「暦年贈与」も「教育資金一括贈与」もなくなるのですか
2018年に相続法の大改正が40年ぶりに実施され、それから3年経って新しい制度運用が世の中に徐々に認知されるようになってきました。そんな中、また相続に関するルールが大きく変わろうとしています。2021年4月には、「相続登記の義務化」など民法関連の改正が成立しました。そして、次は、従来からなかなか手を付けられなかった「税制」関連の改正が、いよいよ検討されるようです。
2020年12月に「令和3年度税制改正大綱」が発表されました。現在、政府与党の中で「相続・贈与の一体化課税」について議論が進められています。その中で注目される点は、従来、相続税の節税対策として活用されてきた「暦年贈与」や「教育資金、結婚・子育て資金贈与」などの見直しが進められていることです。
とくに「暦年贈与」は、多くの方が相続税対策として実施している関係で見直し内容について注目されています。人が他人に財産を贈与すれば贈与税がかかります。しかし、特例として年間110万円までは非課税とされています。この特例を有効活用した節税対策が、「暦年贈与」です。
毎年、こつこつと110万円づつ贈与していけば、長い年月のうちには多額の金額を非課税で贈与することができます。相続対策として考えれば、例えば、親が息子と娘に毎年110万円づつ贈与していけば、10年で2,200万円 (110万円×2人×10年=2,200万円)贈与でき、その分だけ親からの相続財産を減らすことができます。
今回、この暦年贈与を「縮小または廃止」が検討されているようです。もともと「暦年贈与」には相続税逃れとして使用される懸念があったため、一定の歯止めがなされています。それが、「亡くなる直前の3年間分の贈与は相続税の対象とする」というものでした。一般に「持ち戻し」と呼ばれる規定です。
そのため、相続対策として暦年贈与を検討する場合は、できるだけ早期に贈与を開始して、目標贈与額を亡くなる前3年以前に終了する必要がありました。今回、この「持ち戻し期間」を3年から10年または15年に延長する可能性があります。
これは、暦年贈与の仕組みそのものは存続するものの「持ち戻し期間」が15年になれば、相当若い年齢から暦年贈与を開始する必要があり、事実上、制度利用を断念せざるを得ないケースが増えてくると思います。また、一部には、「暦年贈与」の仕組みそのものを廃止した方が良いとする議論もあります。
同じように、住宅資金や結婚・教育資金に関する贈与の特例制度が、これから順次、見直しされる方向で議論が進んでいく可能性があります。具体的には、「住宅資金贈与の特例」「子・孫への教育資金一括贈与の特例」「結婚・子育て資金一括贈与の特例」などです。
もともとこれらの制度は、時限立法として作成されています。そのため、制度利用には期限が定められています。一番早く期限が到来する「住宅資金贈与の特例」制度は、父母や祖父母から子・孫に対して、住宅購入資金や増改築資金として1,500万円まで非課税で贈与できる制度です。この制度は2021年12月31日で終了することになっています。
通常、このような非課税特例は、毎年更新されて継続して運用されています。しかし、今年は更新しないか、仮に更新する場合も非課税枠を大幅に減額する可能性があります。
最大1,500万円の非課税枠が使用できる「子・孫への教育資金一括贈与の特例」と1,000万円の非課税枠が使用できる「結婚・子育て資金一括贈与の特例」は、2023年春が期限となっています。期限到来で縮小や廃止が検討される可能性があります。
制度改正の狙いは、相続における「不公平」感の解消です。多額の相続財産をこれらの特例を巧みに使用して相続税を支払わずに承継した人と何も対応せずに真面目に相続税を支払った人との不公平感の解消のようです。持てる者と持たざる者の相続における格差是正も論拠とされているようです。
一番早く改正されそうな「暦年贈与」について、世の中が騒がしくなっています。実際には、今年の政府与党の税制改正作業の中で議論がされると思います。それを見るまでは内容は分かりません。
国民の不興を買う「暦年贈与」の縮小や廃止は、来年の参議院選挙への影響を考慮して政治的に先延ばしされるかもしれません。「教育資金、結婚・子育て資金贈与」も現在直面する少子高齢化問題を考えると早期の縮小や廃止は政治的に問題になるかもしれません。
専門家の中には、いずれにしても「暦年贈与」は縮小・廃止の方向なので、取り急ぎ「今できる対策を打つべし」と騒いでいる方もいます。具体的な方法として、例えば「今年度中に110万円の贈与をできるだけ多くの親族にしなさい」というものです。
親の相続用財産を今年度中に110万円づつ妻、長男、長女、長男・長女の孫などに贈与するというものです。贈与者が増える分、一気に贈与額を増やすことができる点をポイントとしています。少しやり過ぎのような気がしますが、対応策の一例なのかもしれません。
いずれにしても、今年の政府の税制改正の推移を注視していく必要があります。