倒産件数が11年ぶりに増加に転じました

東京商工リサーチは、令和2年1月14日、2019年の全国企業倒産件数(負債総額1,000万円以上)が11年ぶりに増加に転じたと発表しました。11年前は2008年であり、リーマン・ショックが世界経済を直撃した時でした。それ以来減少していた企業倒産件数が増加に転じたことは先行きの暗雲を予兆させるものかもしれません。

倒産する企業について特長が見られています。倒産するのは、地方の中小・零細企業が大半であり、大企業による大型倒産は減少しています。その結果、負債総額自体は減少しており、過去30年間で最少の額となっています。

大企業は、これまでのアベノミクス景気の中で収益を確保し、潤沢な内部留保として蓄えている為、少しばかりの景気変動には抵抗力があります。これに対して、地方の中小・零細企業には、内部留保はあまりないため経済状況の悪化に対して抵抗力がない状況となっています。

中小・零細企業は、現在「消費増税」「人手不足」「自然災害の三重苦が重なっている為、大変厳しい状況になっています。特に人手不足は深刻な状況であり、人材確保の為に賃金を引き上げ、その結果、収益悪化に陥るというパターンが増加しています。

また、台風や地震などで直接的な被害を受けた企業や直接的な被害はないが取引先の被災により間接的に影響を受けた企業の収益環境も悪化しています。直接的に影響を受けた企業は、倒産する以前に「廃業」を選択するケースも増えています。

このような倒産件数が増加に転じた中で、現在、中小・零細企業の最大の課題は、「事業承継」の問題となっています。これ自体も企業倒産の原因又は遠因となっている場合も多いと思います。事業承継問題は、「後継者不足」が最大の課題となっています。子供が親の営む事業の先行きに魅力や希望を持てず引き継がないケースやそもそも後継者がいないケースが多くなっています。

従業員(又は役員)の中から能力のあるものを後継者に指名して事業承継するケースも増えています。従業員が事業承継する場合、必要な資金を従業員自身で捻出することが可能であれば良いのですが、金融機関も簡単には融資に応じないため、単純には事業承継できません

対応策として、持ち株会社を設立して社長及びその親族が持ち株会社の株主となり、現在の会社の従業員を社長に指名して経営を任せるスタイルが考えられます。会社の所有は社長一族が確保した上で、会社の経営のみ事業承継者である新社長に任せる仕組みです。従来、中小企業が持ち株会社を設立するということはあまり見かけないことでしたが、最近は事業承継の対応策として利用するケースも増えています。

また、有能な後継ぎを企業外から迎えるために政府の機関や民間企業でマッチングビジネスがこれから盛んになっていくと思います。出会い系アプリでお付き合いする若者が増えていると言いますが、マッチングアプリで事業承継を考える時代になったのかもしれません。

景気悪化を予感させる倒産件数の増加は、この事業承継問題にも悪い影響を与えてしまいます。中小企業庁の発表によると2025年までに75歳以上となる中小・零細企業の経営者は245万人で、半数程度は後継者が未定とされています。このまま単純に廃業の道を選ぶと650万人の雇用と22兆円のGDPが喪失すると言われています。

一旦、息子に社長の座を譲ったが経営が悪く倒産しそうになっている。何とかできないか。」という相談もあります。会社の支配権は株式ですので、株式を完全に息子に譲渡してしまった場合、後から口出しをすることが難しくなります。現在の会社法は「種類株式」というものを設計できます。この種類株式を上手に設計・発行して後継者に株式を譲渡すれば、このような場合一定の影響力を残しておくことも可能となります

中小・零細企業は、後継者問題や経営環境の悪化で苦しい状況となっています。そのまま有効な対策を考えなければ、廃業や倒産となってしまう可能性が高くなっています。従来は、「会社法の有効活用」等あまり考えなかったと思いますが、これからの中小企業の生き残りを考えた場合、持ち株会社であれ種類株式であれ法律が許すものは何でも有効活用して生き残りを考えていく時代になったと思います。

倒産のリスクに合わないようにうまく企業経営してもらいたいと思います。

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