遺言書の「不動産の記載」に一部誤りがある場合、登記はできますか

遺言で自宅などを相続させようとして自筆で遺言書を作成する場合があります。遺言書で相続させる不動産を特定しようとすると地番や地目など細かな情報を遺言書に書かなければなりません。このとき建物の住所や土地の面積などを誤って書いてしまうことがあります。このような誤記のある遺言書で相続登記を行うことができるかどうか不安になります。

今回は、遺言書の記載が誤っていた場合の登記手続きについて見ていきます。


( 遺言書は厳格な要式が要求されます )

遺言書は民法で定められた一定の要式に従わなければならないとされています。遺言書の有無は相続手続きにおいて重要な前提問題となります。また、遺言書については、偽造や変造、破棄や隠匿などの相続人による不正行為の発生も考えられます。

遺言書に基づいて相続手続きを執行する段階では遺言者は既に亡くなっています。遺言書の内容について疑義が発生しても本人に確認することはできません。遺言の記載内容の疑義の発生を少なくするために遺言書には厳格な要式が定められているのです。

自筆証書遺言は、偽造変造などを防止するために「全文自書」で書く必要があります。また、「本人の署名」「捺印」も必要になります。遺言書は作成後、気が変わって新たに別の遺言書を作成することができます。より新しい日付で書かれた遺言書が優先されるため、遺言書には「作成日」の記載が必須になります。

なお、最近の法改正によって相続させる「財産目録」などの情報については自筆で書かなくてもよくなりました。しかし、遺言書の本文は全て本人が自筆で書く必要があります。

遺言書に定められた厳格な要式を満たしていない場合、遺言書は原則として無効になります。


( 不動産登記の審査 )

不動産登記を登記所に申請すると登記官が登記申請の内容を審査します。遺言書による不動産の相続登記を申請する場合、遺言書が登記原因証明情報となるため、その内容が法令に適合しているか審査されることになります。

ここで登記官が遺言書の内容が法令に適合していないと判断すれば登記申請は却下されることになります。そのため、遺言書の内容に一部誤りがある場合、登記官の判断によって登記申請が認められるか却下されるか決まることになります。

登記官は、遺言書の記載に関する過去の登記先例や裁判例などを参考にして判断しています。


( 遺言書の日付の誤り)

自筆証書遺言の作成日について、作成「年月」の記載はあるものの「日」の記載のないものについて、登記先例では、その方式を欠き、自筆証書遺言として無効と考えられるため、登記申請は受理できないとされています。例えば、「令和7年7月」とが「令和7年7月吉日」などの書き方です。

一方、自筆証書遺言に書かれた作成日が真実の日付と異なっている場合について、最高裁判所は『自筆証書遺言に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付の誤りは遺言を無効とするものではない』としました。

このケースでは、昭和48年秋に死亡した者が、同年夏の入院中に作成した自筆証書遺言について、日付の年を昭和28年としたものでした。昭和48年であることは明らかであるため昭和28年の記載を単なる誤記と認め遺言書を有効としました。もちろん、故意に日付を遡らせるような行為をすれば無効になります。

 


( 遺言書の氏名の一部誤り)

遺言書に書かれている者の氏名が一部相違している場合があります。登記実務上、公正証書遺言の受遺者の氏名が、住民票の記載と一部相違する場合であっても、住所、生年月日が符合する場合で、市区町村長発行の不在証明書の添付があり、同一性が確認できるのであれば受理されるとされています。

また、公証人が誤記を認めれば、公証役場で「誤記証明書」の交付を受けることができる場合もあります。これを登記の申請書に添付すれば登記の申請は受理されます。


( 不動産の所在住所の相違 )

遺言書の建物の住所の記載が「住居表示」で記載されている場合があります。不動産の所在は、通常、不動産を確実に特定できるように不動産登記簿に記載されている「地番」による表示方法で記載します。

ところで、住所を表す方法には、「地番」と「住居表示」の2通りの方法があります。日常生活では住居表示の住所を使用します。「地番」は法務局が定めた表示方法で、「住居表示」は市町村が定めた表示方法です。

地番は土地一筆ごとに割り振られている固有の番号のことで、法務局(登記所)が定めた住所です。一方、住居表示は「住居表示法」という法律に基づいて市町村が定めた住所です。

遺言書で不動産の住所を特定するときに、普段使い慣れた住居表示の住所で書くことがあります。この場合は、比較的簡単に地番に置き換えることができるので、同一性の証明は可能であると思います。同一性の証明ができれば登記申請は受理されると思います。


( 不動産の面積の相違 )

遺言書に書かれている不動産の面積について登記簿に記載されている面積と相違している場合があります。登記申請にあたっては、面積は完全に一致することが原則として必要です。しかし、例えば、数字の記載1つに相違があるに過ぎず、その他の記載事項については登記事項と完全に一致しているような場合は、登記申請が受理される可能性があります。

もちろん、最終的には登記官の判断になりますが、他の資料 (相続人全員による上申書)と合わせて受理されることもあるかと思います。

しかし、面積の相違が誤記ではなく、当該不動産の一部を相続させる趣旨と考え得る場合は、登記申請は受理されない可能性が高くなります。登記官としても面積の相違が単なる誤記なのか不動産の一部を相続させる趣旨なのか判断がつかないケースの場合は、その登記申請は受理されないと思われます。


( まとめ )

せっかく遺言書が書かれていても不動産の表示方法に誤りがあると登記申請が受理されない恐れがあります。特に、自筆証書遺言の場合は、本人の勘違いによる誤記が発生する場合があります。

登記官が単なる誤記と判断してくれれば良いのですが、内容によっては申請が受理されないリスクが高くなります。

安全性を考える場合は、遺言書の内容を事前に司法書士などの専門家にチェックしてもらう必要があります。心配な方は公証役場で公正証書で作成することをお勧めします。せっかく作成した遺言書が無駄にならないようにしてもらいたいと思います。

 

 

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