相続放棄には落とし穴が多いのでご注意を

相続が開始して被相続人(亡くなった方)の財産を整理していると借金が多い場合があります。生前より借金のあることはある程度分かっていた場合でも借金総額を見て愕然とする場合もあります。このような場合、相続人としては「相続放棄」を検討することになります。

相続放棄は、「相続財産はいりません。全て放棄します。」と相続人の間で宣言をしても意味はありません。また、遺産分割協議書に全て放棄する旨を記載しても効力がありません。相続放棄は、厳格な要式行為ですので、家庭裁判所に相続放棄の申述を行い受理されることが必要です。

相続放棄の手続きには、色々と注意点がありますが、特に気を付けて頂きたい3つのポイントについてご説明します。

◆相続放棄は、原則として、被相続人が死亡してから「3か月以内」に行う必要があります。

相続放棄をすることができるのは「3か月以内」となります。この期間を過ぎてしまうと相続放棄をすることができなくなります。被相続人の財産の調査で時間が必要な場合は、あらかじめ家庭裁判所に期間延長を申し出れば期間を延長してもらえます。(相続放棄の「熟慮期間の伸長の申立て」と言います。)

なお、相続放棄は被相続人が亡くなってから3か月以内と書きましたが、より厳密には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」となります。通常の場合は、ご家族などから被相続人の死亡の連絡を受けた日は、被相続人の亡くなった日となることが多いと思いますので、亡くなってから3か月になると思います。

離婚などにより親子が長らく音信不通の状態であった場合、片親で育てられた子供が離婚で別離した親の死亡を、亡くなってから相当後になってから知る場合があります。この場合は、3か月を過ぎていても具体的に親の死亡を知ってから3か月以内であれば相続放棄ができる場合があります。多くの場合、亡くなった親の借金の督促状が相続人である子供に届くことによって親の死亡を知ることになります。この場合は、督促状が届いた日から3か月以内となります。

死亡してから3か月を既に経過している場合、相続放棄できるか否かの判断は法律的に微妙なケースが多くなりますので、ご自身で判断せず相続問題に詳しい弁護士や司法書士にご相談されることをお勧めします。

◆被相続人の「遺産の処分」をすると相続放棄は認められません。

相続放棄をすると相続人は被相続人が亡くなった時から相続人でなかったことになります。そのため、被相続人の遺産(残された財産)を処分する権限はないことになります。被相続人が亡くなってから、相続人が遺産の処分をすれば、その相続人は、もはや相続放棄をする意思がないものとみなされます。当然、相続放棄は認められなくなります。

従って、被相続人の「遺産の処分」には注意が必要となります。うっかりすると処分していたことになります。

処分の具体例として、分かりやすいものは、遺産の「売却」、「贈与」や「遺産である家屋の取り壊し」、「高価な美術品の損壊」などがあります。処分に当たらないケースとしては、「保存行為」があります。例えば、腐りやすい物を処分する行為などです。

これらの典型的な行為は、通常は行わないと思いますので問題はないのですが、実際には微妙なケースが多く存在します。よくあるのが「借金の返済」です。被相続人は亡くなるまで多額の借金をしていた場合、頻繁に督促があると思います。亡くなった後も督促されることがありますが、この時、相続人が遺産の中の現金から借金の返済をした場合です

通常の場合、借金の返済は保存行為として、「処分」に当たらないとされますが、状況によっては、処分行為と認定される場合もあります。さらに、借金の返済のため不動産や高額美術品を売却してお金を作り、これで返済した場合はどうでしょうか。

この場合は「処分」と認定される可能性が高くなると思います。どうしても必要な場合は、事前に家庭裁判所の処分命令を取得して行う必要があります。

微妙なケースは、まだまだ色々あります。「葬儀費用の支払い」「仏壇や墓石の購入」があります。過度に豪華なものではなく一般的な費用の範囲内のものであれば、処分行為とは認定されないと思います。ただし、不相当なものの場合は、処分と認定される恐れがあります。

特に注意が必要な場合は、会社経営者が亡くなった時、亡くなった社長の長男などの相続人が親の保有していた「会社株式の議決権を株主総会で行使」した場合です。同族企業などで役員人事について議決権を行使する場合が多いと思います。この場合は、処分と認定され相続放棄が難しくなります。

相続放棄を検討するのであれば、遺産に対する行為は慎重にしなければなりません。一切触らないくらいの気持ちが必要となります。

◆相続放棄をすると次順位の相続人に借金が回ってしまいます。

例えば、第一順位の相続人である配偶者と子供が相続放棄をすれば、第二順位の相続人である被相続人の親が相続人になります。両親とも亡くなっていれば、第三順位の相続人である被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。

被相続人の兄弟姉妹が、ある日突然、被相続人の借金について請求を受けることがあるのです。貸金業者は被相続人の相続人を調べ上げて兄弟姉妹の方に借金の請求書を送付します。このような状況を避けるためには、関係相続人が連携をして、相続人全員が一斉に相続放棄をする必要があります

相続放棄を検討する場合は、関係親族に早めに相談をして、相続放棄がもれなく全ての相続人にできるように連絡調整をすることが理想的な進め方だと思います。もちろん、1人だけで相続放棄をすることはできますので、全ての相続人が協調して行う必要はありません。実際には、疎遠となっている親族と連携することは難しい場合もあるかと思います。

(まとめ)

相続放棄は、思わぬ落とし穴がありますので相続放棄を検討する場合は、家庭裁判所に早めに相談するか、相続放棄に詳しい専門家に相談されることをお勧めします。相続放棄は申述の申し立てが認められず却下されると二度と申し立てができませんので慎重に進めて頂きたいと思います。

 

 

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