親の介護を始める時は、遺言もセットでお考え下さい

親が高齢で介護が必要になった時、長男や長女など身近な親族が介護をすると思いますが、その後親が亡くなり介護が終了すると今度は親の遺産相続の問題が発生します。このとき長年介護をしてきた相続人とそうではない相続人の間で遺産分割を巡って争いが生ずることが多くなっています。何年も親の介護を行ってきた相続人とそうではない相続人の法定相続分が法律上均等なため「争族」に繋がっているのです。

例えば、母親の介護を同居の長女が10年間行っていたケースで母親が亡くなり母親名義の自宅や預貯金等を巡って長男との間で相続争いが起きる場合です。長男は、仕事の都合上、母親の実家とは離れた場所に住んでおり介護にもタッチしていません。長女としては、10年間も母親の面倒を見てきたのだから相応の遺産相続をしたいと考えています。一方の長男は、法定相続分はそれぞれ2分の1なので半分程度は欲しいということになります。

長女は「母は生前、財産は長女に残したい」と言っていたと主張し、長男は母は認知症なのだから真意ではないと主張し水掛け論となってしまいます。また、介護を担当したのが長女ではなく長男の場合は、介護を長男の嫁が行うことが多いため、相続人以外の関係者が入って争いの解決がより難しくなります。

現在の民法の規定では、介護を担当した相続人に相続分を余分に与えるという定めはありません。寄与分制度や相続法の改正によって新設された特別の寄与制度はありますが、裁判を起こしても実際に認められる金額は多くはありません。結果として、介護をしてもしなくても相続分は均等ということになってしまいます。

親の生前は仲の良い兄弟がこのようなことで争うのは大変悲しいことです。このような事態に陥らないためには、親の介護が必要になった段階で長男や長女など相続人の間で今後の相続問題について話し合いを行うことが大切になります。これから親の介護で大変なときに相続問題の話し合いなど不謹慎だとお考えの方もあるかと思います。また、ナーバスな問題のため話のきっかけが難しいとお考えの方も多いかと思います。

しかし、そこで問題を先送りにしてしまうと「争族」問題に発展するリスクが高くなります。親の介護を開始する場合、その先の介護の仕方や介護費用の問題が当然発生しますので、話のきっかけは持ち出しやすいと思います。介護の方針や費用負担の話し合いを兄弟間でする中で遺産相続についても話題にしてほしいと思います。

介護を開始する初期段階では、通常、親の意識ははっきりしている場合が多いと思いますので親に遺言書を作成してもらうことが必要になります。遺言内容を決めるのは親ですが、兄弟間で話し合ったことも親に伝えて参考にしてもらうとよいと思います。

遺言書の作成は、このタイミングを逃すとその後は行うことが難しくなります。認知症が進んだ段階では、遺言をすることができません。仮に遺言書が作成されていても自分に不利な内容が書かれている相続人が納得しません。「母は認知症なのだからこんな遺言ができるわけがない。長女が誘導して作成したものだ」と主張されかねません。

親の介護は、子供としては避けて通れない問題ですが、「介護を開始するときは、遺言もセットで考えておくこと」が必要だと思います。また、将来争いが想定される場合は、遺言は公正証書で作成することをお勧めします。自筆証書で作成する場合は、作成状況をビデオ撮影して親の判断能力に問題のないことを記録しておく必要があります。

親の認知症や介護の問題は、多くの方が悩んで苦しむ問題ですが、それだけに相続問題についても冷静に考えて問題を先送りにすることのないようにしてもらいたいと思います。

しっかりと対策を立てておけば大きな問題は回避することができます。また、自分が親の立場の場合は、要介護の必要性が出始めたら、子供達が「争族」にならないように積極的に遺言書の作成を検討してほしいと思います。

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