「遺留分」を侵害する遺言書を「調停」で解決できますか

遺留分を侵害する遺言書が作成され遺言者が亡くなった場合、遺留分を侵害された相続人は、遺留分相当額の権利主張をすることができます。これを「遺留分侵害額の請求」といいます。


「全ての財産を長男に相続させる」等の遺留分を侵害する遺言書が発見された場合、自筆証書遺言であれば、まず「検認」の手続きを行います。
検認手続きとは、家庭裁判所において定められた期日に相続人全員が呼び出され、相続人全員の前で遺言書の内容が裁判官によって確認される手続です。そして、その場で「検認調書」が作成されます。


つまり、遺言書の検認手続とは、裁判所が遺言書のコピーを取得・保管して、その後の遺言書の改変を防止する「証拠保全手続」ということになります。
裁判官は遺言書の真偽や遺言内容の法的有効性について判断しません。遺言書の真偽や内容の有効・無効は、別途、不満のある相続人等からの訴え等によることになります。

なお、公正証書遺言や法務局に保管依頼されている自筆証書遺言については、検認手続きは不要です。

遺留分を侵害する遺言書であっても、検認手続を経れば不動産登記や預貯金等の名義変更などをすることができます。公正証書遺言等の検認手続きが不要な遺言書は、直ちに手続きを開始することができます。そのため、遺産を承継した相続人が遺言の執行手続を早急に進めていく可能性があります。遺留分を侵害された相続人としては、こちらも早急に遺言書が遺留分を侵害していることについて申出を行って、話し合いをする必要があります。


話し合いの結果、円満に遺留分について解決できれば何の問題もありません。しかし、簡単には話し合いで決着がつかない場合があります。そのときは、やむを得ないので家庭裁判所に対して「遺留分侵害額の請求」という家事調停を申し立てることになります。


申立にあたっては、事前準備として遺留分を侵害された者から遺言により遺産を承継した者に対して「遺留分侵害額請求権を行使する」旨の意思表示をする必要があります。
具体的には、次のような内容証明郵便で遺留分侵害額請求を行います。

『 被相続人亡父の平成28年3月5日付自筆証書遺言の遺言内容は、私の遺留分(4分の1)を侵害しております。よって、私は貴殿に対し遺留分侵害額の請求をします。』


次に家庭裁判所に対して、家事調停の申立書を作成して申立てを行います。
申し立てには、「遺産目録」と各遺産の評価額が分かる残高証明書などを添付します。

これにより、家庭裁判所での調停期日が定められ、双方当事者(又は代理人)が出頭して双方の主張を展開することになります。調停委員の意見を参考に話がまとまれば、調停調書が作成されて終了となります。調停調書は判決と同一の法的な効力がありますので強制力があります。

調停での話し合いの中で、遺言で遺産を承継した者から遺留分請求者に対してなされる反論には次のようなものがあります。

<よくある反論①>

遺留分請求者は、遺言者の生前、遺言者より「結婚費用」の提供を受けている。金額にして〇〇万円になるので遺留分相当額以上である。

<よくある反論②>

遺留分請求者は、遺言者の生前、遺言者より「海外留学費用」の提供を受けている。金額にして〇〇万円になるので遺留分相当額以上である。

<よくある反論③>

遺留分請求者は、遺言者所有の土地の上に建物を建てて自宅としている。遺留分請求者は遺言者に賃料相当分を支払わず無償で土地を利用している。その結果、遺留分請求者は遺言者より「使用借権相当の利益」を享受している。その額は、少なくとも〇〇万円を下らないものであり、遺留分相当額以上である。

<よくある反論④>

遺留分請求者は、過去に事業に失敗して多額の借金(〇〇万円)をした。その際、遺言者に借金を肩代わりしてもらった。この金額は遺留分相当額以上である。


遺言により遺産を承継した者は、これらの反論により、遺留分請求者が、生前、遺言者より受けた贈与は、いずれも「特別受益」に該当し、既に遺留分相当額以上の利益の享受を受けているので、今回の遺留分請求は認められないと主張します。

これらは一例ですが、調停での議論の大半は、過去に受けた特別受益の有無や額が議論の中心になります。調停での議論が不調になった場合、次は裁判(審判)にステージが変わりますが、裁判での議論の中心も、やはり特別受益の有無ということになります。

従って、調停に臨むに当たっては、事前準備として過去の利益供与に関する事実についての証拠資料を準備しておくことが肝要になります。相手方の間違った過大な主張を是正できるだけの証拠資料が手元にあれば、堂々と反論することができ議論を有利に展開することができます。

なお、先ほどの「よくある反論」に対して、一般的な判断基準としては、次のようになります。

「結婚資金」‥ 一般的に不相当に多額でなければ、「結納金」や「挙式費用」は特別受益にあたりません。一方、「持参金」や「支度金」で金額が大きければ特別受益に該当します。

「留学費用」‥ 親の経済状況や社会的地位からみて海外留学させることが親としての扶養の範囲内と思われる場合は、特別受益にあたらないとされています。また、他の相続人が同程度の教育を受けている場合も特別受益に該当しないことになります。

「使用借権相当の利益」‥ 遺言者と同居していた場合には特別利益にあたらない可能性があります。なお、使用借権相当額の算定方法としては、賃料相当額(相当賃料額×使用年月数)ではなく、より低額となりやすい使用借権相当額(更地価格の1割から3割程度)を使用します。  

「借金肩代わり」‥ 原則として特別受益にはなりません。遺留分請求者の借金は遺言者が肩代わりした結果、遺言者の遺留分請求者に対する求償債権として残っているからです。但し、遺言者が求償債権を放棄した場合でその額が遺産の前渡しと言える程度に高額な場合は特別受益にあたります。

(まとめ)

遺留分侵害額請求を調停で決着しようとすると簡単にはいかない場合が多くなります。ちょっとした感情のもつれが原因で揉めていた場合は、話し合いで納得できれば、案外簡単に決着する場合もあります。しかし、大半の場合は、話し合いでの決着は難しい場合が多く、過去の特別受益に対する証拠となる事実の積み重ね合戦となります。そのため、半年から1年と調停期間も長くなってしまいます。

そこで、調停の早い段階で妥協点を見つけて早期決着を図ることも選択肢となります。相続税の申告が必要になる場合は申告期限の管理も必要になります。

 

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