遺言書を書く場合、思いや願いの伝え方に工夫が必要です

法務局による自筆証書遺言の保管制度が開始され、自筆証書遺言を作成する方が増えています。法務局によっては、期近の予約が取れない所も出てきています。自筆証書遺言は、遺言者ご自身で作成するため、書き方を誤ると遺言者が思っていた通りの効力が発生しない場合がありますので注意が必要です。

遺言書に書いて法律的に効力が認められるものは、遺言事項と言って、次の項目に限定されています。従って、これ以外のことを遺言書に書いても法的な効力はありません。

(遺言事項)
① 認知
② 遺贈
③ 配偶者居住権を遺贈した場合の存続期間の定め
④ 未成年者の後見人指定
⑤ 未成年者の後見監督人指定
⑥ 相続人排除と排除の取消し
⑦ 相続分の指定や指定の委託
⑧ 遺産分割方法の指定や指定の委託
⑨ 遺産分割の禁止
⑩ 相続人の担保責任
⑪ 遺言執行者の指定、指定の委託
⑫ 祭祀主催者の指定
⑬ 持戻免除
⑭ 信託の設定
⑮ 保険金受取人の変更
⑯ 一般社団法人の設立

色々あって難しいのですが、多くの場合は、この中で次の項目について遺言書の内容とする場合が多いと思います。(もちろん、他の遺言事項の場合もあります。)

⑧ 遺産分割方法の指定
‥‥「長男に甲土地を相続させる。長女に乙建物を相続させる。」など
⑪ 遺言執行者の指定
‥‥「長男を遺言執行者に指定する。」など
⑫ 祭祀承継者の指定
‥‥「長女を祭祀承継者に指定する。」など

「遺言事項」以外のことを遺言書に書いても法的な効力はありませんが、全てが無駄になるとは限りません。法的な効力はないと分かってた上であえて書いておく場合もあります。遺言書の記載内容で法的な効力のないものを「付言事項」と言いますが、この付言事項をうまく活用して相続人の思いや願いを実現させる場合があります。

遺言書は、相続時の紛争を予防するために書くものですから、法的な効力を期待するのが本来ですか、法的な効力のない付言事項が紛争の予防に役立つならば、これを活用することには意味があります。

付言事項は、遺言書の本文を書き終えた後に、付言事項として書きます。何を書いても良いのですが、遺言者がこの遺言書に込めた思いや願いを素直に記載しておくことが良いと思います。付言事項を相続人が見て遺言者の思いや願いを理解して、一見不平等と思われる遺言内容について理解し、相続人間の紛争が回避できる場合があります。

具体例として、次のような記載が考えられます。

「私は、この遺言で長男裕一により多くの財産を分与しますが、これは長男が独身で病弱なため将来の生活が困らないようにしたいからです。健太と和子は、私の気持ちを汲んで理解して下さい。お願いします。」

「長女花子の分与財産が少なくなっていますが、これは花子が結婚し新居を建てた時、建築資金として1千万円贈与したからです。遺言書ではその点を考えて遺産を配分したものです。」

「お母さんに遺産全てを相続させますが、お母さんの今後の生活のことを心配してのことです。お母さんも色々な病気を患っていますので色々とお金がいると思います。今回は、裕一や京子に直接の財産分与はありませんが、いずれお母さんから遺産を引き継ぐことになると思いますので、今回は理解して下さい。」

「長男裕一に会社の経営を引き継ぐため、会社関係の全ての資産を裕一に譲ることにしました。現在の会社の経営基盤は弱いため、これを相続人で分割してしまうと会社の経営がこの先立ち行かなくなる恐れがあるからです。その代わり、裕一は仁美や美香の今後の生活の支援を継続的に行うようお願いします。」

遺言者の置かれた状況や思いを簡潔に相続人の心に届くように工夫して書くことが大切になります。

また、付言事項として「葬儀の方法」や「埋葬方法」などについて書かれている場合があります。どのような葬儀にするか埋葬場所をどこにするかなど色々あるとと思います。この時、注意しなければならない点は、遺言書は亡くなった時すぐには開封しないということです。通常は、亡くなって四十九日が過ぎた頃、相続人が集まって開封することになると思います。自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所に検認手続を申立てて開封することになります。

遺言の内容を見て葬儀方法や埋葬方法の希望が書かれていても手遅れ状態となります。この点の希望をかなえたい場合は、別の書面に書いて誰かに託しておくことが確実だと思います。

遺言書は、ともすると事務的な文章になりがちになります。「誰に何をあげます。」といった項目の羅列だけでは、そこに遺言者の思いが伝わらない場合があります。遺言書の「付言事項」を有効活用して遺言者の思いや願いが相続人に正しく伝わるようにしてもらいたいと思います。遺言者の素直な気持ちを書いておくと案外相続人の心に届くと思います。

 

 

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