① 「特別受益の持ち戻し」の特例

被相続人(例えば夫)がその生前、配偶者(例えば妻)と一緒に住んでいた家を妻に贈与していた場合、このことを夫は妻に生前「特別受益」がなされたと言います。相続発生時、遺産分割をする場合、相続財産を計算する上で、特別受益された財産も、原則として相続財産に加えて計算します。これは相続人間の公平を保つためです。このことを「特別受益の持ち戻し」と言います。

相続財産の分割協議において妻は居宅を生前贈与されている場合、特別受益の持ち戻しによって、妻の相続分の大半が特別受益として贈与された居宅に持っていかれ、預貯金など居宅以外の遺産について妻の取り分は、居宅の分だけ少なくなります

今回の改正では配偶者の権利を保護する為、20年以上婚姻している夫婦の間での遺贈又は贈与のうち、居住用の家またはその敷地の贈与等については、遺産分割において、原則として遺産に持ち戻す必要がない(相続財産の計算外とする)ことになりました。

これにより、妻は、居宅を生前贈与されていても、遺産分割の時は、これを除いた財産 (金融商品等) について相続分に従って相続することが出来るようになります。

 

② 預貯金仮払い制度の創設

金融機関などの預貯金の払戻は、最高裁判所の判例の変更により、遺産分割協議前の相続人への払い戻しは、原則として、認められなくなりました。その為、葬儀費用や相続人の借金の返済等急な出費に対応することが難しくなっています。

今回の改正では、共同相続された預貯金について、遺産分割前でも相続人に仮に払い戻すことを認める制度が創設されました。制度としては、(ア)家庭裁判所の保全処分を利用する方法と、(イ)金融機関などで相続人単独での払い戻しを認める方法の2つの制度が出来ました。

(ア)の家庭裁判所の保全処分を利用する方法は、相続人の間で遺産分割について争いがあり、自分たちの間で話し合いがまとまらない時、家庭裁判所に対して遺産分割の調停や審判を申立てますが、この時に活用します。裁判は長期に及ぶことがありますので、足元の必要な費用について相続財産を仮に出金する必要がある場合、この保全処分を申立てます。

家庭裁判所に対して、遺産分割の調停や審判の申立をするとともに仮払いの申立をします。この場合、費用の必要性について疎明する(ある程度の資料で説明する) 必要があります。

仮払い金額の上限は特になく、裁判官の判断によって決定されます。

(イ)の金融機関などで相続人単独での払い出しを認める方法は、相続人が金融機関の窓口で直接払い戻しを求めることが出来る制度です。(ア)のように裁判は必要なく、簡便で低コストで済みます。但し、金額の上限が定められています。具体的には、以下の式で求めます。

「相続開始時の預貯金の額×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分」 かつ

「金融機関毎に法務省令で定める額」 が上限となります。

この金額は、相続人1人当たり150万円までとされました。(平成30年法務省令第29号)

③ 遺産分割前に処分された財産の扱い

遺産の分割前に遺産の全部又は一部が処分 (例えば、換金) された場合、現行の実務では、その処分された遺産については遺産分割の対象にならない運用としています。つまり、現に残っている遺産のみを分割対象とします。

特に処分した者が共同相続人である場合、その相続人は遺産分割において処分で得た利益分を引かれることなく、他の相続人と同じ条件で遺産の分け前にあずかることができ、結果的に他の相続人より多くの遺産をもらうことになり、不公平が生じていました。

今回の改正では、遺産分割前に処分された財産について、処分をした相続人を除く共同相続人全員の同意があれば、遺産分割時になお遺産として存在するものとみなすことができるとされました。これにより、より公平な遺産分割が実現できることが期待されます。

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