相続財産のうち、合意できた分だけ、とりあえず「遺産分割」できますか

相続財産のうち相続人間で争いのない財産について、先行して遺産分割協議を行うことが有益な場合があります。例えば、相続財産が自宅と賃貸不動産、預貯金の場合において、自宅と預貯金は相続人のうち誰が相続するか合意できている場合、賃貸不動産を一旦除いて、遺産分割協議を行うことです。


自宅は残された妻が相続し、預貯金は法定相続分で分割することに妻や子供達(長男、次男、長女)に異論はないが、賃貸不動産の相続については、誰がどのような形態で相続し、賃料をどのように分配するか等、相続人間で今しばらく調整が必要な場合が考えられます。


そこで、争いのない妻への自宅の相続登記と預貯金の相続手続を早急に実施できるように遺産分割協議を合意の取れたものだけに限定して行うメリットがあります。
これを遺産分割協議における「一部分割」といいます。


「一部分割」については、これを行うことができるとするのが従来の一般的な見解でしたが、条文上の根拠がなかったため、これを有効に行うための要件などが不明確な状況でした。
ところが、平成31年の相続法の改正により、「一部分割」について規定が新設されたことから、遺産分割協議における対応方法として正式に認知されることとなりました。

これによれば、共同相続人は被相続人(亡くなった方)が遺言で禁止した場合を除いて、いつでも、遺産の一部を残余財産から分離独立させて、確定的に分割させることができるようになりました。 但し、共同相続人の間で、今回の遺産分割が「一部分割」であることを認識したうえで合意する必要があります。


相続法の改正により正式に認知された遺産分割における「一部分割」は、従来より相続実務の世界ではよく見られた分割方法でした。しかし、一部分割には、「問題の先送り的な要素」もありますので、実施する場合は先行する協議内容と残余の協議内容の関係性について十分に相続人間で合意を得ておく必要があります。

具体的には、後行分の遺産分割協議を行う前提として、先行分の協議結果を踏まえるか否かについて、次の2つの異なった考え方があります。

①先行分の協議結果を踏まえて、それに上乗せする形で後行分の相続分を決定する。

②後行分の協議は先行分とは独立して行い、先行分の結果は考慮しない。

どちらの考え方を取っても良いのですが、その点について相続人間で合意を取り、先行分の遺産分割協議書の内容に予め含めておくことが無用な争いを防ぐことができ望ましいと思います。


また、「一部分割」を実施する場合は、「相続税」についても注意が必要になります。
遺産総額が相続税の免税額以下であれば気にする必要はありませんが、相続税の納付が想定される場合は考慮が必要となります。

相続税は申告期限までに遺産分割協議が完了していない場合は、未分割遺産については法定相続分で分割したものと想定して課税価格が計算されます。各相続人は、遺産分割が完了した分については取得した相続財産として、未分割分については法定相続分を相続したものとして相続税の申告を行います。

後日、遺産分割が完了した場合、当該分割により取得した財産による課税価格が、先に納付した税額と異なる場合、税額が不足する場合は「修正申告」をし、税額が過大となっていれば4ヶ月以内に「更正請求」を行うことになります。修正申告では不足分を納付し、更正請求では過大分の還付を受けます。


このように相続税の申告が必要な場合は、「一部分割」を行うと納税処理が面倒になります。

さらに、注意すべき点として、相続税における各種優遇制度の適用について「一部分割」を行うと適用できなくなることがあります。一部分割を実施する場合は十分な確認が必要となります。各種優遇制度の具体例として、「配偶者の税額軽減」規定や「小規模宅地特例」の適用があります。

「配偶者の税額軽減」の規定とは、配偶者は相続税における課税価格の算定に際し、相続により取得した財産の価格が、①法定相続分相当額、又は②1億6000万円のいずれか多い金額以内であれば、相続税が非課税となる定めです。

この規定の適用を受ける条件として、相続税の申告期限までに遺産分割協議が終了し、配偶者が実際に財産の名義変更を完了していることが必要となります。一部分割により先行する遺産分割協議で妻の取り分が少なく、後行分で妻に多額の財産が分割されるケースで、途中に相続税の申告期限を挟(はさ)んでしまうと満額の減税効果が受けられなくなる恐れがあります。


もちろん、相続税については、救済措置も準備されています。未分割の残余財産が申告期限より3年以内に分割された場合は、相続税の更正請求を行うことにより「配偶者の税額軽減」の適用を受けることができます。但し、条件として、当初の相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出しておく必要があります。

また、「小規模宅地特例」の適用についても相続税の申告期限までに宅地の取得について遺産分割協議が終了していることが必要になります。いずれにしても、一部分割を検討する場合は税理士に相談した方が良い場合があります。

(まとめ)

遺産分割は、できるだけ早急に相続人間で協議をし合意をした方が良いと思います。しかし、遺産内容や相続人の状況によっては、協議に時間がかかる場合も想定されます。協議が長期間に及ぶ場合、その間の各相続人の生活維持の問題もあるため、合意できた分だけの「一部分割」の必要性も十分考えられます。

そこで、一部分割を実施する場合は、先行する遺産分割協議の中で後行分の協議の進め方についても相続人間で十分な合意を取っておくことが大切になります。あわせて、相続税についても十分考慮し、余分な税金を支払うことのないようにしてもらいたいと思います。

 

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