自宅を保有している子が親の実家を相続したらどうすれば良いですか

親が亡くなり「空き家」となった実家の相続が発生したとき、相続人である長男、長女などが既に自宅を保有している場合どうすれば良いでしょうか。特に空き家となった実家が都市部にあり資産価値の高い場合は、「遺産分割」において対応を誤れば「争族」問題に発展しかねません。


空き家をそのままにしておけば、管理の手間がかかりますし、固定資産税の負担も重くのしかかってきます。
このような場合、空き家となった実家の相続方法として、「実家を売却して現金化する」という選択肢が考えられます。

実家の状況によっては、リフォームを加えた上で売却したり、売却せずに賃貸するケースも考えられます。しかし、リフォームや賃貸は相続手続として行うには相続人の負担が大きいことから「そのままの状態」で売却することが多いと思います。不動産業界では、空き家をそのままの状態で売却することを「中古戸建」または「古家付土地」の売却といいます。


この方式よる売却方法のメリットは、「手間がかからないこと」、「追加の費用負担がないこと」です。
「中古戸建」の場合はリフォーム費用がかかりません。「古家付土地」の場合は、家屋の解体、土地の造成、分筆、測量などの費用は買主が負担しますので相続人の負担はありません。

もちろん、売却価格は他の販売方法に比べて安くなりますが、相続手続きに手間や費用をかけたくない相続人にはお勧めの方法だと思います。

具体的な相続手続としては、「遺産分割協議」において、例えば、次のような内容を定めます。(遺産分割協議書の内容はケースに応じて色々な定め方が考えられます。)

<遺産分割協議書の例>

1. ‥‥‥‥
2. ‥‥‥‥
3.  長男、長女は自宅不動産を各2分の1の割合をもって共有取得する。
4. 長男、長女は、共同して、自宅不動産を令和4年〇月〇日までに〇万円以上の価格で売却し、その売却代金から売却に要する一切の費用を控除した残金を前項の共有持分割合に従って取得する。
5. 長男、長女は自宅不動産を売却し買主に引き渡すまでは、これを共同で管理することとし、その管理費用は、第3項の共有持分割合に従って負担する。
6. ‥‥‥‥


遺産分割協議後、自宅不動産について「 長男1/2、長女1/2 」の共有持分割合による「相続登記」を行った上で、第三者に不動産業者を介して売却を行います。
売却実施後、売却残金を長男、長女で平等に分配します。

このようにすれば、相続人間で円満に相続手続を行うことができます。但し、この方式にも注意すべき点があります。預貯金や株式等、実家を含めた相続財産が高額のため「相続税の申告」が必要になる場合には、特に注意が必要になります。

注意点の1つ目は、「相続税」の申告が必要な場合、相続時に実家を売却すると実家の相続財産としての評価額が高くなる恐れがあるということです。相続財産の価値は、「当該財産の取得の時における時価」により評価するとされています。この「時価」は実務上は税務当局による「財産評価基本通達」に定める方法により評価されています。この通達の定めによって計算した時価よりも実際に売却された価格が時価に近いと判断されれば、自宅不動産の評価額は高くなる可能性があります。税務通達によって計算した時価は、実勢の時価より低くなることが多いからです。


次に注意する点は、相続した不動産を売却した場合は、相続税の他、「譲渡所得税」がかかることです。
実家不動産の当初の取得価格が低い場合は譲渡所得税が高くなります。税金について不安のある場合は、事前に税理士に相談することも必要になります。


さらに、実家売却には、精神的な負担もかかります。予め十分な納得と心の準備が必要となります。
古家に残された家財道具や親の遺品、その他、実家には相続人の思い出が詰まっています。他人から見れば粗大ごみの処分に見える遺品の整理も、相続人にとっては心のケアが必要な行為となります。十分な時間的余裕を確保するとともに、写真などによる記録化の工夫も考える必要があります。


なお、「古家付土地」の売却以外に空き家を解体して売却することも考えられます。これを「更地」での売却といいます。
この方式は、実家を解体して更地にすることから費用や時間がかかります。「更地」売却のメリットは「古家付土地」の売却より「高くかつ早く売却できる」可能性があるということです。

更地であれば、次に購入する方の土地利用の自由度が高まるため、購入希望者が多くなり買主が早く見つかる可能性があります。但し、「更地売却」の注意点としては、建物を解体した状態で翌年の1月1日を迎えてしまうと固定資産税が高くなることです。土地の固定資産税は上物である建物が立っていれば「住宅用地」として特例が適用され、固定資産税が大幅に安くなりますが、更地の場合は特例が適用されず固定資産税が高くなります。解体スケジュールには十分な注意が必要になります。


(まとめ)

親の空き家となった実家を相続した場合は、相続人とよく相談して活用方法を検討する必要があります。駐車場などを含めた賃貸物件として活用できる場合は、不動産業者も入れて活用方法を検討する必要があります。不動産の相続名義は相続人の共有名義とすることが考えられますが、「家族信託」の活用も選択肢に入ってきます。

活用方法がない場合や面倒な活用を考えるのが嫌な場合は、「そのままの状態で」あるいは「解体して」売却し、売却残金を相続人で分配することが考えられます。但し、第三者に売却する場合は、相手のあることですから相続人の立てたスケジュール通りには進まない可能性があります。余裕を持った計画が必要ということになります。

 

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