相続で揉めやすい遺産分割の「不平等」とはどのような場合ですか

親が亡くなって遺産相続で揉(も)めてしまう場合があります。生前仲の良かった親子や兄弟姉妹でも遺産を前にすると態度が豹変することがあります。多くの場合、相続人間の話し合いにより円満に解決できますが、中には「争族」問題に発展するケースもあります。

遺産相続で揉める原因根本の1つは、相続人間の「不平等」があると思います。遺産分割が特定の相続人に特に有利な場合だけでなく、法律の定めに従って一見平等に見える分割方法でも、実質的には「不平等」を感じる場合に争いが生じます。

よくあるケースは次の2つのケースです。

◆ 相続人の1人が親の介護を長年していた場合

例えば、長女が親と同居していて親の介護を献身的に行っていた場合です。親が亡くなって相続が発生した時、法律的には介護に一切関与しなかった長男と献身的に介護をした長女の法定相続分は等しくなります。

親の遺産相続にあたって、長男と長女が等しい分配を受けることになると長女としては納得がいかないことになります。長女としては介護で苦労している時、一切実家に立ち寄らなかった長男が、遺産分割で法定相続分を主張すると怒りが込み上げてしまいます。

◆ 親から多額の生前贈与を受けていた相続人がいる場合

例えば、次女が自宅を建築する時に親から建築資金の大半を援助してもらっていた場合です。長男や長女は親からの援助を受けずに自宅を建てているのに次女のみ援助してもらったようなケースです。

親による子供への資金援助は、自宅の建築資金以外にも結婚式の費用、孫の教育資金、車の購入資金など色々あります。子供は親から色々な援助を受けていることがありますので、トータルすると資金援助が多い相続人と少ない相続人の問題が生じます。

法津的には、このような資金援助のことを「特別受益」と言います。遺産分割の時、特別受益を考慮して遺産分割をすれば公平性は保たれることになります。しかし、その点を考慮することなく法定相続分に従って分配をしようとすると揉めることになります。

また、次のようなケースも「不平等」を感じて揉めることが多くなります。

◆ 夫婦間に子供がいない場合

例えば、山田太郎、花子夫婦に子供がいない場合で夫の山田太郎が亡くなった時です。山田太郎の両親が既に他界していれば、山田太郎の法定相続人は妻山田花子と山田太郎の兄弟姉妹ということになります。

夫の山田太郎が妻の協力を得て長年築いてきた財産を山田太郎の兄弟姉妹に分配することは、妻の花子としては納得がいかないと思います。長年に渡って築いてきた相続財産に対する貢献度が全くない兄弟姉妹に財産を分与しなければいけない「不平等」感を強く感じることになります。

人間は、公平性が保たれている場合、文句を言う人は少ないと思います。自分にとって不平等感が高まった時、納得がいかず文句が出ます。これが遺産相続の場面では揉めることに繋がり「争族」問題に発展することになります。従って、遺産相続についてもこの点を十分考慮する必要があります。

それぞれのケースに応じて次のような事前の対応を行っておくと「争族」に発展する可能性を少なくすることができると思います。

■ 相続人の1人が親の介護を長年していたケースへの対応策

介護を受ける親が長女の労に報いる内容の遺言書を作成します。長女の相続分を法定相続分を超えるものとして作成し、長女の不公平感をなくすようにします。但し、極端な配分とすれば長男の遺留分を侵害しますので一定の配慮は必要となります。

また、遺言書の付言事項で長女の相続分が多くなった理由を遺言者が書いておけば、長男も納得しやすくなると思います。

なお、介護状態での遺言の作成は、遺言者の意思能力の問題がありますので、できる限り認知機能に問題のない早い段階で作成する必要があります。さらに、後日の遺言書の作成能力に疑義が出ないように公正証書で作成することが望ましいです。

■ 親から多額の生前贈与を受けていた相続人がいるケースへの対応策

長男や長女等に色々と生前贈与をしている場合は、その点を考慮した遺言書を作成しておきます。遺言内容は、結論としての遺産の分割方法になりますが、遺言書の付言事項で過去の贈与の経緯や額などを記載して、今回の遺言内容がそれらの点も考慮した結果であることを説明するようにします。

遺言内容が、過去の生前贈与の結果を踏まえた公平なものであることを相続人に理解してもらえるように記載します。

■ 夫婦間に子供がいないケースへの対応策

夫婦間に子供がいない場合は、夫婦のどちらかが先に亡くなっても良いように夫婦それぞれで全財産を相手方に相続させる内容の遺言書を作成します。夫婦それぞれの兄弟姉妹には、法律上、遺留分がありませんので、遺言書を作成しておけば自分の財産は相手方配偶者に全額相続させることができます。

但し、夫婦で遺言する場合は、遺言書は夫用と妻用の2通作成する必要があります。1通の遺言書に共同で作成し署名した場合、原則として無効になりますので注意が必要です。

 

これ以外にも相続に関して「不平等」を起因とした揉め事は色々あります。「長男の妻が夫の親の介護で苦労した場合でも法律的な相続分はない」ことなども紛争の火種になります。(※相続法の改正によって「特別寄与料」制度が創設されましたが、決して満足のいくものとは言えません。)

いずれにしても、できるだけ実質的な公平性を保てるような遺産相続が可能となるような事前の対策を行って、無用な「争族」問題にならないようにしてもらいたいと思います。

 

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