遺言書は亡くなってから、「発見される仕掛け」が重要です

感染症による突然死の不安や「争族問題」への事前回避策など色々な理由で遺言書の作成を検討されている方が増えています。遺言書の書き方や作成方法などの解説は色々と出されていますが、「遺言書が発見される仕組み」の検討も重要です。

遺言書が有効に作成されていても遺言者が亡くなったとき、遺言書が発見されなければ意味がありません。仏壇の奥に入っていた遺言書が、本人が亡くなってから十数年後に発見されても「後の祭り」となります。遺言書によって本人の思いを確実に相続に反映したいのであれば、亡くなったとき、確実に遺言書が発見されることが大切になります。

遺言書には、公証役場が関与する「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」と本人が作成する「自筆証書遺言」があります。また、昨年より、自筆証書遺言の法務局での保管制度も開始されています。なお、秘密証書遺言の利用実績は少ないようです。

公証役場が関与する遺言書(公正証書遺言)は公正証書で作成されますので、原本は公証役場に長期間保管されます。従って、遺言書の滅失や紛失の心配はありませんが、亡くなったとき、相続人等に対して特に通知などがあるわけではありません。遺言者は遺言時に公証役場から遺言書の正本と謄本を交付されますが、これを信頼のおける推定相続人等に保管してもらうか、遺言書の存在を周囲の相続人等に伝えておくことが必要になります。

遺言書の正本や謄本を紛失しても、本人であれば公証役場に行けば再発行ができます。本人が亡くなったとき、生前本人より「遺言書を公証役場で作った。」と聞いていたが、遺言書が見当たらない場合があります。この場合は、相続人等の利害関係者であれば公証役場で遺言書の有無を検索してもらうことができます。この検索は、日本中の公証役場を対象にして検索してもらえます。遺言されていることが確認されれば、作成した公証役場で遺言書謄本の交付を受けることができます。

公正証書遺言の場合、遺言書自体の信頼性は高いものの、本人が亡くなったときに確実に遺言書が発見される段取りを整備しておくことが重要になります。遺言書の作成を支援した弁護士や司法書士に保管を依頼される方もいます。

次に自筆証書遺言の場合ですが、こちらはそもそもの課題が多くあります。遺言書の発見以前の問題として「遺言書は形式要件を充足しているか。」「遺言書は法律的に有効なものか。」など遺言書自体の問題があります。仮に、法的に問題のない遺言書が作成されていたとしても遺言書の保管・管理面で不安があります。

こちらも信頼のおける推定相続人等や法律の専門家に保管してもらう必要があります。自筆証書遺言の場合は、滅失や紛失の場合は本人が再作成する以外に方法はありません。

この自筆証書遺言の保管・管理面の問題点を解消する制度として、昨年より「法務局による自筆遺言遺言の保管制度」が開始されています。これは、法務局に本人が自筆証書遺言を作成して保管を依頼すれば保管してもらえる制度です。これにより、遺言書の保管・管理面の不安が解消されます。また、従来、自筆証書遺言に必要であった家庭裁判所による検認手続きも不要となるなど利用価値の高い制度となっています。

本人が亡くなった後、相続人等の関係者が法務局に申し出れば保管されている遺言書の証明書 (「遺言書情報証明書」といいます ) を発行してもらえます。遺言書情報証明書は遺言書として使用することができます。

但し、この制度では遺言書の中身の法律的な有効性までは確認されないことや法務局への手続依頼のため、色々な書類の提出が必要になるなど課題もあります。

しかし、この制度は「遺言書の発見」については、画期的なサービスがあります。まず、法務局に保管されている遺言書について、遺言者の死亡後、関係相続人等が、遺言書の閲覧を申し出たり、遺言書情報証明書の交付請求をしたときは、法務局は申出をした相続人等以外の関係相続人等に対して遺言書が保管されている旨を通知します。

これにより、遺言書の存在自体が相続人等に広く知れ渡ることになります。中身が気になる相続人等は遺言書の中身を法務局で確認することができます。このような取扱いは、従来にない新しいサービスだと思います。

但し、問題点として、関係相続人等が誰も申出をしなければ関係相続人等への通知は実施されません。遺言書自体の存在を誰も知らなければ、遺言書は発見されることなく相続手続きが進んでいきます。

この点を改善する仕組みとして、法務局では令和3年度以降の運用開始を目指して新たな仕組みを準備しています。具体的には、「死亡時の通知」という仕組みです。これは、法務局で遺言者の死亡の事実を確認した場合、あらかじめ遺言者が指定していた者に対して、遺言書が保管されている旨を通知するものです。

法務局では、戸籍担当部局から本人の死亡情報を入手できる仕組みを構築するようです。なお、この「死亡時の通知制度」の利用は、遺言者が希望した場合のサービスとなっています。希望しなければ利用しないこともできます。通知対象者は、遺言者の推定相続人、受遺者、遺言執行者などから1名を遺言者が指定します。

この制度を活用すれば、遺言者は遺言書が未発見になることを心配することなく安心して遺言書を作成することができるようになります。本人が死亡すれば、情報が法務局に伝わり、あらかじめ登録してある方に遺言書の保管が通知されます。その方が法務局に遺言書の内容を確認すると相続関係者にも通知が行くことになります。これにより、相続関係者に遺言書の存在が知れ渡ることになります。

自筆証書遺言書は、そもそもの課題が多いと言いましたが、この法務局による保管制度を活用すれば、課題の多くを解消することができます。その意味で遺言書の保管制度は画期的な制度の開始ということができます。

但し、残された課題はあります。1つは、自筆証書遺言を作成する場合、遺言書自体の法律的な内容面の有効性確認が不十分になりやすい点です。また、法務局による保管制度は内容が充実しているため、制度利用にあたっての依頼手続が面倒であり、申請書や添付書類の作成にも手間がかかる点です。

遺言者の方がすべてご自身で手続きをされても問題はありませんが、少し不安のある方は、費用は掛かりますが、お近くの司法書士に依頼すれば、遺言書保管関係の申請書類を作成してもらえます。また、あわせて遺言書の形式要件の確認や内容面の有効性確認もしてもらえると思いますので、安心して制度を活用することができます。

(まとめ)

遺言書は、亡くなったとき発見される仕掛けを事前に準備することが、最後の押さえとして重要であることを認識して頂きたいと思います。

 

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