家族が「成年後見人」に選任されたら、まず何をするのですか
最近は成年後見人に家族が選任されることも多くなってきました。これを「親族後見人」と言います。親族後見人として認知症になった親の財産管理や身上監護をどのように行えばよいか不安な場合があります。ここでは、成年後見人に選任された場合の「なすべき事柄」について簡単に説明します。
後見人に選任された場合、事務手続きのライフサイクルとして次の3つの大きな段階に分けられます。
(1) 就任直後にすべきこと
(2) 就任中にすべきこと
(3) 本人死亡後になすべきこと
ここでは、(1)の「就任直後にすべきこと」についてお話します。
<「審判書」の確認 >
成年後見人に家庭裁判所で選任されれば、自宅に「審判書」が送られてきます。まずは、この内容を確認します。本人の本籍・住所・氏名・生年月日などの正誤確認をします。相違していれば、至急、家庭裁判所に連絡します。
審判書の最上部に「令和3年(家)第12345号」などの「事件番号」が記載されています。今後、家庭裁判所に対して問い合わせや諸報告のとき必要になります。本人の財産が高額な場合や財産管理が複雑な場合、「後見監督人」が選任される場合があります。後見監督人の記載があれば連絡して指示を受けます。
<「成年後見登記事項証明書」を取得する >
成年後見の審判が確定すると東京法務局に後見の登記がなされます。登記は裁判所の嘱託でなされます。その後、家庭裁判所から「登記番号」が通知されますので、最寄りの法務局・地方法務局などで成年後見の「登記事項証明書」を取得します。申請書は専用の様式が法務局に備え付けてあります。法務省や東京法務局のホームページからダウンロードもできます。
< 本人の財産を確認し特定する >
父親が本人で家族が後見人の場合、本人の財産と家族の財産が混在している場合があります。特に本人と後見人となる家族が同居している場合、財産が混然一体化しているかもしれません。しかし、後見として財産管理する場合は、本人の財産と後見人の財産は明確に区別して管理する必要があります。そのため、まず最初に本人の財産の棚卸を行って、本人の財産を特定する必要があります。
通常、財産として特定されるものとして、現金、不動産、預貯金、有価証券などです。書画骨董、車などは市場価値があるものであれば特定します。また、借金があれば金額を含めて特定しておきます。
< 銀行などの関係機関に後見人の届出をする >
銀行などの金融機関、市区町村などの役場に対して「後見届」を行います。後見届とは、親族が後見人になったという届出です。
まず、銀行や郵便局、証券会社などの金融機関に対して「後見届」を行います。本人は通常は年金を受け取っていますので、受取用の銀行口座が必ずあるはずです。銀行などへの届出は必須となります。
銀行へ「後見届」をする場合の必要書類は、次のようなものとなります。
① 成年後見登記事項証明書
② 後見人の印鑑証明書
③ 後見人の身分証明書 (運転免許証など)
④ 後見人の実印
⑤ 後見人の銀行届出印
⑥ 本人の通帳
⑦ 本人のキャッシュカード
次に市区町村などの役場に出向いて、本人の税金・年金・健康保険・介護保険に関する届出を行います。届出の趣旨は、本人の税金などの通知書・納付書の送付先を後見人宛てにしてもらうことです。
役場に出向いて相談すれば、届出書を用意して対応してもらえると思います。成年後見登記事項証明書や後見人の身分証明書などを持参して提示します。郵送でも対応できると思います。
<「財産目録」の作成 >
本人の財産として特定したものを「財産目録」に記載します。財産目録は家庭裁判所から送付されますので、そこに記載します。記載方法は案内が添付されていますので、案内通りに記載します。
財産目録を記載すると同時に記載に当たって確認した資料を保存しておきます。預貯金通帳の写し、不動産の権利証、固定資産税評価証明書、登記事項証明書、証券会社から送付された残高通知書などです。
< 今後の後見の方針立てを行う >
本人の心身の状態、これまでの生活状況などを勘案して、今後どのような療養看護を行っていくか方針立てを行います。医師やケアマネなどの意見も参考にして検討します。本人の財産基盤 (保有資産や年金・配当金などの収入)を考えて今後の療養介護のやり方を決定します。
方針が決定したら、その方針に従った「本人の収支予定表」を作成します。収支予定表も家庭裁判所から送付されますので、それに記入します。使いずらい場合は家庭裁判所に相談して独自のものやエクセル管理できるものでも良いかもしれません。
収入としては、年金、給与、家賃収入、利子配当金、高額医療費還付金などがあると思います。支出としては、病院や施設に支払う費用、生活費、税金、社会保険料、その他があると思います。
毎月の収支計算ができれば、年間の収支予想ができますので、本人の流動資産 (現金や普通預金など)で何年くらい維持できるか見当をつけます。5年後に流動性資産が底をつくようであれば、事前に何らかの資産の現金化を計画しておきます。定期預金の解約、株の売却、自宅の売却、貸駐車場の売却など考えます。
これらのことを当面の対応と中長期の対応として方針立てしておくことが必要になります。
< 家庭裁判所に「初回報告」をする >
財産目録や収支報告書を作成したら家庭裁判所に後見の初回報告を提出します。期限が予め決められていますので厳守します。財産目録には、裏付けとなる資料も添付します。通帳のコピーや登記事項証明書などです。
家庭裁判所に提出した報告書類一式は、手持ち確認用としてコピーを取得しておくと良いと思います。報告書提出後、家庭裁判所の担当官から不明点などの確認の電話が入ったとき手元資料がなといと説明が難しくなります。
初回報告などで不明点があれば、家庭裁判所の担当書記官に確認すれば良いと思います。報告書面や書き方の説明は家庭裁判所から案内が送られてくると思いますので、それを見て行います。
(まとめ)
成年後見制度が身近な存在になり親族が後見人になる場合が今後とも増えてくると思います。後見人になったときの「なすべきこと」を予めイメージして頂くことは、成年後見制度を選択するかどうかの検討に当たって重要なことだと思います。今回の説明なども参考にして頂けると良いと思います。