「預貯金の相続手続」は面倒だと聞いていますが本当ですか
銀行預金や郵便貯金など金融資産の相続手続は、意外に面倒で時間がかかります。2019年の相続法の改正によって、葬儀費用等の緊急性のある預貯金の引出しは、正式な相続手続前でも簡単な手続で引き出し(上限150万円)が可能となりました。これにより急な出費には一定程度は対応できるようになりました。しかし、これは仮の対応ですので正式に名義変更するためには預貯金の相続手続が必要になります。
預貯金の相続手続の面倒な点は、各金融機関毎に手続を実施しなければならない点です。各金融機関はそれぞれ独自に相続手続を定めていますので、手続書類も提出資料もそれぞれの金融機関毎に定められています。また、取扱窓口も取引店舗で対応するもの、本部の集中センター(相続センター)で対応するもの、まず電話やインターネットで手続予約を必要とするもの、など色々な形態があります。
このように各金融機関毎に取扱いが異なっているため、手続きを開始する前に各金融機関のホームページを閲覧して手続概要を確認する必要があります。相続手続は、その手順に従って実施していきます。取引金融機関の数や種類が多い場合は結構大変な作業となります。
各金融機関共通で必要となる書類は次の通りです。
① 故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
② 相続人全員の戸籍謄本
③ 相続人全員の実印と印鑑証明書
①の「出生から死亡までのすべての戸籍謄本」により、亡くなった方の相続人を漏れなく確認します。過去に認知した子、養子縁組した子、前妻の子など亡くなった方のすべての相続人の存在を明らかにします。
すべての戸籍を取得するには、最後の戸籍から順にさかのぼって取得していく必要があります。人は生まれてから戸籍を何回も変更しています。生まれたときは両親の戸籍に入っています。結婚して独立すれば新しい戸籍に移ります。引っ越しなどで本籍地を変更した場合も戸籍は新しく作られます。
戸籍は法改正による改製作業があり、改製されると新しい戸籍に作り替えられます。また、戦前の「家制度」の下では、戸籍は「戸主」の下、戸主に従う親族が同じ戸籍に記載されていました。そのため、古い戸籍は多数の親族の中から亡くなった方を特定していく必要があります。
戸籍を取得するには、本籍地のある市区町村役場で「生まれてから亡くなるまでの戸籍」を請求します。生まれてから亡くなるまで、その役場の管轄地以外に本籍を移動したことがない場合は全ての戸籍が取得できます。しかし、通常は、本籍を移動していますので途中までの戸籍しか取得できません。
取得できた戸籍を読み解いて、一番古い戸籍を特定します。その戸籍から、さらに1つ前の戸籍情報を確認して、次の役場に対して戸籍の取得請求をします。遠い役場であれば、郵送で請求をします。請求手続きの詳細は、役場のホームページで確認できます。生まれたときの戸籍にたどり着くまで同様の作業を繰り返します。
古い戸籍は毛筆で書かれていますので解読するのが難しいものもあります。解読以前に文字が判別できないものもあります。また、古い戸籍は旧民法によって作成されていますので、一定の法律知識がないと正確な確認が難しい場合があります。
②の「相続人の戸籍謄本」の収集は問題なく取得できると思います。各相続人の現在の戸籍をそれぞれの本籍地の役場で取得します。本籍地が遠隔地にある場合は、郵送で請求します。
③の「相続人の印鑑証明書」は注意が必要です。最近は、自宅が賃貸の方も増えています。また、自家用車を取得されない方も増えています。そのため、実印の必要がないため印鑑登録をしていない方が多くなっています。また、引っ越し前の住居地で印鑑登録をしていて現在の居住地で登録していない方もいます。相続手続には印鑑証明書が必要になりますので、実印登録がされていない方は至急登録する必要があります。
また、相続手続前に確認して準備しておく事柄は次の通りです。
①「遺言書」の有無確認
遺言書があれば、遺産の相続方法は遺言書の取り扱いが優先されるので確認が必要になります。遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言が自宅などで発見された場合は、勝手に開封せずに家庭裁判所に「遺言書の検認手続」を行う必要かあります。
自筆証書遺言を作成して、「法務局の自筆証書遺言の保管制度」を活用した場合は、法務局に保管有無を確認する必要があります。保管されている場合は、相続人として遺言書の謄本請求を行います。
「公正証書遺言」の場合は、最寄りの公証役場で相続人として公正証書遺言の有無を検索することができます。保管されていれば、遺言書の謄本請求をします。
なお、遺言書の中で「遺言執行者」の指定がある場合は、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書が不要になり、遺言執行者の分のみで良い場合があります。金融機関に確認が必要になります。
② 遺言書がない場合は、「遺産分割協議書」を作成します。
遺言書がなければ、故人の相続財産は相続全員の話し合いで分割することになります。その分割結果を書面に表したものが「遺産分割協議書」です。預貯金の相続手続に限れば、特に作成しなくても相続人全員が金融機関所定の払出請求書などに署名捺印すれば手続はできる場合が多いと思います。この場合の捺印は実印で行い印鑑証明書を添付します。
しかし、預貯金以外に自宅などの不動産がある場合、不動産の相続登記には遺産分割協議書が必要になりますので、通常は相続人全員によって「遺産分割協議書」を作成することになります。
(まとめ)
預貯金の相続手続は結構大変です。平日仕事をしている方などは必要書類を収集するにも苦労することが多いと思います。特に戸籍の収集は大変面倒です。また、古い戸籍は1通750円であるため、故人の戸籍を一通り揃えると郵送費なども含めると数千円かかってしまいます。
これを金融機関分揃えると費用もかかります。金融機関は、通常、手続が完了すれば戸籍等は一式返却してくれる場合が多いと思いますが、1金融機関の手続期間が1か月程度かかる場合、1つの原本を繰り回して使用していると時間がかかってしまいます。
自宅などの不動産の相続登記が必要な場合は、登記を依頼する司法書士に「法定相続情報一覧図」の取得を依頼すれば、相続登記とともに戸籍の原本の代わりとして使用できる「法定相続情報一覧図」を必要な金融機関数分取得してくれます。これを使用すれば、戸籍の原本の代わりに提出することができ大変便利です。
また、最近は不動産登記と合わせて預貯金などの金融資産の相続手続もまとめて名義変更するサービスを「遺産承継」業務として取り扱っている専門家も多くなっています。手続きが大変な方は相談して見ると良いと思います。