「相続登記の義務化」が令和6年4月1日より開始されます。登記されていない方は早めに司法書士に相談下さい

親が亡くなり相続が発生したら「相続財産」について「相続手続」を行います。相続財産には自宅などの不動産や預貯金、株式・投資信託や生命保険など色々なものがあます。預貯金や生命保険金などの「金融資産」は現金化できるため、相続人の間で関心が高く、亡くなってから比較的早い段階で相続手続が行われます。


ところが、自宅などの「不動産の名義変更」手続  (これを「相続登記」といいます)  については、関心が金融資産ほどはありません。理由は色々と考えられますが、次のようなことが考えられます。

① 金融資産と違ってすぐに現金化できる財産ではない。
② 配偶者や長男、長女が継続して親の自宅に居住する場合、何もしなくても不便はない。
③ 自宅の名義変更(相続登記)は、手続きが複雑で自身で行うことが面倒である。
④ 司法書士に依頼しても良いが税金も含め費用がかかるので、とりあえず後回しにしておく。

このように色々な理由があると思います。 また、相続登記が「義務」なのか「任意」なのかを知っている方はほとんどいません。また関心もありません。単に相続登記を積極的に行おうとする意欲が少ないことが多いのです。


都市部の不動産であれば、土地の評価額が高額なこともあり、相続人としても誰が相続するかについて関心が高いと思います。相続開始後10か月以内に申告が義務付けられている「相続税」の心配もあります。そのため、都市部の不動産の相続登記は比較的早い段階で行われます。しかし、相続税の心配のない場合は、相続登記への関心は低くなりがちになります。

当事務所に相続登記を依頼される方を見ていると、亡くなって1~2月で依頼される方と亡くなってから数年から10年程度経ってから依頼される方に分かれます。相続手続に関心の高い方は、比較的早く相続登記を行う一方、登記に関心の薄い方は相当な年月が経過してから依頼に来られます。

亡くなってから10年程度であれば、比較的問題なく相続登記手続を行うことができます。しかし、何代も放置してある場合は簡単には処理できないことが多くなります。田舎の山林などで明治時代から放置されている場合など大変なことになる場合があります。

一般的に人々の不動産登記に関する関心はどのようになっているのでしょうか。


( 不動産登記に関する普通の方のの関心度合 )

世の中を見ると不動産の登記にあまり関心のない方が多いと思います。自宅などの不動産の登記簿 (「登記事項証明書」) を登記所にわざわざ出向いて取得し、中身について確認している方は少ないと思います。

住宅ローンの関係などで登記簿を取得する場合もありますが、手続きは不動産屋や銀行などにお任せで中身をしっかり見ることはないと思います。また、見ても良く分からないと思います。

不動産登記の関係で司法書士事務所に訪ねてこられる場合、「権利証」などの関係書類が封筒などに「ごちゃごちゃ」っと一式入っていて、本人も何が何だか分からない状態で保管されています。権利証などの中身をしっかり確認されている方は少ないと思います。

こんな状態の中で「相続登記の義務化」が開始されます。


( 令和6年4月1日施から始まる「相続登記の義務化」の背景 )

不動産登記には、知らない方も多いと思いますが2種類あります。不動産の「表示の登記」「権利の登記」です。不動産の「表示の登記」とは、表題登記とも言いますが、不動産の物理的な形状を公示するための登記です。

土地であれば、所在場所や地目(宅地か畑かなど)、面積などを登記します。建物であれば、建物の種類・構造や床面積などです。この不動産の表示の登記は昔から義務化されています。

例えば、建物であれば新築後1か月以内の登記が義務化されています。なお、登記しても不動産の物理的な形状が登記簿に公示されるだけで、登記所から「権利証」のようなものは何も頂けません。

もう1つの登記が「権利の登記」です。権利の登記は、その不動産の権利関係を公示する登記です。「所有者は誰か」「どのような経緯で取得したか」「担保に入っているか」などを公示します。こちらの登記は所有者(共有者含む)や担保権者などになった方には「権利証」(現在は「登記識別情報」と言います)が発行されます。

今回の「相続登記の義務化」は、この「権利の登記」の一部である「相続登記」について義務化が開始されるというものです。つまり、権利の登記全体が義務化される訳ではありません。

不動産を売買すると「所有権の移転登記」を行います。住宅ローンのために不動産に抵当権を設定すると「抵当権設定登記」を行います。これらの登記は「権利の登記」ですが、義務化されません。しかし、義務化されていなくても、通常は登記されます。当事者の権利の保全のためには登記が必要だからです。買ったり担保に取った自分の権利を確保するために登記が必要になるからです。


ところが、権利の登記の中で「相続登記」については、この権利保全の関心が強くないため登記がされない場合があるのです。今回この相続登記について義務化がなされるのです。義務違反に対しては、10万円以下の罰則(過料)の適用も予定されています。

先ほど述べた「表示の登記」にも同じような罰則規定があります。しかし、表示登記を怠っても罰則の適用があったケースはあまり聞いたことがありません。

家の増改築をされる方も多いと思います。増改築をすれば、建物の形状に変更が発生しますので、建物の「表示登記」を変更する必要があります。しかし、表示登記まで変更される方は少ないと思います。このようなケースを含めて表示登記の罰則適用について、当局は極めて緩やかに運用しているようです。

一方、今回義務化される相続登記については、厳しめに運用されるものと思われます。これは、相続登記の義務化の理由が、現在、社会問題化している「所有者不明土地問題」や「空き家問題」の対策にあるからです。一説によれば、所有者不明の土地の合計は九州に匹敵する面積に達するほど存在するとのことです。政府はこの問題の解決のために精力をつぎ込んでいますので、罰則の適用もより厳格に運用していくことが予想されます。


( 相続登記義務化の具体的内容 )

相続登記の義務化の内容は、詳しく言うと色々な事柄がありますが、詳しいことを述べても興味がないと思いますので、ポイントのみお示しします。詳しい内容は、お近くの司法書士にお尋ねください。

(1) 新制度の開始日は令和6年4月1日からです。

(2) 相続が発生したら3年以内に不動産の相続登記を行う必要があります。

3年の起算日について、細かい事柄がありますが、大まかに相続発生後3年以内と考えてもらえは良いと思います。

(3) 過去(令和6年4月1日以前)に発生した相続についても全て登記する必要があります。

登記をしない場合の罰則の起算日にも細かい点は色々ありますが、令和6年4月1日からと考えて頂いて良いと思います。つまり、明治、大正、昭和などの時代に亡くなった方も令和6年4月1日から3年以内に相続登記を行う必要があるということです。

 


(4) 法定相続分で法定相続登記を行った場合は、「遺産分割協議」が終わったら3年以内に相続登記を行う必要があります。

色々な事情から、相続発生後、民法の定める法定相続分で、一旦、相続登記を行う場合があります。これを「法定相続登記」と言います。法定相続登記を行った後、遺産分割協議を行って不動産を相続する方が決まった場合は、遺産分割協議後3年以内に相続登記を行う義務が発生します。

(5) 期限までに相続登記をすることが難しい場合は、「相続人申告登記」で罰則の適用について「待った」をかけることができます。

相続登記は、関係相続人の協力があれば比較的スムーズに行うことができますが、遺産分割協議でもめていたり、相続人の数が多数に渡り協議に時間がかかる場合があります。このようなとき3年の期間では手続きが難しい場合があります。

このような場合は「相続人申告登記」を行うことによって、罰則の適用を回避することができます。

「相続人申告登記」とは、相続人が自分の戸籍などを登記所に提供することによって、申告者が亡くなった方の相続人の1人であることを公示する登記です。登記自体は登記官が職権で行ってくれます。亡くなった方の不動産の所有者欄に相続人の1人として住所氏名が登記されます。

申告は全ての相続人がそれぞれ行う必要があります。相続人の1人が代表して全ての相続人の戸籍等を揃えて申告することもできます。申告した方は罰則の適用が回避されます。

但し、相続人申告登記は相続登記ではありませんので「権利証」は発行されません。できるだけ速やかに遺産分割協議を成立させて相続登記を行った方が良いでしょう。相続人申告登記を行っただけでは不動産の相続人が依然不明のままだからです。


(まとめ)

「相続登記の義務化」が、来年いよいよ開始されます。世間の関心はあまり高くないと思いますが、徐々に広報活動も広がってくると思います。

相続登記の義務化と言われても不動産登記自体にほとんど興味のない一般の方にとっては「何のこと?」レベルの話になる可能性もあります。

法が施行される令和6年4月1日以降に相続が発生する場合は、新法に従って対応できると思います。問題はこれまで何十年も放置してある未登記の不動産です。

何十年も放置してある不動産の相続登記は非常に難しい場合があります。司法書士でも大苦戦するケースが多いと思います。できるだけ早めに司法書士に相談することを強くお勧めします。

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