) 裁判所による供託命令

裁判所は持分取得決定をするために、持分取得決定の請求した共有者に対して、一定の期間内に所在等不明共有者のために裁判所が定める額の金銭を供託所に供託するよう命じます。供託金額は、申立人が取得する共有持分の時価相当額を裁判所が定めます。

(5) 裁判所による持分取得決定

裁判所は供託が実施されたことを確認して、所在不明共有者の持分を取得させる決定を行います。これによって、不在者の共有持分を含めて相続人が単独で相続することができます。


( 制度利用上の注意点 )

◆ 今回のケースのように「遺産共有」である不動産についてこの制度を利用する場合は、前述したとおり相続開始から10年 を経過していることが必要になります。これは共同相続人の遺産分割上の権利に配慮したものです。

但し、今回問題としている相続登記が長年放置してあるケースの場合は、既に10年は経過していることが多いかと思います。

◆ 持分取得決定の請求があった不動産について、裁判による「共有物分割請求」または「遺産分割請求」があり、かつ、知れている共有者から持分取得決定への異議が出されると裁判所は持分取得決定をすることができません。他の手続が先行している場合は注意が必要になります。


(まとめ)

何代にも渡って相続手続を放置してあると相続対象の不動産は数多くの相続人の共有 (遺産共有) 状態になります。相続人の数が増えれば所在の不明となる相続人も出やすくなります。

戸籍や住民票を手掛かりにして相続人を探しても所在が分からない場合は、今回説明した新しい制度も選択肢の一つになります。所在不明者の共有持分相当額を金銭で供託することによって他の相続人に取得させてしまうのです。

新しい制度なので利用する場合は弁護士や司法書士などに相談して下さい。

 

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