親が介護施設に入所した場合、「空き家」となった実家の処分で考慮することはありますか

高齢となった親が老人ホームなどに入所した場合、親の住んでいた実家が「空き家」となる場合があります。配偶者や子供と同居していれば空き家とはなりませんが、高齢の親が一人で住んでいた場合は空き家となります。子供などの親族がこの空き家の処分を考える時の考慮点について考えてみます。


空き家の処分を「相続前」と「相続後」のどちらのタイミングで実施するのが良いのでしょうか。それぞれにメリットや注意点がありますので慎重に検討する必要があります。

「相続前」に売却処分を検討する場合のメリットは、次の通りです。

(1) 居住用財産の3,000万円 特別控除が受けられる。

親が施設に入所してから3年以内(※1)に売却処分する場合、譲渡所得について3,000万円の特別控除が受けられます。不動産を売却すると「売ったときの値段」から「買った時の値段」を引いたものが「譲渡益」となり課税されます。この譲渡益に対して3,000万円までは非課税になる特例があり、これを活用することができます。(※1) 空き家にしてから3年目の日が属する年の年末まで

(2) 10年を超えて自宅を所有している場合の軽減税率が適用される。

親が自宅に10年以上(※2)居住していた場合は、譲渡益に対する税率が軽減されます。譲渡益のうち6,000万円までについては所得税10.21%、住民税4%の合計14.21%の税率が適用できます。6,000万円を超える場合は、所得税・住民税合わせて20.315%の税率が適用されます。税率が細かいのは、復興特別所得税が加算されているからです。(※2) 売却した年の1月1日時点の所有期間が10年を超える場合

なお、上記(1)(2)のメリットの適用や併用可否などについては、細かい条件があるため税理士などの専門家に確認する必要があります。


相続前に売却処分する場合の注意点は、次の通りです。

(1) 親の意思能力に問題があれば、家の売却を行うことが難しくなる。

実家の売却とは不動産の売買契約ですので、親の意思能力に問題があれば契約締結が難しくなります。親が介護施設などに入所する場合、認知機能がある程度低下している場合が多いと思います。認知症と診断されていなくとも自宅の売却行為を正しく認識して契約締結できる保証はありません。


認知症と診断されている場合は、本人による売却行為は難しくなります。この場合、親族が代わって売却行為を代理することはできません。通常は、「成年後見人」の選任申立てを家庭裁判所に行います。家庭裁判所によって選任された成年後見人が本人に代わって売却行為を行うことになります。


成年後見人が選任されるのに数か月必要になりますし、申立費用や成年後見人に対する報酬も必要になります。また、成年後見人は自宅の売却については、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。成年後見人の一存では契約行為をすることができません。

(2) 老人ホームなどから戻る場所がなくなる恐れがある。

老人ホームや「サ高住」、介護施設などによっては入居条件として「要介護状態でないこと」が定められている場合があります。この場合、要介護状態になったとき退所しなければならないことがあります。施設を退所せざるを得ないときは帰る自宅がないことになり路頭に迷う恐れがあります。


次に「相続後」に売却処分を検討する場合のメリットは、次の通りです。

(1) 相続税について「小規模宅地等の特例」を受けることができる場合がある。

小規模宅地の特例とは、相続時における土地の評価額を大きく下げることのできる特例です。評価を下げることで相続税の額を引き下げることができます。この特例も適用条件が色々あって難しいのですが、簡単に言えば、「亡くなった親と一緒に住んでいた実家の土地を相続した場合、330㎡までは土地の相続時の評価額を80%減額する」というものです。

今回のケースでは、親は独居の設定となっていますので適用できないように見えますが、「親との同居」については、緩和条件があり「亡くなった親に配偶者も同居人もいない場合、3年間借家住まいの相続人が実家の土地を取得」すれば適用されることになっています。これを「家なき子特例」といいます。

つまり、一人暮らしの親が亡くなった場合でも、3年間以上借家暮らしの相続人の1人が実家を相続すれば適用されることになります。都市部の相続税は高額な土地の評価額で高くなっていますが、これを8割引きしてもらえる特例は活用の余地があります。

(2) 親の意思能力には左右されない。

親は既に亡くなっており、親の実家は相続財産となり相続人が相続することになります。実家を売却するのは相続人であるため売買契約に支障は生じません。


「相続後」に売却処分する場合の注意点は、次の通りです。

(1) 「居住用財産の3,000万円 特別控除」「10年を超えて自宅を所有している場合の軽減税率」が受けられない。

前者は、制度の適用対象ではないため特例の適用は受けられません。後者は、相続した時点で空き家のため適用されません。

(2)  親の相続が発生するので「相続手続」が必要になる。

相続人によって「遺産分協議」を行って実家の相続人を定める必要があります。相続人間で遺産相続についてまとまらないと手続きが進まなくなる恐れがあります。


親の空き家を売却することに相続人間で異存がなければ、相続人の1人が相続して売却し売却金を各相続人に分配すことが考えられます。この場合は、遺産分割協議書の書き方に注意が必要です。上手く書かないと売却金の分配について贈与税が発生する恐れがあります。それを避けるために各相続人の共有として相続し、共有相続人全員が売却することも考えられます。この場合は、相続人全員が売却に関与しなければならないので面倒となります。

また、相続税対策として借家暮らしの相続人がいれば、この方が相続した後に売却した方が節税になります。先ほど述べた「小規模宅地の特例」を「家なき子」として適用し相続税の節税を図るものです。

なお、遺産分割協議が相続人間で円満に調整できそうもない場合は、親が元気なうちに「公正証書遺言」を作成して相続時の取扱い方法を明確化しておくことも考えられます。


なお、平成28年の税制改正で「相続等により取得した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除」制度が創設されています。これは、古い建物で耐震基準を満たさない建物の耐震化の促進を目的として税制面からの支援制度として創設されました。制度の目的が耐震化促進ですが、3,000万円の特別控除が活用できるのであれば活用したいところです。

平成28年4月1日から令和5年12月31日までの時限措置であり、適用条件が厳しいので、今回のケースでは一般的には適用は難しいと思いますが、条件をクリアすれば3,000万円の控除が受けられます。

具体的には、以下の適用条件を満たした上で、耐震基準を満たしていない古い建物を壊して更地を譲渡するか、古い建物について耐震基準を満たすように耐震リフォームしてから譲渡する必要があります。(耐震基準を満たしていればリフォームは不要。マンションは対象外です。)

但し、下記適用条件の①「被相続人居住用家屋」中で、最初の条件「相続開始直前に被相続人の居住用家屋であったこと」がありますので、今回の「親が老人ホームなどに入所している場合」は適用が難しくなります。親が老人ホームと実家を行き来しており、生活拠点が実家にあると認められないと適用は難しくなります。

<適用条件>

① 被相続人居住用家屋  
・相続開始直前に被相続人の居住用家屋であったこと
・相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建築物を除く)
土地等
・相続開始直前において「被相続人居住用家屋」の敷地の用に供されていた土地等であること
対象者
・相続により「被相続人居住用家屋」及びその敷地の用に供された土地等を取得した個人であること
④ 適用期間
・平成28年4月1日から令和5年12月31日までの譲渡であること
譲渡期限
・相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること
⑥ 譲渡対価限度額
・譲渡対価の額が1億円を超えるものを除く


(まとめ)

親の「空き家」を売却する場合、考慮すべき点が多くあります。税務面や法律面の検討が必要になるため、相続に詳しい税理士や弁護士、司法書士、不動産業者に確認して手続きを検討されることをお勧めします。

 

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