国立大再編への号砲。名古屋大学が岐阜大学と法人統合協議開始

3月22日、国立大学の名古屋大学と岐阜大学が、運営法人の統合に向けて4月下旬に協議に入ることが分かりました。文科省も統合協議について承知しているようです。現在、各国立大学は、国立大学法人をそれぞれの大学が設立し、この国立大学法人が大学の運営をしています。

現在、この国立大学法人の下には1つの大学しか傘下に入れない規制がかかっています。この規制がある為、国立大学の統合は、現在はできないことになっています。今回この規制を緩和する方針が、文科省の中央教育審議会で協議されていることから、この結論を先取りした形で両大学の統合協議になったようです。

比喩的に会社法で例えるならば、1つの国立大学法人を持ち株会社として、その傘下に各国立大学が子会社としてぶら下がる方式 (これを「アンブレラ方式」と言います。) を中央教育審議会が検討し、本年秋を目途に答申を出す予定です。両大学は、この答申を先取りする形で協議を進めるようです。答申が認可され、法改正がされれれば、適用第1号になると思われます。

今、少子化の影響で大学の運営は、年々厳しい状況になっています。私立大学の定員割れ問題は深刻化していますし、一部の私立大学は公立化を目指して生き残り策を模索しています。国立大学も状況は、基本的に同じで少子化に対する対策は急務となっています。

名古屋大の構想では「東海国立大学機構(仮称)」を設立し総務や財務、法務などの管理運営部門を共通化する。合理化で生まれた職員や資金を各大学の強みとなる研究支援や競争力を高める分野に重点的に回す戦略の様です。大学名や学部、学科などはそのまま残して変更はないようです。

企業経営で考えると、要するに、製造・営業部門はそのままにして、本社組織を統合スリム化して、浮いた経費を戦略分野に投資することだと思います。恐らく、持ち株会社の名称から見て、名古屋大学の下に今回の岐阜大学以外にも三重大学や名古屋工業大学などの東海地区の国立大学が傘下に入る構想の様に思われます。

しかし、何故、名古屋大学がこのような構想を検討しているのでしょうか。名古屋大学は、東海地区では頂点にありますが、全国的には有名ではありません。「めいだい」と言えば、東海地区では「名大」ですが、全国的には「明治大学」のことだと思います。

また、旧帝大の中では、比較的財政規模が小さいのが難点の一つでもあります。最近の様に研究開発に莫大な資金が必要な状況では、競争力を維持する為には、財政的に規模拡大をする必要があったと思われます。名古屋大学は補助金の交付でも十分な地位を築けていません。

■「運営交付金」の多い国立大学 Top10
第1位 東京大学……803億円
第2位 京都大学……531億円
第3位 東北大学……456億円
第4位 大阪大学……443億円
第5位 九州大学……412億円
第6位 筑波大学……404億円
第7位 北海道大学……370億円
第8位 名古屋大学……313億円
第9位 自然科学研究機構……286億円
第10位 広島大学……247億円

名古屋大学は、伝統的に自然科学分野での学問研究に定評があります。同キャンパスには2008年の物理学賞を授賞した小林誠、益川敏英両特別教授と、同年の化学賞を受賞した下村脩特別教授を記念した展示室があります。2001年の化学賞を受賞した野依良治・理化学研究所理事長の名を冠した野依記念物質科学研究館もあります。

自然科学分野のノーベル賞を受賞した日本人は米国籍の南部陽一郎、中村修二両博士を除き17人です。今世紀に入ってからの受賞者に限れば、11人中6人が名古屋大学を卒業したか在籍した研究者で、半分以上を占めます。

名古屋大学では、帝大系の他の大学に比べて、教授と学生の関係がオープンで自由闊達な議論のできる伝統があります。また、地味な基礎研究を長年続ける粘り強さもあります。このの伝統がノーベル賞の多数受賞につながっていると思います。

<ノーベル賞受賞者>
野依良治先生
小林 誠 先生
益川敏英 先生
下村 脩 先生
赤﨑 勇 先生
天野 浩 先生

これらの過去の栄光に浸っている暇もなく、足元の研究開発費の捻出を固めないと、今後の学問成果は期待できなくなるとの危機感があると思います。何としても、研究開発の為の財源確保を図りたい思いがにじみ出ていると思います。

中部地区はトヨタ自動車を核に裾野の広いものづくりに強みのある企業が多いです。名古屋大学は、これら企業に多くの卒業生を送り出してきました。その意味で、産学共同のプロジェクトも今後とも増えてくることでしょう。現在経団連会長の榊原定征・東レ会長は、名古屋大出身です。中部のものづくりを支える中核大学としての使命感も今回の統合の動機となっていると思います。

今回、この統合が旨く行けば、全国の国立大学にとって、パンドラの箱は空いたことになります。東大、京大は別格かもしれませんが、北海道大学、東北大学、大阪大学、九州大学など地域の中核大学を中心とした国立大学の統合・再編が急速に進むような予感がします。まさに、国立大学再編の号砲が鳴ったと言っても良いでしょう。

 

 

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