自筆証書遺言の形式面で注意する点はありますか

相続問題への関心の高まりから、遺言書の作成を検討されている方が増えています。費用や簡便さから「自筆証書遺言」を検討される方も多いと思います。しかし、自筆証書遺言は公正証書遺言に比べて、形式不備で遺言が無効になる可能性があるため、遺言書作成に当たっては十分注意する必要があります。

自筆証書遺言のトラブル発生原因は、大きく分けて次の3つに分類できます。

1.遺言書の形式不備
2.遺言書の内容不備
3.遺言者の意思能力不足

今回は、この中で「遺言書の形式不備」についての注意点をお話します。単なる形式面の不備で折角作成した遺言書が無駄にならないようにしてもらいたいと思います。

◆自筆証書遺言が形式面を重視する理由

遺言書は、本人が亡くなってから効力を有するものです。そのため効力が発生した時には遺言書を書いた本人はいません。書かれた内容について確認したくてもできないため、民法は自筆証書遺言について疑義ができるだけ生じることのないように厳格な形式面の要件を定めています。

また、自筆証書遺言は、本人が書くものです。推定相続人などの第三者が「なりすまし」て書いたり、書かれた遺言書を書き換えられることを防止する必要があります。そのため、遺言書の「全文の自署」や遺言書の訂正・変更時の「加除訂正方法」について要件が厳格に定められています。

(遺言書の形式要件)

◆自筆証書遺言は、全文、日付及び氏名を自書すること

市販されているエンディングノートなどに添付されている遺言書の用紙をコピーして作成する場合は特に注意が必要です。必要事項の穴埋め形式になっている遺言書のフォーマットをそのまま活用すると、プレ印刷されているタイトルの「遺言書」の文言や「私 (    )は、次のとおり遺言する。」、「日付  年 月 日」等を使用することとなり、 全文自署の要件に違反が生じます。違反とならないためには、全ての文言を手書きで写しながら書く必要があります。

◆民法の改正により、平成31年1月13日以降に作成された自筆証書遺言については、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付した場合は、その目録については自署することを要しないとされました。但し、この場合は目録の各葉(記載が両面にある場合は両面)に遺言者が署名し印を押さなければなりません。

この改正により、記載が面倒な預貯金明細の内容や不動産の特定情報についてワープロでの作成ができるようになりました。パソコンで作成した財産目録を家庭用プリンターで出力すれば財産目録が簡単に作成できるようになりました。

また、財産目録をワープロで作成しなくても、預貯金通帳や不動産登記事項証明書のコピーの添付でも良いこととされています。もちろん各葉に署名と捺印が必要になります。

遺言書本文と財産目録は、同一の封筒にいれて保管するか、全体を編綴し(ホチキス止め) 契印を施しておくのが良いと思います。本文と財産目録の一体性について疑義が生じないようにするためです。

◆実在する明確な日付を記載すること

日付の記載のないもの、実在しない日付 (例.11月31日)を記載したもの、年月の記載しかないもの、日付が吉日となっているもの、など遺言全体が無効になります。

特に、「 年 月 日」等の日付欄がプレ印刷された用紙を使用する場合や日付スタンプを使用する場合は、日付を自署したことにはなりませんので、注意が必要です。

◆氏名を自書すること

氏名は、通称、雅号、ペンネーム、芸名、屋号など遺言者との同一性が判別できるものであればよいとされていますが、戸籍に記載されている通りの氏名を記載することを推奨します。少しでも疑義のあることは避けた方が良いと思います。

特に漢字氏名は、ご自身の戸籍に登載されている正式の漢字氏名をご存じない方が意外と多くいます。「斎藤」「櫻井」や「譲治」と「讓治」など漢字表記は色々と複雑になっています。色々な漢字の種類が想定される方は、戸籍を取得して自分の正式の漢字表記を確認する必要があります。

◆遺言書に印を押すこと

押印がなければ無効です。印は実印でなくても構いません。指印(拇印)でも良いとされています。しかし本人意思の明確化の観点から実印を使用した方が良いと思います。

遺言書が複数枚になる場合は、全体を編綴して契印を押しておくべきだと思います。

◆加除訂正は方式に従うこと

自筆証書遺言は、「自筆」がポイントです。財産目録のワープロ添付などが認められましたが、本文は自署する必要があります。短い遺言書でもA4で1枚程度の分量はあります。相続人の数が多い場合は、数葉になる場合もあります。これをボールペンなどで全て間違えずに書くのは大変な作業です。

従って、どうしても加除訂正は発生しやすくなります。加除訂正は、遺言書に対する変更行為である為、第三者による不当な改ざん行為と明確に判別できるように要件が厳格化されています。

具体的には、「遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名し、さらにその変更の場所に押印しなければならない」とされています。なお、財産目録に対する加除訂正も同様となります。(但し、財産目録をワープロで作成している場合は、修正版を再作成して署名・押印することになると思います。)

この自筆証書遺言の加除訂正の方式は、一般的な証書の加除訂正において行われている、いわゆる「訂正印」を押印する方式と異なっていますので注意が必要です。特に変更した旨を付記した箇所に署名が要求されている点には気を付ける必要があります。

例えば、次のようになります。(印以外は全て自書します)

        遺言書

    ‥‥

1.長男一郎に、別紙1の不動産を相続させる。
2.長女花子に、別紙2の不動産を相続させる。
3.次男次郎に、別紙3の(預金)を相続させる。
                              株式 印           
        ‥‥

令和3年5月10日
         山田 太郎  印

上記3.中、2字削除2字追加
         山田 太郎 

 

また、平成から令和への元号の変更時によく見られるのが、「元号の訂正」です。

平成 2年11月12日 
令和 印 

この場合も欄外に変更した旨を付記して署名が必要になります。なお、加除訂正が方式に違反している場合、遺言書全体が当然に無効となるわけではなく、「該当の加除訂正がないものとして扱われる。」とする見解が有力です。

 

(まとめ)

自筆証書遺言は、簡便で利用しやすい遺言書ですが、形式要件が厳格に定められていることを十分意識して作成してもらいたいと思います。軽微な形式要件違反の場合、過去の裁判例を見ると救済されたものもありますが、そのためには多くの労力がかかります。

従って、最初から形式不備のない遺言書を目指してもらいたいと思います。相続のトラブル防止のために作成した遺言書が、相続トラブルの火種になっては元も子もなくなってしまいますから。

 

 

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