「離婚」すると「相続」でも苦労しますか

最近は3組に1組が離婚する時代だと言われています。円満な離婚でない限り、離婚の協議中は揉(も)めますが、離婚後何十年も経った後、今度は「相続」問題でまた揉めることになります。


例えば、離婚後、再婚して新しい家庭を持ち、子供もできて順風満帆に人生を終えたとします。亡くなった本人に自宅や金融資産などの相続財産がある場合、残された配偶者や子供で相続することになります。ところが、離婚した前配偶者との間に子がある場合、残された相続人は前配偶者の子と揉めることになります。


離婚した場合、別れた配偶者には相続権はありませんが、別れた配偶者との間に生まれた子供には相続権があります。別れた配偶者が子供を引き取って養育した場合、交流が少なくなった子供が相続人となります。

亡くなった本人の現在の配偶者と子供にとって、本人の前配偶者の子供とは交流がないことが多いと思います。名前くらいは知っているかもしれませんが、今どこに住んでいるのかまで知っていることは少ないと思います。

しかし、亡くなった本人の相続手続をするためには、その子を探し出して相続手続に協力してもらう必要があります。具体的には、相続財産に対する「遺産分割協議」をその子を含めた相続人全員で行う必要があります。遺産の分割協議ですので、遺産の分け方を話し合うことになります。

残された相続人で前配偶者の子の現在の住所を探索することが難しい場合は、法律の専門家に戸籍等からの調査を依頼することになります。

殆んど交流のない者同士が、突然、遺産分割という生々しい協議を行うわけですから、お互いに大変な精神的ストレスがかかります。簡単には解決できずに決着までに時間がかかることもあります。


話し合いが長引くと「相続税」の関係で問題が生じる場合があります。相続税は亡くなってから10か月以内に申告する必要がありますが、この期限を遵守できない恐れがあります。特に問題となるのは、法定申告期限までに申告しないと相続税の特例的な減税措置が受けられなくなることです。

具体的には、配偶者は法定相続分又は1億6,000万円のいずれか多い金額まで相続しても相続税がかからない「配偶者の税額軽減措置」があります。また、自宅の敷地について一定の条件の下、土地の評価額を330平方メートルまで80%減額できる「小規模宅地特例」があります。

これらの特例措置は、法定申告期限までに相続税の申告をした場合に適用できる制度ですので、遺産分割協議で話し合いが長引いていると申告期限に間に合わなくなります。その結果、余分な税金を納める必要が生じます。


このように、子の出生後に「離婚」をすると、その後の「相続」で残された相続人が大変な苦労をすることがあります。

 

( 対策方法 )

そこで、これらのトラブルを回避するための生前対策として「遺言書」の作成があります。

具体的には、遺産の分割方法について遺言書に書いておくことです。遺言書に書いておけば、遺産分割で揉めることなく遺言書に書かれた内容で分割することができます。

遺言書があれば、不動産の名義変更も預貯金などの金融資産も、原則として、遺産分割協議書がなくても相続手続をすることができます。この場合の遺言書は「公正証書」によって作成しておくことが望ましいと思います。


自筆証書遺言の場合、遺言者の我流で作成されると遺言書の不備となる可能性があり、法的な効力が生じない恐れがあるからです。事前に「争族」問題が予想されるような場合は、より確実な手段を選択してほしいと思います。

(遺留分への配慮)

別れた配偶者の子には1円も相続させたくないと思う場合もあります。しかし、相続人である子には、遺言書によっても奪うことのできない相続分があります。これを「遺留分」と言います。子供には本来の相続分の1/2の遺留分があります。

例えば、相続関係が、現在の配偶者とその子供2人、前配偶者の子1人の場合、それぞれの法定相続分は配偶者(1/2)、子供(1/6)、子供(1/6)、前配偶者の子(1/6)となります。前配偶者の子の遺留分は1/12 (1/6×1/2)となります。

遺言書の書き方としては、遺留分に配慮して一定の財産を前配偶者の子に相続させる内容とすることが新たな揉めごとを生じさせない方法だと思います。遺留分に配慮した遺言内容とすることをお勧めします。


( 遺留分は無視したい場合 )

しかし、過去の色々な人間関係から1円も渡したくない場合もあると思います。その場合は、一切相続させない内容となります。

但し、1円も相続させないとした場合は、前配偶者の子が納得すれば良いのですが、納得しなければ「遺留分侵害」となり、前配偶者の子から相続人に対して「遺留分侵害額請求」をされることになります。

遺留分として請求された金額に納得できれば、現金で支払うことになりますが、金額に納得できなければ支払いを拒否することになります。

支払を拒否された前配偶者の子は、遺留分侵害を巡って必要と判断すれば、裁判手続きを起こすことになります。裁判手続きが開始されれば、遺留分侵害額は裁判手続きの中で判断されます。

但し、そもそも前配偶者の子の所在がつかめないときは、遺言書だけで相続手続をして終了となる場合もあります。前配偶者の子が親の死亡を知らなければ請求されることがないからです。この場合は、遺留分侵害額請求権という債権の時効(10年)まで待てばよいことになります。


(まとめ)

子のある夫婦が離婚した場合は、将来、必ず相続問題が発生します。離婚経験のある方は、一定の年齢になったら相続について真剣に考える必要があります。何もしなければ、多くの場合、残された相続人が大変な苦労をすることになります。

遺言書の作成が最も簡便な対策方法だと思いますので検討して下さい。不安のある方は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談下さい。最善の対応策を教示してくれると思います。

 

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