「ペット遺言」が静かに広がっているようです
愛犬や愛猫などのペットを飼う方が増えています。最近は、ペットがより快適に暮らせるようにするためのサービスが色々と考案され提供されています。ペットを長く買っているとペットは家族同然の存在となり、亡くなれば葬儀やお墓を準備される方も増えています。
ペットに愛情を注がれる方が増えている一方で、飼い主が高齢の場合、ご自身が亡くなった後のペットの世話について不安に考えている方が多くなっています。家族や親戚で面倒を見てくれる方がいれば問題ないのですが、そのような方がいない場合心配の種になります。
ご近所や友人の中にペットの面倒を見てくれそうな方がいる場合、自分が亡くなった後のペットの世話を託したいが、どのようにしたら良いかというご相談もあります。世話をして下さる方に確実に世話を任せる代わりに、一定のお礼もしたいと考える場合もあります。
このようなときに頭に浮かぶのが「ペット遺言」です。ペット遺言と言ってもペットに財産を相続させることは、わが国の法律ではできません。財産を相続できるのは人に限られているからです。その代わり、ペットの世話をして下さる方にペットの世話を託すと同時に、相続財産を与える遺言書を作成することができます。これが「ペット遺言」てす。
「ペット遺言」は、通称ですので、法律に則して言えば、「負担付遺贈」ということになります。遺贈とは、遺言書によって財産を贈与することです。負担とはペットの世話をすることです。つまり、遺言された方が亡くなったとき、飼っていたペットの世話をする見返りに一定の財産を贈与するという遺言書となります。
少し詳しく言えば、負担付遺贈は、遺言書によって遺言者 (ペットを飼っていた方) が受遺者 (遺言者が亡くなった後ペットの世話をして下さる方) に対して遺産の全部又は一部を無償で譲与する代わりに、受遺者に一定の法律上の義務を負担させる遺贈です。
通常、負担の内容は、ペットのためにどのようなことをすればよいのか分かるように、負担内容を遺言書で具体的に定めておきます。「ペットの飼育、その埋葬、供養」など記載しておくことになります。
なお、遺言は遺言者が一方的に作成することができます。そのため、受遺者としては、これを受けるか否かの選択権があります。遺言内容が気に入らなければ、これを自由に放棄することができます。そのため、遺言書を作成するにあたっては、受遺者に十分に説明をして、遺言書について了承を得ておくことが必要になります。
また、受遺者において財産の遺贈を受けたものの遺言書に書かれたペットの世話をしない心配もあります。通常は、親身に世話をして下さる方が多いと思いますが、どうしても心配な場合は、遺言書において「遺言執行者」を別に指名して、遺言執行者にペットの世話を確認してもらうことも可能です。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有しています。ですから、受遺者が遺贈された財産を取得しながら、負担であるペットの世話をしなければ、遺言執行者の権限として、相当の期間を定めて受遺者に対して、ペットの世話を求めることができます。期限内に世話をしなければ、家庭裁判所に対して遺言書の負担付遺贈の部分の無効を請求することができます。
なお、遺言書の内容として、ペット自体の飼い主の変更も記載しておきます。ペットは動物ですが、人ではないため、法律的には「物」扱いとなってしまいます。ペットを飼われている方にとっては感情に反すると思いますが、ご理解頂く必要があります。その結果、ペットは所有権の対象となる財産となるため、持ち主の変更が必要となります。
以上の説明をもとに「ペット遺言」の文例をご参考に載せておきます。
遺言書
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第×条 遺言者は、遺言者の有する以下の財産を、遺言者の友人 山田花子(昭和〇〇年〇月〇〇日生 住所 : 東京都新宿区□□□□‥‥ )に遺贈する。
(1) 愛犬 ジョン (犬種 〇〇、雄、〇歳)
(2) 〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 123456
第×条 山田花子は、前条記載の財産の遺贈を受ける負担として、同条(1)記載の遺言者の愛犬ジョンを愛情をもって大切に飼育しなければならない。愛犬ジョンが病気になった場合は、動物病院に受診させるなど必要な看護をしなければならない。愛犬ジョンが亡くなったときは、手厚く埋葬し、供養しなければならない。
第×条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、以下の者を指定する。
司法書士 甲野太郎 (昭和〇〇年〇月〇〇日生 住所 : 名古屋市中区□□□□‥‥)
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ところで、今回ご説明した「ペット遺言」以外にもペットの世話を託せる仕組みとして、「負担付死因贈与契約」や「ペット信託」があります。
「負担付死因贈与契約」は、遺言のように遺言者が一方的に作成するものではなく、世話を頼む者と世話をする者が当事者として「契約」をするものです。双方が納得して契約書にサインする形になります。契約書を公正証書にしておけば、より確実なものとなります。
「ペット信託」は信託契約を締結して、世話を頼む者を信託契約上の「委託者」、世話を管理するものとして「受託者」、実際に世話をする者を「受益者」として、信託契約を締結して、信託行為としてペットの世話を託するものです。
仕掛けとして少し大がかりとなりますが、より確実にペットの世話が期待できる法的スキームとなります。最近流行りの「家族信託」の手法を活用するものです。
(まとめ)
飼い主が亡くなった後のペットの世話について、「ペット遺言」など問題解決のための法律的な仕組みは色々あります。今回ご紹介した「ペット遺言」は、世話をしてくださる方がいる場合は、比較的簡単に組成することができます。
ペットのことで悩まれている方は、遺言や信託などに詳しい専門家にご相談されると良いと思います。