遺言書を書いておいた方が良い7つのケース

相続をめぐる争い事は、年々増加しています。令和元年7月1日には相続法の改正もあり、今後も益々拡大していくことが予想されます。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の件数も昭和47年には年間約4,900件であったものが、平成元年には約7,000件、平成22年には約1万3,500件と増加しています。

これに呼応するかのように統計で確認できる公正証書遺言の作成件数も急速に増加傾向を示しています。昭和47年に約1万7,000件だったものが、平成3年に約4万5,000件、平成26年には10万件の大台を超えました。相続に関して予想される問題を生前に解決しておきたいという遺言者の強い考えが伺えます。

相続問題の実務を日々行っている者として感じることは、こんなケースは予め遺言書を作成してくれていたら良かったのにと思うことが多くあります。遺言書を書いておいた方が良い場合について、具体的なケースをご紹介します

1.相続人間で争いが想定される場合

子供の兄弟仲が悪い。親族間で過去にもめ事があって一部親族と絶縁状態となっている。相続人の配偶者の中に他の親族と折り合いの悪い人がいる。一部の相続人に生前贈与や特別な受益が行われている。前妻の子供がいる。等々争いの種は色々あります。予め争いが想定される場合は、事前の対応策として遺言書を作成しておくことが必要です

2.夫婦の間に子供がいない場合

夫婦間に子供がいない場合で一方の配偶者が他方の配偶者に全財産を相続させたいと思っている場合です。この場合、相続人として一方の配偶者の兄弟姉妹が登場してきますので思い通りにならない場合があります。兄弟姉妹には、法定相続分が「4分の1」ありますので、他方の配偶者の取り分は、「4分の3」となってしまいます。このような状況にしたくないのであれば、遺言書を作成しておく必要があります。できれば、夫婦それぞれが相手方を受遺者として遺言書を2通作成しておくと良いと思います。兄弟姉妹には、遺留分がありませんので全財産をそれぞれ相手方に相続させることが出来ます。

3.事実婚の場合

「内縁の妻」という言葉が従来はよく使われていました。最近は内縁の妻に限らず、色々な考え方があり、婚姻という形態をとらないパートナーシップ関係も増えています。この内縁関係、あるいは事実婚とは、単なる同棲者ではなく、社会的には配偶者として認められていながら、ただ婚姻届が出されていない状態のことです。この状態のままで財産をパートナーに相続させたいと思っていても法律婚でない以上、パートナーには相続権がありません。相手方パートナーに財産を残してあげたいのであれば、遺言書を作成して財産を遺贈する必要があります。

4.息子の妻に財産を贈りたい場合

息子の妻に療養看護で世話になった労に報いるため遺産の一部を贈りたいと考えている場合です。しかし、この場合、息子の妻には法定相続分がありませんので相続させることが出来ません。令和元年7月1日の相続法の改正によって「特別の寄与制度」が創設され、貢献した息子の妻へ特別寄与料を支払う道も出来ました。しかし、その要件や効果について必ずしも満足のいくものとはなっていません。より直接的に希望を叶えるのであれば遺言書を作成して遺産の一部を遺贈する必要があります

5.相続人がいない場合

相続人が全くいない場合、残された遺産は国庫の帰属となりますが、それは嫌なので自分の希望する方に遺産を与えたい場合です。生前お世話になった方や自分の遺志を叶えてくれるNPO法人、社会福祉関係の団体に寄付したいと考える場合、遺言書の作成が必要となります。最近は、自分の生まれ育った地方公共団体、あるいは祖先を祭る菩提寺などへの寄付も増えていると思います。

6.相続人の中に行方不明の方がいる場合

相続人の中に行方不明となっている方がいる場合です。行方不明者がいる場合、円滑に相続手続を進めることが出来ません。相続は遺言書がない限り、相続人全員による遺産分割協議が必要になりますが、相続人の中に行方不明者がいると手続きが止まってしまいます。この場合、通常は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立や、場合によっては、失踪宣告の申立が必要になります。このような状況にならない為には、事前に遺言書を作成しておく必要があります。行方不明とは異なりますが、最近は、相続人の中に海外に居住されている方も多くなっていますので遺産分割協議が長引く場合もあります。このような場合も事前に遺言書を作成しておけば、手続きを円滑に進めることができます。

7.相続人の中に認知症などの方がいる場合

相続人の中に認知症や重度の疾病で長期入院している方がいる場合です。遺産分割協議に参加できる状態であれば問題ありませんが、意思を表示できないケースや字が書けない場合等、円滑に遺産分割協議ができない場合があります。それぞれ必要な代理人を立てて協議を進める必要がありますが、手続きや費用がかかります。特に、重度の認知症となれば成年後見人の選任が必要となります。このような状況が予想されるのであれば、事前に遺言書を作成しておけば、手続きを円滑に進めることができます。

遺言書の作成を専門家としてお勧めしたいケースをご紹介しました。遺言は遺言者の財産処分に関する最終の意思表示です。残された相続人にその処分を委ねることも良いと思いますが、ご自身で処分方法を差配することも必要ではないでしょうか。

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