相続した「いらない土地」を国に引き取ってもらうことができますか

親の遺産として田舎の実家や山林、別荘地を相続したとき、今後使用する予定がない場合は、土地の保有について悩むことになります。所有したまま放置していても管理費や固定資産税の支払が毎年発生します。処分を考えた場合、「売れる土地」であれば良いのですが、田舎の土地の場合、全く売れない物件が多くなっていますので悩みは深くなります。


そんな中、国は令和3年4月に「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」を制定しました。この中で相続で取得した「いらない土地」を国庫に引き取ってもらえる制度が創設されました。これを「国庫帰属制度」と言います。法の施行は、公布日から2年以内とされています。

従来、不要となった土地を国庫に引き取ってもらえる制度はありませんでした。その意味で今回の新制度創設は画期的なことということができます。制度創設の理由として、人口減少や過疎などに伴う地価の下落で「いらない土地」が全国的に増加したことがあります。この「いらない土地」は、850万戸に広がった「空き家問題」や相続登記がされていない「所有者不明土地問題」の大きな原因となっているため、対応策の1つとして考案されたものです。


そこで、相続又は遺贈により土地を取得した所有者は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができるようになりました。
ここで注意しなければならないのは、制度利用には、「国の承認」が必要な点です。希望すれば、何でも引き取ってもらえるような制度ではないことです。

より具体的に言えば、この制度の利用には、厳しい条件が付いているため、「ハードルがかなり高い」と思って頂いた方が良いということです。もちろん、条件をクリアすれば制度の活用はできますが、さらに制度の利用料といもいうべき費用負担が発生しますので、制度利用には損得計算もしっかり行って活用する必要があるということになります。

次に具体的な適用条件を見て行きます。次の項目のいずれかに該当すると制度利用はできません。相続した土地が1つでも該当すれば制度の適用はできません。

(国庫帰属制度の申請条件) ※ネガティブ要件

  1. 建物が存在する。
  2. 担保などが設定されている。
  3. 他人の通路などが含まれている。
  4. 土壌汚染がある。
  5. 土地の境界について争いがある。
  6. 崖のある土地で管理に過分の費用や労力が必要である。
  7. 土地の管理や処分に邪魔な工作物などがある。
  8. 土地の管理や処分に邪魔な工作物などが地下に埋まっている。
  9. 隣の所有者と土地を巡って訴訟をしている。
  10. 土地の管理や処分にあたって過分の費用や労力がかかる。

このような条件をクリアして国庫への帰属申請が認められる土地とは、例えば「管理や処分が問題なくできる、担保などに入っていない、平坦で汚染されていない更地」ということになります。


なお、上記で記載した土地の申請条件については、法律の文言を分かりやすく簡略化して記載しています。より正確な内容を知りたい方は、適用条文を直接確認して下さい。また、条文の文言の解釈については、今後、具体的な解釈指針が政省令として発表される予定です。

そして、条件を全てクリアして国庫への帰属申請が認められた場合、10年分の管理に要する費用を納付する必要があります。申請者が費用を納付したとき、土地の所有権は国庫に帰属することになります。管理費用の詳細も今後政省令で発表されます。

ここまで見てくると、この制度の使い勝手の悪さが気になります。そもそも田舎の土地で買い手が見つからないような土地の処分で困っているときの解決策としては、この制度内容では利用が難しいと思われます。


「管理や処分が問題なくできる、担保などに入っていない平坦で汚染されていない更地」であれば、10年分の管理料を払ってまで引き取ってもらう必要はなく、そのまま「売却」できる可能性があると思います。
処分できない土地だからこそ、この制度を活用したいわけですので、何らかの理由で処分や管理ができない問題のある土地の引き取りを拒否されれば、活用の余地は少なくなると思います。

新制度の活用判断は、新しい政省令が明らかになった時点で、条件の詳細や納付費用の額なども十分見極めた上で判断する必要があると思います。条件次第では、条件に合うように多少のコストをかけてでも制度を活用した方が良い場合もあるかと思います。隣地との境界を確定し、古家や工作物をを解体し、担保を抹消する等して、条件を全てクリアして国庫に引き取ってもらうのです。


最近の自然災害の発生状況を見ていると、そのまま放置して土砂崩れや山火事などが起きれば、所有者責任を問われる可能性があります。
古家が台風などで倒壊して隣家や通行人に怪我を負わせれば、損害賠償責任も発生します。管理が難しい物件の場合は、適用条件クリアのため、費用をかけてでも国に引き取ってもらう価値のある場合もあるかと思います。

(まとめ)

相続で取得した「負動産」の処分について、従来、全く所有権を手放す方法がなかったことからすれば、今回創設された「国庫帰属制度」は画期的なものであるといえます。

しかし、活用条件が厳しく費用負担も発生することから、活用にあたっては、今後発表される政省令をよく確認して、損得勘定を見極める必要があります。手を加えれば売れる土地であれば、そちらも選択肢となります。

但し、売却が難しい土地の場合は、今後発生する災害リスク回避などのため、引き取り条件をクリアするため多少の費用をかけてでも国による引き取りを試みることも選択肢となります。

 

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