亡くなってから10年経ったら、「遺産分割」は「法定相続分」になるのですか

令和3年の民法改正によって相続発生時の「遺産分割に関する見直し」が行われました。ごく簡単に言えば、相続が開始されてから10年以上の間、相続人が遺産分割をせずに放置しておくと、その後に実施する遺産分割の分割基準は、「法定相続分」等 (※注1) になるというものです。

 (※注1)「法定相続分」等とは、法定相続分と遺言による指定相続分のことです。

誤解のないように申し上げれば、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、すべて法定相続分等によって分割されるということではありません。10年以上経った段階で遺産分割をする場合、相続人全員が合意できれば法定相続分によることなく任意の分配方法で分割することができます。


今回の改正のポイントは、相続人間で分割方法に争いがあり、裁判所に対して「調停」や「審判」を求める際に、裁判所がどのような判断基準で分割するかという、裁判所による分割基準の決め方の問題となります。

遺産分割の基準として考えられるものとして、まず「法定相続分」と「指定相続分」があります。「法定相続分」とは民法であらかじめ定められている画一的な相続割合のことです。例えば、配偶者と2人の子が相続人の場合は、配偶者1/2、子1/4ずつというものです。「指定相続分」とは、遺言により被相続人が指定した割合のことです。例えば、長男に2/3、次男に1/3相続させる、等という内容の遺言書がある場合です。


裁判所では、この「法定相続分」や「指定相続分」を分割基準のベースとした上で、さらに「特別受益」や「寄与分」の有無を加味して判断をします。「特別受益」とは、相続人の中に、被相続人から遺贈や生前贈与によって特別の利益を受けた者がいる場合、その相続人が受けた贈与等の利益のことをいいます。例えば、「次男は生前亡くなった父親から自宅新築資金として1000万円もらった」「長女は結婚資金として800万円もらった」というものです。


「寄与分」とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらえることができる制度です。例えば、「10年間毎日亡くなった親の介護を行ったとか」「親の農地で開拓や整備を行い農作物の収穫量を増加させた」というものです。一定程度以上の貢献をしなければ認められないなど条件はありますが、認められれば多くの相続分がもらえることになります。


これまでの裁判所では、遺産分割に関する争いが持ち込まれた場合、これらの基準をベースとして分割方法を裁定します。つまり、法定相続分や指定相続分をベースにして、「特別受益」や「寄与分」の有無や額を判断の上、法定相続分や指定相続分の額を修正して具体的な相続分の額を決定します。簡単に言えば、法定相続分等に相当する額から、特別受益分があればこれを引いて、寄与分があればこれを足して相続分を決定します。(※注2) なお、このような定め方を講学上、「法定相続分による遺産分割」と対比する意味で「具体的相続分による遺産分割」といいます。

(※注2)  個々の相続人の具体的相続分の算定方法は以下の算式によります。
個々の相続人の具体的相続分=(みなし相続財産の価格(相続財産の価格+特別受益の総額-寄与分の総額)×法定相続分又は指定相続分)-個々の相続人の特別受益(生前贈与等)の価格+個々の相続人の寄与分の価格

そのため、これまでは遺産分割に関する争いが裁判所に持ち込まれ場合、各相続人は自らの相続分をより多く主張するために、他の相続人の特別受益の存在と自分の寄与分の存在を主張をします。また、そのための証拠資料を収集して主張することになります。


今回の改正は相続から10年経ったら遺産分割の「裁判所による判断基準は、法定相続分(又は指定相続分)になります」ということです。つまり、特別受益や寄与分のことは考慮しませんという意味です。相続開始後、遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する証拠書類が散逸し、関係者の記憶も薄れていることが今回の改正の理由です。また、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブを与える趣旨も含まれています。

以上をまとめれば、相続開始10年以内に遺産分割を裁判所に求めれば、具体的相続分を判断して遺産分割されますが、10年経過後に遺産分割の請求をすれば、法定相続分等によって分割されるということです。また、何年経っていても相続人全員が合意していれば、どのような分割方法も認められるということです。

なお、10年経過前に相続人が裁判所に遺産分割請求をしていた場合など、判断時点で10年を経過していても引続き具体的相続分による分割ができる例外規定もあります。新法施行日は、数年先ですが、施行日前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても新法のルールが適用されます。また、経過措置により、少なくとも施行時から5年間の猶予期間も設けられます。詳細な内容が知りたい場合は、専門家にご相談下さい。

(まとめ)

相続が発生して遺産分割をする場合、相続人間で争いがなければできるだけ早く遺産分割を行い、不動産があれば「相続登記」も早めに行うことが賢明だと思います。

相続人間で争いがあり、お互いの主張が対立している場合は、早めに家庭裁判所に申し立てた方が良いと思います。遺産分割を放置して10年が経過すると裁判所は相続人の具体的な事情や言い分に配慮することなく、一律に「法定相続分」等を基準に分割判断をします。確たる証拠資料が手元にある場合は、早めの申立がポイントになります。

 

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