「相続」や「遺産分割協議」の対象にならない財産はありますか。

親が亡くなって相続が開始したとき、亡くなった親の所有していた全ての財産が相続対象になるのでしょうか。また、その中で遺産分割協議の対象にならない財産があるのでしょうか。

今回は、相続を考える上で前提となる「相続対象性」「遺産分割対象性」について考えてみます。少し抽象的な話になりますが重要な話なので説明します。


( 「相続対象性」と「遺産分割対象性」とは )

相続は「包括承継」と言われています。「包括」とは「ひっくるめて1つにまとめること」とされています。簡単に言えば、相続は亡くなった方の財産を1つにまとめて承継(相続)することです。つまり、1つにまとめる段階で取捨選択があるのです。相続開始時に被相続人(亡くなった方)が所有していた全ての財産が承継(相続)されるわけではないのです。このことを「相続対象性」と言います。相続は「相続対象性」のある財産のみが対象になるとされています。

また、相続対象性のある財産であっても遺産分割を必要とする財産のみが遺産分割の対象となります。このことを「遺産分割対象性」と言います。つまり、相続対象性のある財産全てが遺産分割協議の対象になるわけではないのです。

また、本来は遺産分割の対象でない財産であっても、これを遺産分割の対象とすることができる場合もあります。なかなか難しい話なのです。

 


( 「相続対象性」についての具体例  )

相続対象性がないものとして「一身専属財産」と「祭祀財産」があります。

「一身専属」とは、権利や義務が特定の人に専属し他の者に移転しないという性質のことです。つまり、一身専属財産は相続によって相続人に移転しない権利や義務ということです。

一身専属とされる権利には、「婚姻費用請求権」「扶養請求権」「生活保護の保護受給権」「親権者の地位」「公営住宅の使用権」などがあります。従来は、離婚などによる「慰謝料請求権」も一身専属権とされていましたが、現在では相続可能な財産であることに変更されています。また、離婚による元配偶者の「財産分与請求権」も請求後は相続可能な財産になるとされています。但し、扶養的な要素については判断が分かれています。

「祭祀財産」とは、系譜、祭具及び墳墓のことです。簡単に言えば、仏壇、仏具やお墓などのことです。こちらも相続対象性はありません。慣習に従って、祖先の祭祀を主宰する者がこれを承継します。被相続人が遺言書で祭祀承継者を指定することもできます。

仏壇の中には高価なものもありますが、祭祀財産といってよいとされています。仏像は原則として祭具にあたります。「純金の仏像」はどうかという問題がありますが、その由来や相続財産に占める価値の割合など個別に判断する必要があります。純金の「おりん」がデパートなとで販売されていますが、こちらは由来はないと思いますので相続財産に含まれる可能性が高くなると思います。


( 「遺産分割対象性」について )

相続対象となる財産であっても、遺産分割を要しないものは、遺産分割の対象から外れます。遺産分割対象性が認められるためには、次の4つの要件が必要とされています。

遺産分割協議が必要な相続財産とは、①被相続人が相続開始時に所有し、②遺産分割の時点で存在し、③未分割の、④積極財産であること、です。①③④は理解しやすいと思います。②は意外と思われる方もいると思います。順番に見ていきます。

(1) 被相続人が相続開始時に所有

 被相続んが亡くなった時点で所有していた財産が遺産ですので当然のことです。

(2) 遺産分割の時点で存在

遺産分割の対象となる財産は遺産分割の時でも存在する必要があります。存在しなければ分割できないからです。至極当然のことのようですが、色々なケースで問題となります。

まず、「遺言書がある場合」です。遺言書は遺言者が亡くなった時点で効力が発生します。そのため、遺言書に「自宅は長男に相続させる」と書いてあれば、自宅の所有権は遺言者が亡くなった瞬間に長男の所有になります。従って、遺産分割時点では相続財産としては存在しないことになります。つまり、遺産分割の対象にはなりません。遺言とよく似た「死因贈与契約」の場合も同様となります。

問題となるケースは、「相続開始後、遺産分割前に処分された財産」についてです。これも遺産分割の時点で存在しませんので遺産分割の対象になりません。この点が最も重要になります。

相続後の処分の例としては、「相続不動産の相続人の法定相続持分を第三者に譲渡する」「相続財産である預金を払い出して使ってしまう」などが考えられます。他の相続人の同意を得ず勝手に行う場合と同意を得て行う場合がありますが、逸失した財産は、どちらも遺産分割の対象になりません。

他の相続人の同意を得ずに勝手に相続財産を処分した場合について、自分の法定相続分を超えるような処分は他の相続人に対する権利侵害となります。この場合は処分した相続人が任意に償還しなければ「民事裁判」で返還請求する必要があります。つまり、遺産分割手続きから離れて、別途、民事裁判で解決しなさいということです。

勝手に預金などを払い出して使ってしまった相続人が任意に返還してくれない場合は裁判が必要という扱いは、他の相続人にとって厳しいものがあります。そこで、民法の改正が行われました。

平成30年の民法の改正で相続開始後に処分された財産について、処分した相続人以外の相続人の同意により、処分された財産(の価値)を遺産分割の対象とすることができるようになりました。逸失した財産は存在しないのですが、あるものとして遺産分割をします。処分した相続人の相続分として逸した財産の価値を割り当てる形になります。結果として、処分した相続人の取り分はゼロになることがあるのです。

但し、この取り扱ができるのは、処分した相続人以外の相続人全員の同意が必要になります。1人でも同意しなければ適用できません。原則通り、民事裁判での決着となります。


(3) 未分割

遺産分割は分割されていない財産について行うものですので当然と言えば当然です。問題となるケースは、「一部分割」の場合です。遺産の一部について遺産分割を行った場合の取り扱いです。一部分割済みの残りは遺産分割できるのかという問題です。

相続財産が多岐に渡るため、とりあえず一部についてのみ分割協議する場合があります。また、遺産分割協議が完了した後で新たな遺産が発見される場合があります。色々なケースで遺産分割が一部となる場合があります。

従来は、一部分割について有効かどうかで疑義がありましたが、平成30年の民法改正で一部分割が正式に認められるようになりました。一部分割が行われた残りの財産は未分割ですので遺産分割の対象になります。この点は疑義がなくなりました。

注意点としては、「可分債権」は未分割財産ではないため、遺産分割の対象にならないことです。可分債権とは、性質上分割可能な債権のことです。例えば、貸金債権や損害賠償債権などがこれに該当します。

亡くなった方が友人に100万円貸していた場合、その債権100万円は相続人が2人であれば、当然に各50万円と分割できますので遺産分割の対象になりません。この点が注意点となります。

なお、預貯金などの多くの金融資産は可分債権で、上記の考え方によれば、当然、遺産分割の対象にならないように見えます。しかし、最高裁判所の判例によって、遺産分割の対象とされていますので注意が必要です。最高裁判所は、これら金融商品の法的な性質から遺産分割の対象になるとしています。金融機関の従来からの取引慣行を重視したように考えられます。


(4) 積極財産

遺産分割の対象は積極財産 (プラスの財産) のみであり、消極財産 (マイナスの負債)は遺産分割の対象にはなりません。

被相続人が多額の借金を負っている場合、相続人の中で最も財産のない者が遺産分割協議で借金の全てを引き受けると債権者が不測の損害を被るからです。借金は法定相続分の割合に従って当然に分割され各相続人が引き受けることになります。

つまり、100万円の借金は、相続人が2名であれば、各50万円を当然に負担することになります。遺産分割協議の余地はないことになります。


(まとめ)

遺産分割協議は相続が発生した場合、遺言書がなければ、必要になります。そして、遺産分割協議について相続人間に争いがない場合は、今回お話しした「遺産分割対象性」については気にする必要はありません。相続人全員が同意するのであれば、同意内容に従って遺産分割をすることができます。

しかし、相続争いが発生して遺産分割調停や裁判(遺産分割審判)などに発展する場合は、相続対象性や遺産分割対象性などが議論の前提とされます。特に、遺産分割対象性の(2)要件である「遺産分割の時点で存在」は重要な論点になります。

遺産分割に対する議論の進め方を理解しておけば、遺産分割調停などの裁判手続きにおいて裁判所の考え方が理解しやすくなると思います。今回の話は、裁判の前提知識として理解しておくと良いと思います。

 

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