「相続放棄」って何ですか

親が亡くなって相続人の間で財産分けをするとき、「相続放棄」という言葉が使われることがあります。「父親が残した土地建物などの財産は兄が相続して、私は相続放棄しました。」などのフレーズで使われることがあります。日常用語としての「相続放棄」は、「相続でもらえる分をもらわなかった」という意味で使われます。これは日常用語としては正しい使い方だと思います。


ところで、相続で承継する財産には、土地建物や預貯金などのプラスの財産以外にマイナスの財産、つまり借金も含まれます。最近は、田舎の土地建物については「負動産」と称して相続したくない場合もありますが、そのような場合は、土地建物も心情的にはマイナスの財産になるかもしれません。いずれにしても、プラスの財産ばかりではないということです。

親が亡くなって遺産分けをするときは、あまり借金などことは考えずに目に見える財産の分割方法に話の重点が置かれます。結果として、「私は相続人としてもらえる権利があったけれど、今回の相続では兄に財産を譲って、私は相続放棄することにしました。」という言い方になります。


つまり、日常用語の相続放棄とは「もらえる財産を他の相続人に譲る」意思表示であり、具体的には、兄が全ての財産を相続することを記した遺産分割協議書などの書面に相続人として署名して実印を押すことになります。なお、相続放棄という文言は、押印する遺産分割協議書等の書面には通常書かれていません。


ところで、これと対照となる法律用語としての「相続放棄」は、上記で述べた日常用語としての相続放棄とは異なっています。相続人としてもらえる財産を他の相続人に譲るという意味ではありません。法律用語としての「相続放棄」は、ごく簡単に言えば、今回の相続について「初めから相続人でなかった」ことにしてもらう裁判手続きです。

初めから相続人でなかったわけですから、プラスの財産はもとよりマイナスの借金も一切相続しないことになります。そのため、この「相続放棄」手続は、借金問題の解決手段として活用されます。親に借金問題がない場合は、「相続放棄」手続を考えることは通常ありません。

親が残した親の借金は、親か亡くなれば配偶者や子などの相続人に全て引き継がれます。「親の借金だから自分には関係ない」という理屈は通用しません。そうは言っても、親の残した多額の借財を子などの相続人が負担しなければならないのは、さすがに可哀そうだと考えた法律は、借金が免除できる制度を用意しました。それが「相続放棄」手続です。

従って、「相続放棄」手続は、借金の免除という効果が裏側に含まれていますので、安易に認めることは、親などにお金を貸していた人に大きな迷惑がかかります。そこで、「相続放棄」手続は、安易にこれを認めるのではなく、家庭裁判所がその成否を慎重に判断する手続とされています。


そのため、「相続放棄」は、認めてもらえる要件が厳格に定められています。具体的には次の通りとなります。(次の3つの要件を満たすことが必要です。)

自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に管轄の家庭裁判所に申し立てなければならない。(これを「申述」といいます。)

通常は、親などが亡くなって3か月を経過している場合は、相続放棄できなくなります。借金の存在を知ったタイミングなど事情がある場合は、3ヶ月を過ぎていても認められる場合がありますが、簡単には認めてもらえません。


相続開始後一定の行為をすると相続放棄は認めてもらえません。

相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことにりますから、相続人ならできる行為をすることができなくなります。代表的な行為としては、相続財産の「処分」行為です。

相続財産の処分行為といっても色々な形態が考えられます。「相続財産を消費した、売却した、贈与した。」などは代表的な行為となります。

注意が必要になる行為として次のものがあります。

・価値ある財産を形見分けした。
・「遺産分割協議」を済ませた。
・株を相続して、株主総会で株主として権利を行使した。
・遺産である家屋を取り壊した。

これらに該当しても絶対に相続放棄が認められないわけではありませんが、「処分行為」に当たるとして簡単には認めてもらえないと思います。

相続人が相続放棄をした後、相続財産の全部又は一部を隠したり、消費したり、財産目録にわざと記載しなかった場合も相続放棄を認めてもらえません。

相続財産のうち価値あるものなどを隠して、財産目録にも書かずに相続放棄手続を行って、それが発覚すれば相続放棄は認めてもらえません。


実際に手続を行う場合の相続放棄の簡単な流れは次の通りです。

1.相続放棄申述書を作成する。
申述書のひな形は、家庭裁判所のホームページなどから取得することができます。

2.相続放棄申述書に添付する添付書類を作成・収集する。
亡くなった方や相続人の戸籍謄本や住民票などの書類が添付書類として必要になります。必要な書類についても家庭裁判所のホームページから確認することができます。

3.相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する。
提出先の家庭裁判所のことを「管轄」裁判所といいますが、管轄裁判所は、原則として、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

4.家庭裁判所からの照会に答える。
家庭裁判所の裁判所書記官から申述内容について照会があります。通常は、質問事項や確認事項が記載された照会状が郵送されてきます。その照会状に回答する形で対応することになります。必要な場合は、電話や出頭して回答が必要な場合もあります。

5.相続放棄の申述が受理される。
相続放棄について家庭裁判所が問題ないと判断された場合は、家庭裁判所より申出人に対して「相続放棄申述受理通知書」が郵送されます。借金をしている債権者に対して、この通知書を送付すれば、債権者は請求してこなくなります。

6.必要な場合は、相続放棄申述受理証明書を取得する。
債権者によっては、相続放棄申述受理通知書ではだめで、「相続放棄申述受理証明書」を要求してくる場合があります。この場合は、家庭裁判所に請求すれば証明書を発行してくれます。郵送されてくる相続放棄申述受理通知書の封筒の中に請求方法などが記載された紙も同封されていると思います。

なお、相続放棄申述受理通知書(又は相続放棄申述受理証明書)は、亡くなった親に不動産があれば、不動産の相続登記にも使用します。親の残した不動産は相続放棄しなかった相続人が相続するからてす。原本を債権者に渡してしまうと使用できなくなります。必要な場合は、相続放棄申述受理証明書を複数枚請求しておく必要があります。


(まとめ)

「相続放棄」と世間でよく言われますが、意味内容についてよく確認する必要があります。借金問題への対応としての「相続放棄」であれば、時間的な制約が発生しますので、早急に手続準備を進める必要があります。また、相続財産の処分行為など、行ってはいけない行為もありますので、慎重に確認しながら進める必要があります。


親が亡くなると行うべき行事や手続が目白押しになります。気が付けば1~2か月程度はあっという間に過ぎています。そのような中、不慣れな「相続放棄」手続を3ヶ月という期限内にご自身で行うことは、大変であると同時にリスクも発生します。

ご自身で手続きできる自信があれば良いのですが、相続放棄については弁護士や司法書士に任せた方が安心できる場合が多いと思います。

 

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