盗まれた車が交通事故、車の所有者の責任はどうなる?

盗まれた車が交通事故を起こした場合、車の所有者の被害者に対する損害賠償責任について、令和2年1月21日、最高裁判決がありました。判決では車の所有者の責任は認められないとされました。判決結果について当たり前のように感じるかもしれませんが、実は下級審では判断が割れた微妙なケースでした。

今回のケースは、会社の業務用の車が盗難に遭いました。従業員が車を離れる際、車のキーをサンバイザーの裏に挟んで車から離れたところ、窃盗犯によって車が盗まれました。盗難から約5時間後、窃盗犯が車を運転中に居眠りをして前方の車に追突し、弾みで2台の別の車も巻き込むという事故を起こしました。被害に遭った車の所有者らが、盗まれた車を所有する会社に損害賠償を起こしたというものてす。

一般人の常識では、車を盗まれた会社は被害者であり、事故を起こしたのは窃盗犯なのだから窃盗犯が損害賠償をすべきではないのかと考えると思います。それは間違っていません。

交通事故という不法行為を起こしたのは窃盗犯ですので第一義的には窃盗犯が不法行為による損害賠償責任を負います。問題は、窃盗犯の経済的な責任能力です。

交通事故の場合、損害賠償は通常は保険で解決します。保険は車にセットされていますので窃盗犯の責任を追及してもお金は出ません。窃盗犯がお金持ちであれば問題ないのですが、通常は弁済するお金はないと思います。その結果、被害者は、保険をセットしている車の所有者の責任を求めて訴えを起こすことになります。

交通事故の場合、被害者救済のため、法律では独特の考え方をします。具体的には、自動車損害賠償保障法という法律が考え方を規律しています。それによれば、交通事故(人身事故を想定)が発生した場合、損害を賠償する者 (責任を負うもの) は、「自己の為に自動車を運行の用に供する者(「運行供用者」と言います)である」としています。

「運行供用者」という法律的な概念を作り出して、より被害者救済が可能となるように工夫をしているということです。即ち、運行供用者とは、実際に自動車を運転していた人だけでなく、自動車の運転及び走行をコントロールできる立場にある人や自動車の運行によって利益を受けている人も運行供用者となります。人には、会社等の法人も含みます。

具体的には、次のようなケースでは車の所有者が運行供用者となり責任を問われる場合があります。

① 車を友人に無償で貸してあげたところ、その友人が事故を起こした。
② 従業員が会社の車を会社に無断で使用して事故を起こした。
③ 今回のように泥棒が盗んだ車で事故を起こした。

勿論、全ての場合に責任を負うというものではありません。交通事故による損害賠償責任は、民法の不法行為責任(709条)に根拠を置いていますので、責任を問う前提として、必要な要件を充足する必要があります。要件の中で最も重要となるものが「過失」の有無です

自働車の所有者に過失(簡単に言えば不注意)がなければ、責任を負うことはありません今回の裁判のケースでは、この過失の有無が焦点となりました。会社が従業員に対して車の運行に対してどのような指導や管理を行っていたかが問題となりました。第一審の東京地裁、第二審の東京高裁は、車のキーの保管方法について会社に過失があると判断しました。しかし、最高裁は「会社は車の鍵を保管する場所を内規で定めるなど、盗難防止の措置を講じていた」とし、過失はないと判断しました

微妙な判断であり、状況が少し異なれば責任が認められたかもしれません。車を施錠しないで、キーを付けっぱなしにした状態で放置した結果、車が盗難に遭い事故を起こした場合、車の所有者が運行供用者として責任を問われる可能性が高くなると思います

今回の最高裁判決を単純に「盗まれた車による事故の責任は、車の所有者にはない。」と考えると危険だと思います。自動車の所有者には運行供用者としての重い責任がありますので、車の保管・管理にはくれぐれも注意してもらいたいと思います。

Follow me!