「遺産分割協議」が相続税の申告期限に間に合わない場合はどうしたら良いですか
相続税の申告は亡くなってから10か月以内に行う必要があります。葬儀や初七日、四十九日などの法要や市町村役場などへの各種届出に追われていると10か月は過ぎていきます。相続人の間で相続について分割の合意が取れている場合でも余裕のあるスケジュールではありません。相続人の間で遺産相続について合意が簡単に取れない場合は相続税の申告期限に間に合わないことになります。
今回はこの問題について見ていきます。

( 相続税の申告は全ての相続で必要かどうか )
まず、前提知識としての話です。
相続税の申告は全ての相続について必要なものではなく、一定の金額を超えた相続財産がある場合についてのみ必要なものです。この一定の金額のことを相続税の「基礎控除額」といいます。基礎控除額は「3000万円+相続人1人につき600万円」です。相続人が3人であれば、3,000万円+600万円×3人=4,800万円で、相続財産が4,800万円以下であれば相続税の申告は必要ありません。
実際に相続税の申告が必要なケースは、全体の1割程度と言われています。都市部の場合は、土地の価格が高いためもう少し割合は高くなりますが、それでも申告が必要な方はそんなに多くはありません。つまり、10人に9人は相続税は関係ないのです。
まずはこの点を理解した上で話を進めます。

( 相続税の申告期限に間に合わないとどうなるか )
相続税の申告期限までに申告を行わなければ、「無申告加算税」や「延滞税」が発生することになります。延滞税などの税率は、納期限からの期間などによって変わります。詳しい内容は税理士に確認が必要ですが、大まかに言えば、年14.6%の税率が課されます。
また、これ以上に注意が必要な点は、相続税の負担を軽減するための各種特例の適用が受けられなくなる点です。代表的な特例としては、「配偶者特例」と「小規模宅地特例」があります。
配偶者特例とは「相続税の配偶者控除」のことです。配偶者が相続した財産が1億6,000万円以下なら相続税が課税されないという制度です。また、仮に1億6,000万円を超えた場合でも「配偶者の法定相続分」までであれば課税されないという制度です。
次に「小規模宅地特例」とは、ごく簡単に言えば、亡くなった人が自宅として使っていた土地を配偶者か亡くなった方と同居していた親族が相続した場合、土地の相続税評価額を8割引きにするという制度です。適用要件が細かく分けられているため、具体的なケースごとの適用可否や割引額などについては税理士に確認する必要があります。
このように相続税の申告期限に間に合わないと相続税の負担が増えることになります。特に、各種特例の適用が受けられない場合、期限内に申告していれば特例が適用がされて相続税がゼロとなるケースについて、特例が受けられないために重い相続税を負担となければならない場合が生じます。

( 相続税の申告期限に間に合わない場合の対処方法 )
相続税の申告期限までに「遺産分割協議」の合意の目途が立たない場合は、「未分割」として相続税の申告を行います。この場合は、各種特例の適用は受けられません。各相続人の相続割合は「法定相続分」で相続したものとして申告します。
この場合は、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。これを提出しておけば、3年以内に遺産分割協議が成立できれば、各種特例の適用を受けることができます。
つまり、一旦、法定相続分で相続したものとして相続税額を計算して納付するのです。特例の適用がないため、より高額の相続税を収めることになります。その後、遺産分割協議が成立すれば、「更正の請求」を行います。その結果、特例の適用を受けることができ、払い過ぎた相続税の「還付」を受けることができます。
なお、「申告期限後3年以内の分割見込書」には、「分割されていない理由」や「分割の見込みの詳細」、「適用を受けようとする特例等」について記載する必要があます。税理士とよく相談して記載する必要があります。

( 不動産の相続登記についても3年以内という期限があります )
相続税の申告期限以外にも相続した不動産の名義変更 (「相続登記」) についても亡くなってから3年以内という期限が設けられました。(令和6年4月1日施行) こちらのペナルティは延滞税などではなく「10万円以下の過料」となっています。
相続した自宅などの不動産について遺産分割協議でもめていて3年以内に決着できない場合は対応方法を検討する必要があります。
対応方法としては、「相続人申告登記」を行う方法と「法定相続分で相続登記」する方法があります。
「相続人申告登記」とは、自分が故人の不動産の相続人の1人であることを登記所に申し出ることで、相続登記の義務を履行したものとみなす制度です。相続登記の義務化と同時に開始されています。申告には申出書に戸籍や住民票を添えて行います。申告は個人単位なので相続人が3人いればそれぞれが申出る必要があります。
但し、相続人申告登記は、罰則の適用を回避するための便宜的な措置であるため、その後相続登記を遺産分割協議などを行って実施する必要があります。相続人申告登記だけで放置すれば、登記名義は亡くなった方のままであり、相続手続きが未完了の状態が続くことになります。

別の対応策である「法定相続分で相続する」とは、法定相続分で相続登記を行って、時間をかけて遺産分割協議を継続して行うというものです。3年の期限に惑わされて納得のいかない遺産分割協議にならないように、時間をかけてじっくり話し合うという方法です。この登記は正式の相続登記ですので罰則の適用はなくなります。
例えば、相続人が長男、長女、次男の3人の場合、一旦、不動産の名義を「長男1/3、長女1/3、次男1/3」として共有名義で相続登記します。その後の話し合いの結果、長女が相続することに決まった場合は、「所有者 長女」に登記を更正します。
従来は、この「更正」という扱いが登記手続上できなかったため、より費用負担のある「移転登記」で処理をしていました。最近の登記運用制度の改正により、「更正」の取り扱いが認められるようになったため、より費用負担の少ない方法で登記することができるようになりました。( 「遺産分割による更正登記」といいます)

( まとめ )
相続に関する申告期限や届出期限は色々あります。戸籍や住民票関係、健康保険関係、年金関係など色々あります。中でも問題になるのが「相続税の申告期限」です。そして令和6年4月1日からは「相続登記の3年期限」です。
期限内に遺産分割協議が円満にまとまれば問題ないのですが、相続人の間でもめてしまうと間に合わないことになります。また、「期限があるから遺産分割協議を早く合意する必要がある」とすることは問題があります。期限は期限として重要ですが、遺産分割協議をいい加減に合意しては後々相続人間に遺恨を残すことになります。
期限が間に合わない場合の回避策も意識したうえで相続人間の納得のいく遺産分割協議を実施してもらいたいと思います。


