「相続登記の義務化」法案が成立していますが、今後どうなるのですか
令和3年4月に「相続登記の義務化」に関する法案が成立しました。現在、社会問題になっている「所有者不明土地問題」の主要な発生原因と考えられている「相続登記の未了」問題を解決するために今回の法律改正が実施されました。
従来、相続登記の申請は義務とはされていませんでした。申請をしなくても相続人が不利益を受けることも少ない状況でした。相続した不動産を売却したり担保に供する場合は、名義変更が必要となり相続登記は実施されました。そのような予定がない場合には、相続登記が実施されないケースも見られました。特に、相続した不動産の価値が乏しく、売却も困難である場合には、費用や手間をかけてまで相続登記をする気になれないことも理由にありました。
令和3年4月の法律改正によって相続登記の申請が義務化されました。具体的には、不動産を取得した相続人に対して、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。正当な理由なくその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることとなりました。
詳しく言えば、基本的な義務として、『相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、自己のために相続開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすること』が義務化されました。
また、追加的な義務として『遺産分割協議が成立した場合は、その内容を踏まえた登記申請をすること』も義務化されました。
相続登記を行うためには、相続人を確定するために亡くなった被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍除籍謄本等の書類の収集が必要になります。登記申請にあたって、このような手続き的な負担が大きいことから、義務化をするに当たって緩和措置も検討されました。
それが、「相続人申告登記」です。相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から新たな登記が設けられました。これは簡単に言えば、正式の相続登記ではないが、とりあえず罰則を受けないようにするために行うものです。相続人のうちの任意の者が自分の氏名・住所等を自分の戸籍謄本を添えて登記官に申し出ることによって、登記官が職権で申出をした相続人の氏名・住所等を登記簿に記載するというものです。
相続人申告登記が施された登記簿をみれば、不動産の現在の所有者は分からないものの、登記簿には申出された相続人の住所・氏名が記載されます。これを手掛かりに関係する相続人を探索することが可能となります。
相続人申告登記の具体的な方法は、①所有権の登記名義人(亡くなった親など)について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を、3年以内に登記官に対して申し出ることで、登記申請義務を履行したものとみなされます。これにより、過料の罰則を回避することができます。
申出を行う相続人は、相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申し出ることができます。他の相続人の分を含めた代理申出も可能となっています。
但し、注意しなければならないことは、この「相続人申告登記」では亡くなった被相続人が所有していた不動産の現在の所有者、つまり誰が相続したか、を確定することはできません。真の相続人を確定するためには、旧来からの「相続登記」を実施する必要があります。
つまり、「相続人申告登記」は、一時しのぎの登記という位置づけになります。相続した不動産を売却したり、担保に供したりするには真の所有者(相続人)が確定していないとできませんので、結局は正式の「相続登記」を実施する必要があるということです。
相続登記は誰がその不動産を相続するのかを具体的に定めなければ申請することができません。通常、遺言書があればその内容に従って、遺言書がなければ相続人全員による遺産分割協議によって、不動産を相続する相続人を定めます。遺産分割協議が相続人間の争いによって難航する場合もありますので、具体的なケース毎に相続発生時の手順を考える必要があります。
相続発生時、罰則を回避する為の具体的な流れは次のようになります。
◆3年以内に遺産分割協議の成立が難しそうな場合 (相続人間で争いの恐れがある場合)
① とりあえず、3年以内に相続人申告登記の申出を相続人のいずれかが行う。
② その後、遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議成立日から3年以内に相続登記を行う。
③ 3年経っても遺産分割協議が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務付けられない。(罰則はかからない)
◆3年以内に遺産分割協議が成立できそうな場合 (相続人間で争いのない場合)
① 3年以内に遺産分割協議が成立すれば、その内容に従って相続登記を申請する。
② 相続人の数が多い、所在不明な相続人がいる、認知症の相続人がいる等、3年以内での協議完了が難しいと判断されたら、3年以内に相続人申告登記の申出を相続人のいずれかが行う。
③ その後、遺産分割協議が成立したら協議成立の日から3年以内に、その内容に従って相続登記を申請する。
◆遺言書がある場合
① 遺言(特定財産承継遺言又は遺贈)によって不動産の所有権を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容に従った登記(相続登記又は遺贈の登記)の申請を行う。
② 罰則回避のためだけならば、正式の登記を実施しないで相続人申告登記の申出だけを行っても良い。
(まとめ)
相続登記の義務化が開始されましたが、具体な法律の施行日は法律公布後3年以内となっています。但し、過去の相続分も法律施行後は対象になります。これまで放置してあるものも含めて義務化の対象になるということです。
相続登記は、相続人としての権利を保全するために必要な手続きです。罰則による強制を受けるまでもなく進んで行うべきものと思います。相続人申告登記という緩和措置も設けられますが、問題の本質的な解決にはなっていません。罰則回避のためには利用価値はありますが、権利保全のためには正式な相続登記が必要となります。
できれば、最初から相続登記を実施した方が二度手間にならずに済むと思います。