高齢の夫婦間で居住用の不動産を贈与したいときは、どうすればよいですか

高齢の夫婦間で住んでいる自宅を相手方にに贈与したいと思うときがあります。理由は色々あると思います。純粋に愛情や感謝の意味で贈与したい場合もあるでしょう。あるいは、相続税対策として、相続発生前に夫婦間の資産の偏りをできるだけ平準化するために行う場合もあるでしょう。しかし、最も多い理由は「争族」対策として行う場合だと思います。


子供と仲が悪い場合や離婚した前妻との間に子がいる場合等、配偶者が亡くなって相続が発生したとき、自宅の相続を巡って争いが予想される場合は自宅の生前贈与が選択肢として思い付きます。また、子供のいない高齢の夫婦の場合、配偶者が亡くなると、亡くなった配偶者の兄弟姉妹に4分の1の相続権が発生します。この場合も自宅を早めに生前贈与しようと考えたくなります。


このように「争族」問題の事前の対応策の1つとして居住用不動産の贈与を考えることは合理的で良いことだと思います。しかし、相続税などの節税対策として贈与を考える場合は注意が必要です。

婚姻期間が長い夫婦間で居住用不動産を贈与すると2,000万円の配偶者特別控除があるため、これを活用して節税対策として贈与を検討しようとする場合があります。しかし、節税対策だけの目的の場合、何も対策せずに単純に相続した方がトータルで見た場合の税負担の削減になることが多いと思います。税理士や相続の専門家とよく相談して実行する必要があります。(※1)

(※1) この論点について、本ブログ(2020年4月22日)『 「おしどり贈与」の有効な活用方法はありますか 』に詳しく書いています。

また、「争族」対策として贈与を考える場合でも贈与以外にも選択肢があることを知っておく必要があります。「子供と仲が悪いので配偶者が亡くなって相続が発生した場合、親子で自宅の相続争いが発生し、残された配偶者が自宅を追い出されるのではないか」「前妻の子とは全く交流がないが、遺産相続で自宅の相続を認めてくれないのではないか」「事前対策として早めに贈与した方が良いのではないか」と考えたくなります。


しかし、贈与も1つの方法ですが他にも対応策は色々あります。代表的な方策としては、「遺言書」を作成して自宅を残された配偶者に相続させる方法です。また、自宅は子供に相続させてもよいが、残された配偶者が亡くなるまで自宅に居住できるようにしたい場合は「配偶者居住権」という権利を配偶者に遺贈する方法です。


但し、遺言書で対応する場合は注意点もあります。遺言書で対応する場合、高齢者が作成する遺言書になるため、遺言書の不備が指摘される場合があります。「遺言書としての法的要件を充足していない。」「書いてある内容が意味不明である。」「本人が書いたかどうか怪しい。」など色々な文句が出る場合があります。


特に指摘されやすい文句は、「認知症の親がこんな遺言書を書けるはずがない。」という理由です。高齢となれば誰しも多少の老化現象はありますので、これを理由として遺言書に難癖がつけられます。公正証書で遺言書を作成しておけば、このような難癖は少なくなると思いますが、完全には防げないと思います。公正証書遺言でも無効を主張する相続人は世の中にはいます。

また、他の相続人への「遺留分」の問題もあります。1人の相続人に多額の遺産を相続させる内容の遺言は、他の相続人に保証された遺留分を侵害することになります。遺言書を作成して対応する場合も相続の専門家に十分相談することが必要だと思います。


前置きが長くなりましたが、いずれにしても、色々と検討した結果、自宅不動産の贈与を行いたい場合はあると思います。その場合の実施手続について次に説明します。

< 高齢の夫婦間で居住用の不動産を贈与する場合の手順 >

(1) 夫婦間の居住用不動産の贈与契約書を作成する。

自宅不動産の贈与契約書を作成し、お互いが署名し実印で捺印する。印鑑証明書も取得する。

(2) 自宅不動産の登記名義の変更をする。 

法務局(登記所)に対して自宅の所有権移転登記の申請を行う。司法書士に依頼すれば(1)を含めた手続きを行ってくれます。

(3) 贈与税の申告を行う。

夫婦間で居住用の不動産を贈与した場合、前述したとおり、配偶者控除の特例が受けられます。婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)ができる特例があります。これを活用した贈与を「おしどり贈与」と呼んでいますが、結果として、2,110万円まで贈与税が非課税になります。

但し、「おしどり贈与」の特例の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

1. 婚姻期間が20年以上の配偶者間の贈与であること

2. 贈与財産は居住用不動産or居住用不動産を取得するための金銭であること

3. 贈与された翌年の3月15日(申告期限)までにその不動産に住み始め、その後も引き続き住む見込みがあること (現に住んでいれば問題なし)

4. 同じ配偶者から過去にこの特例の適用を受けていないこと

5. 贈与税の申告をすること (贈与税が0円でも申告は必要)

所轄税務署に、一定の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。申告は税理士に依頼することができます。

<必要な添付書類>

① 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本

② 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し

③ 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの

④ その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)


(まとめ)

いわゆる「おしどり贈与」と呼ばれる婚姻期間の長い夫婦間の居住用不動産の生前贈与にはメリットとデメリットがあります。

単なる節税対策としては「おしどり贈与」活用のメリットは少ないと思います。「おしどり贈与」を検討される場合は、税理士や司法書士などの相続の専門家と事前によく相談して、十分納得の上で実施することが大切だと思います。

実施するメリットがある場合は、2,110万円の非課税特例がありますので、条件が適合すれば、特例申告を実施して頂きたいと思います。

 

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