相続による預貯金の名義変更は意外と大変です

親が亡くなって葬儀などが終わり諸届も終わって一段落しても休んでいる暇はありません。今度は親の遺産の承継を考えなければならないからです。土地・建物の名義変更は勿論のこと預貯金や投資信託、株式、生命保険など親の持っていた資産についてそれぞれ相続人等への承継を考えなければなりません。この資産承継の手続きが一筋縄ではいかない結構な難物なのです。

まず問題となるのは、親の資産を子が詳細に承知している相続人の方が意外と少ないということです。土地・建物や自動車、貴金属等は目に見えますが、金融資産は日常生活で話題になるものでもなく、全貌を把握している相続人の方は稀だと思います。

親の残した通帳や証書、郵便による送付物等を子細に確認して金融資産を1つ1つ確認していく必要があります。通帳の入出金記録を丹念に確認して、生命保険料の引落や利息・配当金の入金状況などから金融商品を洗い出していきます。もれなく把握しようとすると結構な時間と体力が必要となります。最近は、インターネットバンキングが普及している関係から探索には一層の困難が伴います。

親の持っていた金融資産の全貌が明らかになったら、それぞれの金融商品の名義変更手続になりますが、問題はこの名義変更手続きが金融機関毎にそれぞれ独自の手続であるということです。定まった届出書と証明書類を持参すれば、その場で名義変更してもらえるものではないということです。

相続手続の受付は、取引店でのみ行う金融機関もあれば、どの支店でも受け付けてくれるところもあります。相続センターを別に設けてそこでの受付とする金融機関もあります。相続手続で必要となる届出書や必要な証明書類は、受付段階で遺言書や遺産分割協議の有無などに応じて必要な書類が案内されますが、それぞれの金融機関が定めた内容となっています。

さらに、問題となる点は相続手続で必要となる色々な証明書類は原本が必要ということです。証明書類の中でも亡くなった方と相続人の戸籍はどの金融機関でも必要となります。特に亡くなった方の戸籍は、通常は生まれてから亡くなるまでものが必要となるため相当な数の戸籍が必要となります。しかも、生まれてから複数回の転籍をしていることが多いため1か所の役所だけでは戸籍を入手することができません。遠隔地の役所宛てに戸籍収集を申請する必要があります。

取引金融機関分の戸籍を用意するのは費用的にも大変です。最近は、法務局に相続関係者の戸籍や住民票を提供して亡くなった方の相続人情報を公に証明する「法定相続情報一覧図」の制度が普及してきました。予め1セット分の戸籍等を揃えて法務局に提供すれば、この「法定相続情報一覧図」が必要枚数分発行してもらえます。法定相続情報一覧図は戸籍等の原本の代わりなるため、これを有効活用すれば、多数の戸籍を収集する必要がなくなりました

問題は、この法定相続情報一覧図は、ご自身で作成する必要がありますが、書き方が意外と難しいということです。ごく簡単な事例は別として、書き方には制約が多いため意外と苦戦する場合があります。

具体的な金融商品の相続(名義変更)方法としては、預貯金の場合は、通常、解約して相続人の銀行口座に振り込む扱いが多いと思います。定期預金などは満期の関係で相続人名義に変更される場合もあります。

手続が面倒となるのは、株式(上場株式)の場合です。株式は亡くなった方の名義のままで解約(売却)することができません。相続人となられる方が予め株式用の口座を持っていない場合は、証券会社で口座の開設から行わなければなりません。相続人の口座に株式が移転されて、必要な場合は、相続人が株式を売却することになります。

さらに、株式を保有されていた場合は、未受領配当金の問題が発生することがあります。株式は中間・期末と年2回程度配当金が発生しますが、この配当金の受取りを口座振替契約で行っていない場合、配当金受領用の証書(「配当金領収書」)が送られてきます。この未受領の配当金は配当金領収書で相続人が簡単に受け取ることができません。配当金受領のため株式の相続手続とは別の相続手続が必要となります。通常は、株式を管理している信託銀行宛てに相続手続を行う必要があります。

生命保険金の請求や入院給付金の請求には、死亡診断書(コピー)や医師の診断書が必要になります。保険に付保されている特約の状況によっては、死亡時の状況などについて詳しく調査担当者からのヒアリングを受けることもあります。年金をもらっていた方は、死亡届と未払い年金の請求手続が必要となります。

このように相続による預貯金等の名義変更は、面倒で大変な手続きとなっています。仕事をされている方で平日に役所や金融機関に行くことが難しい相続人にとっては大変厄介なものとなります。ご夫婦の一方が相続された場合、手の空いている他の配偶者が手続きを進めることはできますが、それぞれの手続きに本人の委任状が必要となります。相続に伴う遺産承継は、時間と体力がかかることを想定することが必要ということになります

どうしてもご自身で行うことが難しい方は、相続や遺産承継に詳しい弁護士や司法書士に依頼することも選択肢になるかもしれません。弁護士や司法書士は法令で財産の管理や処分業務を行うことのできる専門家として定められていますので、安心して依頼することができます。

相続に伴う諸手続きは、人生で1・2回あるかないかの手続です。全て初めての経験となると思いますので、簡単に済ませることができると考えずに、ある程度の覚悟を持って対応して頂きたいと思います。

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