「遺言書」で預貯金に関する「遺贈」をする場合の注意点はありますか

「遺贈」とは、故人の残した遺言書に従って、その遺産の全部または一部を譲ることを言います。譲る相手は民法が定めた相続人(法定相続人)でも、それ以外の個人・法人でも誰でも構いません。


遺言書を書く場合は、相続手続を円滑に実行できるように「遺言執行者」を定めておきます。遺言執行者は、遺言書に定められた遺産の承継方法に従って、遺産の名義変更などの相続手続を行います。

遺言執行者は遺産をもらう方でも他の親族の方でも誰でも問題ありません。適当な方がいなければ、司法書士や弁護士を指定することが多いと思います。遺言執行者が定められていない場合は、相続人全員が相続手続を行うことになります。

この遺言執行者の権限について、預貯金の遺贈に関する民法の改正によって、遺言書の書き方についても一部影響があるため注意が必要になります。今回のお話は、この点についての注意喚起です。


(遺言執行者の権限について)

遺言執行者に関する権利や義務について、これまでは法律上必ずしも明確ではありませんでした。そこで、平成30年の相続法制の改正によって、遺言執行者の権利や義務が明確に規定されました。

改正された遺言執行者の権利義務の詳しい内容については、ここでは立ち入りませんが、その中で遺言書の作成において注意する点があります。それが「預貯金債権に関する遺言執行者の権限」についてです。


「預貯金債権」とは、銀行や郵便局に預けてある普通預金や定期預金などのことです。遺言執行者が故人の預貯金を遺言書に定められている方に譲るための相続手続に関して、遺言執行者の権限が法律で明確に定められたということです。

具体的には、「遺言執行者は、その預貯金債権の払戻請求及び預貯金債権に係る契約の解約申入れをすることができる」とされました。これにより、遺言執行者の当然の権限として、遺言書に書かれている預貯金の払い戻し請求や解約申出ができるようになりました。

但し、注意すべき点として、この権限は「特定財産承継遺言」があった場合に限定されていることです。


(特定財産承継遺言とは)

特定財産承継遺言とは、「遺産の分割の方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言」とされています。例えば、夫婦と子供1人の家族で父親が遺言書で「自宅は妻に相続させる。預金は長男に相続させる。」というような遺言です。

ポイントとしては、「財産を譲る先が相続人(推定法定相続人)であること」「譲る財産が特定の財産であること」です。この場合、財産の譲り先を父親の「弟」とすると特定財産承継遺言になりません。父親の弟は、このケースの場合、相続人ではないからです。

また、譲る財産について、例えば「全ての財産について、妻に3分の2、長男に3分の1を相続させる」とすると、譲る財産が遺言書上特定されていませんので、こちらも特定財産承継遺言はになりません。

(預貯金に関して遺言書を作成する場合の注意点)

遺言執行者が法律の定めにより預貯金債権の払い戻しや解約権限を持つのは「特定財産承継遺言」の場合に限られるということです。すなわち、預貯金が相続人以外の人に「遺贈」される場合、そのままでは、遺言執行者の権限にならない恐れがあるということです。この点が遺言書作成上の注意すべき点となります。

対応策としては、遺言書に遺言執行者の権限として、預貯金債権の払い戻しや解約権限を明記する必要があります。遺言書に明記すれば、遺言執行者の権限とすることができます。

もちろん、遺言書に遺言執行者の権限として明記されていなくても、遺言書全体の解釈を通して権限が認められる場合もあります。しかし、認められないかもしれません。このような不安定さを払拭するためには、遺言執行者の権限を明記した方がより安全だと思います。


(遺言書の記載例)

第○条 遺言者は、遺言者名義の下記預金債権を、遺言者の弟 山田次郎(昭和○年○月○日生)に遺贈する。 
                記

銀行名  ○○銀行
支店名  ○○支店
口座種類 普通預金
口座番号 123456
口座名義 山田太郎

第○条 遺言者は、以下の者を遺言執行者に指定する。

住 所 ○○県○○市○○町○丁目○番地
氏 名  山田一郎
生年月日 昭和○年○月○日
職 業  会社員

第○条 遺言者は、前条の遺言執行者に対して、以下の権限を付与する。

(1) 預金の解約及び払戻し
(2) ○○
(3) ○○


(まとめ)

遺言書で預貯金の相続先を決めるときにおいて法定相続人に「相続」させる場合はあまり気にする必要はありません。しかし、法定相続人以外の方に「遺贈」する場合は、遺言書に遺言執行者の権限を明記しておいた方が良いと思います。孫に遺産を譲る場合など、孫は法定相続人でないことが多いので注意が必要になります。

尚、公正証書で遺言書を作る場合は、公証人の方で予め、遺言執行者の権限として預貯金債権の払い戻しなどの権限について包括的に記載されることが多いので心配はいらないと思います。

 

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