「相続登記の義務化」法案が今国会に提出されます

法制審議会で長らく議論されていた「相続登記の義務化」を含む民法・不動産登記法の改正法案が今国会に提出され成立を目指すこととなりました。土地の所有名義人が亡くなっても登記名義を変更せず、そのままとなっている土地が多いことから、「所有者不明土地問題」が発生し大きな社会問題になっていることに対応するものです。

改正点は多岐に渡りますが、主要なポイントは、次の3点です。

① 不動産の相続による名義変更 (相続登記) の義務化 (罰則付き)
② 不動産の名義人が引っ越しや結婚などで住所や氏名が変更になった時、不動産の名義人の変更登記の義務化 (罰則付き)
③ 相続したくない土地を手放すことのできる制度の創設

具体的内容について見て行きます。

<相続登記の申請の義務付け>

法案の要綱案によれば、次の通りとなっています。

「不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。」

「申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。」

要するに、「不動産を相続した場合、相続人は3年以内に相続登記をしなければならない。」ということです。相続登記が法律上の義務となり、実施しない場合は、罰則として10万円の過料が課せられるということです。

現在、相続登記は相続人の任意となっていますが、今後は法律上の義務となります。

<氏名又は名称及び住所の変更の登記の申請の義務付け>

法案の要綱案によれば、次の通りとなっています。

「所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」

「申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処する。」

要するに、「不動産の登記名義人の住所・氏名が変更になった場合、登記名義人は変更登記を2年以内にしなければならない。」ということです。変更登記が法律上の義務となり、実施しない場合は、罰則として5万円の過料が課せられるということです。

現在、変更登記は相続人の任意となっていますが、今後は法律上の義務となります。

また、相続登記や変更登記の実効性を担保するために、法務局(登記所)は住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を照会して登記名義人の死亡や住所・氏名変更情報を把握できるシステムも併せて構築されます。

今回の法案が通れば、親が亡くなり親名義の不動産がある場合、全ての相続人ができるだけ早く集まって遺産分割協議を行い不動産の相続人を決める必要があります。相続人が決まれば相続登記を申請期限内に行う必要もあります。現在、相続税の申告期限は10ヶ月以内と決まっていますが、申請期限は違いますがそれと似た感じになります。

不動産の登記名義人が引っ越しなどで住所を変更した場合も、できるだけ早く変更登記をする必要があるということです。

期限を過ぎても登記申請がなされない場合は、登記所より登記申請の催告通知のようなものが届くことが予想されます。これを無視すると裁判所より過料の納付通知書が届くことになると思います。

<相続したくない土地を手放すことのできる制度の創設>

法案の要綱案では、タイトルは「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する制度を創設する」となっています。

法案の要綱案によれば、次の通りとなっています。

「 土地の所有者は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求めることができる。」

「承認申請をする者は、承認申請に対する審査に要する実費の額を考慮して政令で定める額の手数料を納めなければならない。」

「 法務大臣は、承認申請に係る土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。

① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの」

要するに、「田舎の土地等で資産価値の低い土地を相続したくない場合、申請すればその土地の相続を放棄して国に引き取ってもらえる」ということです。但し、引き取られるためには、更地で担保が付いていない等、一定の条件が定められており、また一定の審査手数料も必要ということです。

相続登記が進まなかった理由の1つとして田舎などの資産価値の低い土地について相続することをためらうことがありました。相続すれば土地の固定資産税の負担も重荷になります。相続放棄の制度は現行の制度としても存在しますが、制度上、資産価値のある不動産や金融資産は相続した上で資産価値の低い土地だけ相続放棄することはできないため、相続放棄も行われていませんでした。相続放棄をすれば全ての遺産について放棄することになるからです。

今回創設された土地の国庫への引き取り制度は、相続放棄することなく特定の土地のみ放棄することができる制度となっています。但し、引き取られる土地の条件は厳しいため、どんな土地でも放棄できるものではないようです。国による引き取り審査は結構厳しくなるかもしれません。

(まとめ)

今回の改正によって、相続が発生したら早めに相続登記をする必要がある時代になります。しかし、遺産分割を巡って相続人の間で円満に協議が進めば問題ありませんが、現実には相続を巡る争いは近年多くなっています。いわゆる「争族」問題の発生です。

相続人の間で揉めていては期限までに相続登記をすることができなくなってしまいます。終活として遺言書を作成するなど争族の発生が予想される場合は必要な対策を前もって行っておくことがますます重要になると思います。

 

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