相続人の1人が行方不明の場合、遺産分割協議はできますか

相続が発生し共同相続人が遺産分割協議を行う場合、相続人の1人の行方が知れない場合があります。「長期の家出」「出稼ぎ先での蒸発」など事情は色々あると思います。生きていることは分かっているが音信不通でどこにいるか分からない場合や生死すら不明の場合もあります。

 

不在者も相続人の1人ですので、残った相続人だけで遺産分割協議をすることはできません。このような場合に活用できる法制度として、「不在者財産管理人制度」、「失踪宣告制度」、「認定死亡制度」、「戸籍の高齢者職権消除」などがあります。通常は「不在者財産管理人制度」を活用して対応することになります。

不在者財産管理人制度は、「不在者の財産が放置され散逸するために受ける不在者の損失を防止し、不在者の財産を保存する」ための制度です。この制度の本来の目的は、不在者自身の残された財産の管理や保全です。しかし、不在者がいないため周りの利害関係人の様々なことが行えないため、不在者財産管理人に不在者の代わりとして役目を果たしてもらうためにこの制度を利用することも多くなっています。

不在者財産管理人は、家庭裁判所に選任申立を行って選任してもらいます。申し立てに使用する「不在者財産管理人選任申立書」には、申立の経緯を記載し、不在者の財産目録などを添付して行います。遺産分割協議のために行う場合は、財産目録には不在者の相続財産について記載します。不在者財産管理人の候補者を申立書に記載することもできます。記載しなければ、家庭裁判所により弁護士や司法書士等の専門職が選任されます。

 

遺産分割協議のために活用する場合は、専門職に頼むと費用面がかかることから、本件相続に直接利害関係のない親族を候補者として記載することが多いと思います。親族でも不在者財産管理人として適格性が認められれは選任されます。

また、「遺産分割協議書(案)」の添付も求められます。つまり、不在者財産管理人が具体的に選任されてから、その方と相続人で遺産分割協議を行うというイメージではなく、遺産分割協議を事前に行って遺産分割協議(案)を作成してから不在者財産管理人の選任申立てを行う順番になります。

不在者財産管理人の制度は、不在者の財産保全が目的の制度ですので、不在者財産管理人は、不在者の権利が侵害されるような行為をすることができません。遺産分割協議についていえば、不在者の法定相続分に相当する財産は、不在者に分与される協議内容であることが、原則として、求められます。

 

そのため、不在者財産管理人の選任申立て段階で、仮に選任された場合の遺産分割協議(案)を提出させて家庭裁判所による確認を受けることになります。また、実際に選任されてた不在者財産管理人が、遺産分割協議を行う場合には、別途、家庭裁判所に対して正式の確認作業が必要になります。

不在者財産管理人は、不在者の財産について通常の管理や保存行為を行うことができますが、これ以外の処分行為等を行うには、都度、家庭裁判所の許可(「権限外行為許可」と言います。) が必要になります。遺産分割協議は、不在者の相続財産の処分行為に当たりますので、この権限外行為許可を家庭裁判所に申立てて許可審判を受ける必要があります。

この場合の許可の条件として、不在者財産管理人選任段階で事前に出されている遺産分割協議書(案)と同一内容か実質的に変わらない内容であることが必要になります。

この点が、この制度を活用する場合の難しい点となります。不在者を除く他の共同相続人としては、親族である叔父さん等を不在者財産管理人に選任してもらい、共同相続人と叔父さん等で自由に遺産分割したいところです。


できれば、行方知れずで生死も不明な相続人の相続分は無視(つまり、ゼロ)としたい場合が多いと思います。
しかし、このような歯止めがかかっているため勝手な内容で遺産分割協議はできないことになっています。

但し、現実の実務の運用としては、不在者の相続分が法定相続分以下の時でも家庭裁判所が認めてくれる場合があります。条件としては、難しい場合が多いと思いますが、次のような場合です。

① 不在者が事実上、帰来する可能性が低い場合
② 仮に不在者が遺産分割協議に参加したとしても法定相続分以下で遺産分割協議がまとまると思われる場合

①は、不在となった経緯や、不在の期間、現在までの消息有無や不在時の年齢などから判断します。②は、不在者が被相続人から多額の生前贈与を受けていた場合などです。これらの点について、家庭裁判所に必要な証拠資料を添えて上申して認めてもらう必要があります。

また、特殊な分割協議の方法として「帰来弁済型」の分割協議というものがあります。これは、仮に不在者が戻ってきたときに、他の共同相続人が不在者に対して金銭等を支払うという内容の遺産分割協議です。不在者の相続分に相当する財産を他の共同相続人が金銭等として保管しておき、不在者が帰来したときに金銭(「代償金」と言います。)などを支払うというものです。

これにより、事実上、不在者の相続分を無視して共同相続人間で遺産を分配する事ができます。もちろん、遺産分割協議書上には「不在者が帰来時には、相続人□□□□が金〇〇万円を支払う」という協議文は記載します。また、不在者が帰来時には、実際に支払う必要があります。

但し、これが無制限に認められれは、事実上、不在者の権利が侵害されることになりますので、家庭裁判所においても分割協議内容について厳しく確認されます。概ね100万円以下の代償金の場合は比較的認められやすいと言われています。その他、不在者の帰来可能性や、財産内容、代償金を支払う相続人の資力、不在者と共同相続人の親族関係などが考慮されるとも言われています。

(まとめ)

共同相続人の中に不在者がいる場合は、遺産相続の手続きは一筋縄では行かないことになります。家庭裁判所が絡む手続になりますので、相続問題に詳しい専門家に相談されることをお勧めします。相続人間でコミュニケーションを密にし音信不通とならないことも必要となります。

 

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