パンデミック防止の切り札となる病原菌検知装置が開発されました。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士が、以前インタビューの中で、人類にとって今後最も脅威となることは、細菌によるパンデミック(世界的大流行)だと言われていました。環境の変化に対して、絶えず変異を繰り返す細菌やウィルスは、人類の生存にとって最も身近な脅威の1つということでしょうか。

最近は、麻疹(はしか)の問題で世間を騒がせていますが、ノロウイルスの流行や新型インフルエンザ(サーズ)、鳥インフルエンザなど様々な細菌・ウィルス感染の問題が発生しています。我が国は島国ですので鳥インフルエンザ等を除いて国境を渡って他国から細菌やウィルスが容易に進入できない為、人々の関心は発生したときだけ高まって、すぐに忘れてしまう傾向にあります。

水際である空港や港等での防護対策としても、発熱や体調不良等の問診確認や温度センサーによる体温測定程度となっています。現在の技術水準からすれば、空気中や人の吐く息の中の細菌やウィルスを測定することは可能ですが、大掛かりな装置が必要となり、現実に実施することは不可能な面がありました。

今回、持ち運びできる病原菌検知装置(微生物測センサー)を名古屋大学などの研究グループが開発に成功し、屋外での微生物計測がより簡便に出来る様になりました。名古屋大学、大阪大学、九州大学および科学技術振興機構(JST)の研究グループは、2018年3月7日、従来の技術では困難であった持ち運び可能な微生物センサーを開発したと発表しました。

大気中に浮遊する細菌やウイルスなどのバイオエアロゾルを計測する環境測定装置として、効率良く物質のサイズを計測できる電流計測センサーが注目されていましたが、これまでの計測システムは堅牢性や可搬性に乏しく、屋外での計測は、高電圧を使用する際に生じるバックグラウンド電流の影響により、サンプルの分析や検出が正しく行えないという課題がありました。

今回研究グループは、2つの直列回路が交差するように橋渡し回路を持つ「ブリッジ回路」を用いたバックグラウンド電流抑制技術により、外部環境やノイズに対して堅牢性の高い電流計測技術の開発に成功しました。

実験段階の装置の大きさは、18cm×21cm×35cmで重さは4kg以下です。屋外や極限環境(温度4℃、湿度20%~温度40℃、湿度100%)での動作も確認され、壊れにくく頑丈なことも実証されています。

このセンサーを用いて、直径500nm〜1000nm(※1)の粒子を計測できることがわかり、またこのセンサーで計測した黄色ブドウ球菌の直径分布は、電子顕微鏡によって得られる分布と高い精度で一致していることも検証されました。また、さまざまな研究室や屋外などでも、微粒子を計測できました。

※1 nmはナノメートルて10億分の1メートルのこと。

驚くべき点は、微電流の流れ方から、細菌やウィルスの種類まである程度特定できる点です。細菌やウィルス毎に発現する電流パターンに特徴がある為、特定が可能となるのではないかと思います。現在の測定可能な細菌の直径を100nm程度まで微細化できるよう現在さらに研究を進めています。

この装置を実用化すれば、空気中や人の吐く息中の細菌やウィルスの測定が、簡単に出来ることになり、応用範囲は非常に広いと思います。水際対策としての空港や港湾での検査キットとして活用できます。最近よく病院で問題となる院内感染対策にも有効だと思います。食品工場や製薬工場などへの設置も考えられます。鳥インフル対策として、養鶏場に設置することも有効だと考えられます。

来るべき東京オリンピックでも応用範囲は結構あると思われます。悪性のある細菌やウィルスに対する薬剤やワクチンの開発も並行して行っていく必要があると思いますが、少なくとも見えない相手を可視化できることは、有効な対策の第一歩となることを期待しています。

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