血液検査による認知症の早期発見が可能になりそうです

認知症の発症原因の中で最も多い「アルツハイマー症」の診断を血液1滴で検査できる方法を名古屋市立大学と大分大学の研究チームが発見し、令和元年11月5日に発表しました。研究成果は、米国のアルツハイマー病研究の学術誌に掲載されました。

研究グループは、既に製薬会社と検査キットの開発を進めており、早ければ2~3年で医療現場での実用化が期待できるとのことです

アルツハイマー病は、発症の20年以上前から「アミロイドベータ」というたんぱく質が脳内で蓄積していくことが原因の1つと考えられていますこのアミロイドベータは蓄積が進むと治療の効果が出にくいことが分かっています。つまり、早期発見、早期治療がポイントとなる病気なのです。

しかし、現在、アルツハイマー病の診断は、陽電子放射断層撮影装置(PET)や、脳脊髄液を採取して、アミロイドベータの蓄積度合いを調べていますが、費用が高いことや患者の負担が大きいことが課題となり、臨床現場での早期診断は普及していません。

今回発見された早期診断手法は、培養した脳内の細胞にアミロイドベータを投与すると、細胞から出る「フロチリン」というタンパク質の量が減ることに着目しています。アルツハイマー病の発症者と未発症者の血液を分析すると、発症者の方がフロチリンの量が少ないことを発見しました。これにより、フロチリンの量を確認すれば、アルツハイマー病の早期診断が出来ることとなりました

フロチリンは、少量の血液検査で分析ができることから、患者に負担のない臨床現場での早期診断方法として活用が期待されます。なお、識別精度については、検証実験では発症者と未発症者を9割の確率で識別できるとのことです。アルツハイマー病の前段階である「軽度認知症(MCI)」の患者の分析でも同様の結果が示されているとのことです。

認知症の早期発見が出来れば、治療を早期に開始することができ、実際の発症時期を遅らせるなどの対策を取ることが出来るようになります。この検査キットは、高齢化が進んだ我が国にとって極めて有用なものと考えられますので、早晩、中高年の健康診断項目に組み入れられると思います。そうなれば、自分自身の認知症の発症リスクが「見える化」されます。

将来的に認知症の発症リスクが高いと診断された場合、必要な場合、医療面の治療を開始することになると思いますが、あわせて日常生活における事前の準備を考えることが必要となって来ます。

認知症になった場合、進行度合いに応じて、ご自身で出来る行動が制約されてきます。身体的な活動が制約される場合も多いかと思いますが、それに加えて、事務を処理することが出来なくなります。進行が最も進めば、預貯金の出し入れから、戸籍や印鑑証明書の取得、色々な契約の締結等の行為が出来なくなります。

例えば、介護施設に入所したい場合、入所費用捻出のため手持ち資産の売却が必要となる場合があります。この時、法律的に有効な売却行為が出来なくなります。手続きが必要な場合は、費用や手続面で負担や制約の多い「成年後見制度」を利用せざるを得なくなります

勿論、成年後見制度は認知症発症者の為の法的な支援制度として重要な役割と実際の活用がなされています。ただ、必ずしもご本人やご家族の期待に沿うものとは言い難い面もあります。

成年後見制度の利用は、資産売却などの必要性に迫られた状況の中で、認知症発症により他に選択しうる手段がない場合に活用するイメージがあります。今回の認知症の早期発見手法が確立すれば、早い段階で将来の認知症の発症を予知することが可能となる為、対策を検討する時間が取れます

また、対策手法も色々なオプションを選択することが出来るようになるためご本人や家族にととっても大変ありがたいと思います。

ご本人が認知症になった時、法的な支援をする「後見人」をご自身で予め選択できる「任意後見」制度の利用や保有資産の運用管理などを早い段階でご家族などに任せることのできる「家族信託」の活用、軽度の認知症の場合の身の回りの事務処理をご家族などに委任する「事務委任契約」など選択肢が大変多くなってきます。また、早めに遺言書を書いておくこともできます。

医療の高度化とともにご自身の将来的なリスクを早期に発見して早期に有効な対策を打っておくことが益々重要となる時代となって来たようです。

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