無効な遺言書を書かないようにご注意下さい

令和2年7月10日より、お近くの法務局で自分で書いた遺言書を保管してもらえるサービスが開始されます。(「自筆証書遺言の法務局による保管制度」の開始 ) これにより、多くの方が遺言書の作成を検討されると思いますが、遺言書の作成には考慮点が多いため、ご自身で作成される場合は十分な注意が必要となります

遺言書を書かれる方は、通常、人生で初めて書くわけですから、注意が必要と言われてもよく分からないと思います。法務局のホームページに掲載されている遺言書の見本や市版本に記載されている見本を参考に作成されると思います。このような方法による遺言書の作成でも立派な遺言書が作成できると思います。法定の成立要件が満たされている有効な遺言書が作成できると思います。

注意すべき点は、見本に書かれている遺言書の内容は、遺言書が書かれた時点の状況を基に作成することを想定していることです遺言書が書かれた時点では問題のない有効な遺言書が作成できても、それが将来に渡っても有効なものとなるかどうかは分からないということです。つまり、実際に遺言者が亡くなった時、本当に有効な遺言書となるかどうかは別問題ということです。

遺言書の作成に関わる専門家の間では遺言書の「補充事項」の問題として議論される事柄です。遺言書が遺言者が亡くなる間際に作成されていた場合には問題となることはないと思いますが、遺言書を作成してからお亡くなりになるまでに相当な年月が経っている場合、遺言書に書かれた内容が無効 (又は一部無効)になってしまうことがあるのです。

例えば、自宅を長女に相続させる遺言書を書いた後、建物の老朽化に伴いこれを取り壊して新築した場合、遺言書によっては新築された自宅を長女に相続させることはできません。また、預貯金の全部を長男に相続させると遺言書に書いた後、不幸にも長男が遺言者より早く亡くなってしまった場合、遺言書の該当部分は無効となります。

このように遺言書を書く前提としていた事柄が、時の経過により「変動」してしまうことはよく見られることです。遺言書を書いた時、前提としていた事柄が将来変動してしまうことまで考慮して遺言書を書いておくことを遺言書の「補充事項」の検討と言います

例えば、自宅が老朽化している時は、「将来再築した時は、再築した自宅を長女に相続させる。」との一文を追加で入れておきます。長男が万一亡くなる場合も想定して、「長男が遺言者よりも先に亡くなった場合は、長男の長女(孫)に相続させる。」との一文を追加します。遺言文言を将来の変動にも対応できるように適当な文言を「補充する」ということです。

このような「補充事項」を検討する対象としては、「遺産そのもの」「遺産を承継する人」の変動があります。「遺産そのもの」としては、例えば、預貯金などの金融商品があります。「〇〇銀行△△支店の定期預金、口座番号123456 」と遺言書に遺産を指定した場合、その後満期が到来て定期預金が解約され普通預金に入金された場合、当初の遺言文言のままでは遺産承継は難しくなります。

「遺産を承継する人」の例としては、例えば、先ほど述べた相続人である長男の死亡の例があります。遺産を承継する人以外にも実務でよく見られるケースとして「遺言執行者」の死亡の問題があります。遺言書に遺言執行者を指定したものの遺言者よりも先に亡くなってしまうことがあります。次順位者の指定をしておかなければ、遺言執行者が不在となってしまいます。

仮に補充事項の想定を超えて変動が発生した場合は、遺言者がご存命であれば、事象が発生した段階で早急に「遺言書の書換え」が必要となります。

遺言書の補充事項の検討は、実は意外と難しい問題です。どこまで変動を予測して書いておくかということになりますが、考え過ぎても遺言書が複雑なものになってしまいます。書いた内容が複雑となり論理矛盾が起きてしまいますと元も子もなくなります。結局、今後10年くらいの変動を予想して必要な事柄は補充して書いておくことで良いかもしれません

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