「相続登記」で苦労する「戸籍の収集」が楽になりそうです

親が亡くなり親名義の自宅などの不動産の名義変更 (「相続登記」)を行わなければならないとき、亡くなった親や相続人の「戸籍の収集」で苦労することがあります。特に亡くなった親については、生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要となるため集めるのに苦労することがあります。


人は生まれてから亡くなるまで同一の戸籍に留まることはないと思います。生まれたときは親の戸籍に入ります。親が引っ越しなどで戸籍を変更(「転籍」)したときは、それに従って戸籍が変わります。結婚すれば新しい戸籍が編成されてそちらに移ります。戸籍簿の改編があると戸籍は新しい戸籍に編成替えされます。手書き戸籍からコンピュータ化された戸籍へ変更されるような例があります。

このように人は生まれてから亡くなるまで戸籍を渡り歩くことになります。相続登記などを行っている経験から、少ない方でも4回程度、平均で5~7回程度、多い方は10回以上戸籍の変遷があります。


戸籍を収集しようとすると当時本籍のあった役場(「本籍地」)に申請する必要があります。本籍地の所在地が1か所であれば、該当の役場に行けば全ての戸籍を1回で収集できます。しかし、通常は本籍地であった場所は色々なところに点在します。

この結果、戸籍を収集するためには、現在の戸籍から過去にさかのぼりながら、順番に戸籍を収集していく必要があります。それぞれの役場が車などで行ける範囲であれば、順番に行けば済みますが、遠隔地となれば直接出向くことは難しくなります。通常は、郵送手続で戸籍を収集することになります。

郵送手続きは実際に行ってみると結構面倒な手続きです。役場へ収める戸籍の手数料は、郵送の場合は「郵便小為替」を同封して行いますが、戸籍がその役場でどの程度変遷しているか分からないため、余分に同封しておく必要があります。郵便小為替は1枚につき200円の発行手数料が必要となります。郵便法の改正で土曜配達が廃止されたことから郵送期間も長くなっています。


このような手間のかかる「戸籍収集」の問題を改善する等の内容を含んだ「戸籍法の一部を改正する法律」が令和元年5月24日に成立しました。実際の法律施行日は、これから発表されますが、簡便な「戸籍収集」を可能とする法令については、令和5年度中の開始予定とされています。

<改正内容>

◆ 自らや父母等の戸籍について、本籍地の市町村以外の市町村役場の窓口でも戸籍謄抄本の請求が可能となります。なお、マイナンバーカードや運転免許証等により本人確認が必要となります。

つまり、従来は本籍地のある役場へ戸籍を請求する必要があったのに対して、改正後は、何れか1か所の役場に行けば全ての戸籍が収集できるということになります。最寄りの役場で良いということです。手間と費用と時間の大幅な節約になります。

相続登記に必要な親の生まれてから亡くなるまでの戸籍についても、戸籍、除籍などの全ての戸籍を1回の請求で収集することができます。


<背景>

戸籍に関する情報は、本籍地の市町村が情報をデータベース化して保有しています。それと同時に災害などの万一のことを考えて、バックアップデータが副本として法務省に集められています。

今回の改正は、法務省にある副本データを活用して全国の市町村がオンラインで戸籍情報にアクセスできるようにするものです。副本があるから簡単にアクセスができるものではなく、アクセスできるようにするための新しいシステムの構築が必要になります。そのシステムを現在構築中ということです。


<課題>

今回の改正で「相続登記」に必要な戸籍の収集は大変楽になると思います。従来、司法書士などの専門家に戸籍収集を依頼していたものが、相続人自ら簡単に収集できるようになります。

但し、今回の改正によっても自らや父母の戸籍以外の戸籍を収集できるものではありません。戸籍の収集ができる親族の範囲は、個人情報保護の観点から、配偶者と直系血族(祖父母・父母・子・孫等)の範囲です。


つまり、兄弟姉妹や甥姪などの戸籍の収集はできません。当然、遠い親戚の戸籍も収集できません。相続登記を行う場合、兄弟姉妹や甥姪などが相続人となりその方の戸籍が必要になることがあります。

亡くなった方のこれまでの親族関係から、相続人となるべき方の範囲が広がっている場合があるからです。離婚、養子縁組、婚外子の認知などがあると相続人の範囲は広がっていきます。また、判明した相続人が既になっなっていると、その方の相続人を確定するため、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍の収集が必要になります。

また、相続登記をしないで長期間放置をしている場合、相続人の数は何代にも及んで相当の数になります。

これらの直系血族以外の方の戸籍は、今回の改正によっても収集することはできません。本人などの関係者に収集を依頼するか司法書士等の専門家に依頼する必要があります。

(まとめ)

相続登記の義務化が令和6年4月から実施されます。相続登記の義務化にあたって、相続人の負担になっているものの1つに今回の「戸籍の収集」があります。相続登記の義務化を円滑に実施できるように国も色々な施策を展開しています。今回の戸籍法の改正もその1つだと思います。

司法書士に相続登記を依頼する場合でも、相続人が戸籍を持参すれば、その分余分な費用をかけないで依頼することができると思います。新制度の施行日を待ちたいと思います。

 

Follow me!