遺言書で「葬儀」や「祭祀」の希望を書けますか

遺言書を作成する目的として「争族問題の回避」「円滑な相続手続の実現」など相続財産に関する紛争予防を第一に考えている場合が多いと思います。特に、相続人になるべき人が遺言書の作成を本人に働きかけている場合はその傾向が強くなります。


しかし、本来、遺言とは自分の死後の問題についての希望であるため、「葬儀」「祭祀」などについても色々な要望を書いておきたいと思うことがあります。「法要は三十三回忌まではしてほしい」「葬儀や告別式はしなくても良い」「一定期間経過後は墓じまいを検討しても良い」「海への散骨や樹木葬を希望する」「先祖の墓には入りたくない」「延命治療は拒否してほしい」「身体の献体をしてほしい」など色々なものがあり得ます。


最近は、少子化の進展、離婚率の高止り、宗教儀式への柔軟な考え方など、個人の「葬儀」や「祭祀承継」について多種多様な考え方がなされるようになっています。一昔前のように長男が先祖代々の墓を守って年忌法要していくスタイルは徐々に少なくなっています。


そこで、遺言書で自分の葬儀の仕方や祭祀承継などの方法について希望を書いておきたいとする場合が出てきます。この点、法律は「遺言事項」として「遺産相続」とは別に「祭祀承継」に関する事柄を規定しています。しかし、これは上記で述べた本人の希望に必ずしもマッチするものとはなっていません。

現在の法律が予定している「祭祀承継」とは、系譜(家系図)、祭具(仏壇、位牌、神棚など)、墳墓(お墓)などの祭祀財産と祖先の祭祀を主宰する者(祭祀承継者)の定めとなっています。つまり、仏壇仏具やお墓を誰が承継し、誰が供養の責任者となるかを定める内容となっています。それ以外のことは遺言書に書かれることを想定していません。


遺言書に書かれることが想定されていなくても、それ以外のことを遺言書に書くことはできます。しかし、遺言書としての「法的な効力」が、法が想定していない事項については発生しません。

遺言書に「自宅は長男に相続させる」と書けば、法が想定している遺言の事柄であるため、法的な効力が生じます。つまり、自宅は長男が相続する権利を有することになります。しかし、「法要は三十三回忌までしてほしい」と遺言に書いても祭祀承継者を法的に拘束することはできません。

このように遺言書に書くことはできるが、法的に効力のないものを遺言書の「付言事項」と言います。冒頭で述べた本人の希望は全てこの付言事項に該当します。もちろん、遺言書に付言事項を書いておけば、本人の書いた希望ですので、相続人がこれを尊重して希望通りに行ってくれることも多いと思います。但し、あくまでも相続人次第ということになります。


もっとも、遺言書の法的な効力について、このように詳しく理解している人は世の中に少ない思います。そのため、遺言書に書いておけば、本人の最後の意思だから実現しなければならないと思う場合も多いと思います。付言事項であっても、しっかりと書いておく意味はあるかもしれません。

どうしても法的に有効なものとして実現したいという場合は、遺言書以外の別の手段を検討することになります。例えば、死に瀕したとき、見込みのない延命治療を拒否して尊厳死を希望する場合は、あらかじめ「尊厳死宣言公正証書」を作成しておく方法があります。これを家族から担当医師に提示して本人の尊厳死の意思が固いことを理解してもらう手段があります。


また、死後の処理について、適当な方(個人や法人)との間で「死後事務委任契約」を締結する方法があります。死後事務委任契約は、特定の方との契約ですので法的な効力が生じます。本人が元気なうちに適当な人(又は法人)と死後に行ってほしい事柄を決めて契約を締結します。処理に必要な費用や報酬に関する取り決めもしておきます。

死後事務委任契約は、本来的には、身寄りのない高齢者などが自分が亡くなった後の色々な事務処理手続きを他人に依頼するためのものです。そのため「死亡届けの提出」「友人への死亡の連絡」「葬儀の主宰」「介護施設の費用清算」「賃貸アパートの退去」などの事柄が中心となります。

しかし、この契約を活用すれば、遺言の付言事項となる「葬儀」や「祭祀承継」に関する希望も叶う場合があります。

死後事務委任契約を活用するとすれば、次のような項目が考えられます。

① 自然葬(散骨、樹木葬)にしてほしい
② 将来にわたって法要(3回忌、7回忌、33回忌など)を行ってほしい
③ 将来の一定時期に「墓じまい」をしてほしい
④ 献体や臓器提供をしてほしい

なお、葬儀に関する希望は、遺言書に書いておくこともできますが、葬儀の仕方や埋葬方法などの希望は別の書面に書いておいて、予め家族に伝えておく必要があります。遺言書の開封は、葬儀が終わって落ち着いた後になる場合が多いからです。


(まとめ)

葬儀や祭祀承継の問題は、昔のような一律的な考え方を持つ人は少なくなっています。その意味で「常識」的な考えが徐々に薄れており、個々人の思いが大切にされる時代となっています。

先祖代々のお墓に誇りを持っている場合もある一方で「墓じまい」や墓の押し付け合いも見られます。遺言者の死生観、宗教・信仰や家族の事情も様々に絡んで複雑な状況となっています。

遺言書の作成にあたっては、遺言者本人の希望をできるだけ実現できるように努力と工夫が大切になります。本人の希望が十分かなえられるようにしてもらいたいと思います。

 

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