親が亡くなったとき「親の生命保険」の請求で困ることがありますか
高齢の親が亡くなったときや認知症になったとき、親が自分自身にかけていた保険について契約内容が分からない場合があります。最近は高齢者でも簡単に加入できる保険が多数販売されています。認知症に備える保険も発売されています。
公益財団法人「生命保険文化センター」の調査によると2021年の高齢者世帯の生命保険の加入率は次のようになっています。これを見ると高齢世帯の加入率は大変高くなっています。
<生命保険の加入率>
世帯主の年齢 80~84歳 80.2%
世帯主の年齢 85~89歳 67.5%
<医療保険の加入率>
世帯主の年齢 80~84歳 85.3%
世帯主の年齢 85~89歳 92.9%
親が子供と離れて暮らしている場合、親が保険に加入しているかどうか分からないことが多いと思います。親が亡くなった場合は、保険会社からの郵便物や親の預金口座からの保険料の引落履歴などを調べて確認することになります。
生命保険は受取人に指定されている方が請求しなければ受け取れません。生命保険以外でも、例えば入院給付金なども本人が請求しなければ受け取れません。保険契約は請求して初めて給付される契約です。保険会社が気を使って保険事故が発生したら保険金を支払ってくれるものではありません。従って、保険契約の有無や契約内容を知らないと本来もえるべき保険金がもらえないことになります。
( 親の保険契約を調査する方法 )
亡くなった親や認知症を発症した親の保険契約の有無を調査する方法として「生命保険契約照会制度」があります。これは、一般社団法人「生命保険協会」が運営管理している制度です。協会に加盟している42社の保険会社の保険契約有無を調査することができます。
調査の方法は、生命保険協会にオンラインか郵送で親の保険契約の有無確認を申請します。申請されると協会加盟42社の保険会社について契約有無を回答してくれます。但し、契約内容までは開示してくれません。契約内容は、回答があった保険会社に直接確認することになります。申請は1件に付き3,000円の手数料が必要になります。
生命保険の場合、誰が「受取人」に指定されているか確認します。受取人に指定されている方が生命保険金の請求手続きを行えばよいことになります。
( 親の認知症などに対する法的な事前対策 )
入院などに備える医療保険についても保険金の請求は本人が行わなければなりません。家族が代わって行うことは認められていません。しかし、本人が突然の怪我で寝たきりになったり認知症を発症してしまうことがあります。
この場合は本人が保険金を請求したくても手続きを行うことが難しくなります。せっかく契約していても、いざという時に役に立たないことになります。
このような本人の認知症などの発生リスクを恐れて、信頼のおける家族との間で予め「任意後見契約」を結んで対策している方がいます。この場合は、任意後見人が本人に代わって請求手続きを行うことができます。しかし、「任意後見契約」を事前に締結している方は稀だと思います。
任意後見契約がない場合は、家庭裁判所で「成年後見人」を選任してもらい、成年後見人に保険の請求手続きを代理してもらう必要があります。但し、成年後見人は選任やその後の運営に相当程度の費用がかかることから活用に二の足を踏まれる方が多いと思います。
( 保険会社による「指定代理人請求制度」)
コストがかからず保険請求の代理人を指定できる制度があります。保険会社に事前に代理人を届け出ることによって、本人が認知症や寝たきりなど意思表示ができなくなった際、指定された代理人が、本人の代わりに保険金や給付金を請求できる仕組みです。保険会社による「指定代理人請求制度」といいます。
「指定代理人請求制度」は、一部の例外を除いて、おおむねどの保険会社でも代理人を指定できます。コストはかかりません。代理人に指定できる範囲は、配偶者や3親等内の親族と定められている場合が多いと思います。代理人の指定は保険契約時でも契約後でもできます。
代理人のできる行為は保険金などの代理請求だけです。それ以外のことはできません。契約されている保険契約の内容を変更することなどはできません。尚、一部の保険会社では代理人のできる行為を広げた「契約者代理人制度」を取り入れている会社もあります。この場合は契約内容の変更や保険契約の解約もできます。
高齢者の親が保険を掛けている場合は、事前にこの「指定代理人請求制度」を活用して代理人の届をしておくことが良いと思います。
(まとめ)
親と離れて暮らしていると親がどんな保険に加入しているか分からないことが多いと思います。高齢者は家族に迷惑をかけることを嫌って保険に加入していることが多いのです。
高齢者がよく見るテレビコマーシャルでも、高齢者の心理に付け込んで、高齢者でも入れる保険商品を大々的に宣伝しています。この結果、統計数字でも表されている通り、高齢者の保険加入率が高くなっています。
日頃から高齢の親が入っている保険契約の情報は収集しておくことが必要です。そして、指定代理人請求制度の届出がなされていない場合は、早めに代理人届を出しておくことが賢明だと思います。