スポット利用を可能にする「成年後見」制度が検討されています

成年後見制度は、民法の改正により平成12年に誕生した制度です。認知症や知的障害・精神障害により財産管理や日常生活に支障のある人の法律行為を支える制度としてスタートしました。成年後見制度には、「法定後見制度」「任意後見制度」があります。


「法定後見制度」は、判断能力が低下したとき、裁判所によって後見人を選任する仕組みです。「任意後見制度」は、判断能力があるうちに、本人が任意後見人をあらかじめ選任しておく仕組みです。

成年後見制度の認知度も徐々に高まってきており、最近では金融機関や役所等でも積極的な活用推進を求めるようになっています。しかし、実際の利用方法としては、認知症を発症した本人の家族などが制度利用に追い込まれる形で利用するケースが大半となっています。

具体的には、①認知症を発症した高齢者が介護施設に入所するため自宅を売却する必要に迫られたとき、本人に代わって契約行為をしてもらう。②金融機関に対して本人に代わって預貯金などの払出や解約手続きをしてもらう。③父親の相続手続について、認知症を発症した母親がいる場合、母親に代わって遺産分割協議に参加してもらう。などのスポット的なニーズが発端となって制度利用を開始することになります。


これらは、本来であれば本人が自らそれぞれの行為を行えばよいのですが、認知症を発症しているため、法律的に有効な法律行為を行うことができません。そこで、本人の代理人として成年後見人を選任して法律行為を行ってもらう必要があるのです。成年後見人を選任しなければ、スポット的な問題の解決ができないのです。


成年後見制度には、「任意後見制度」もあるのですが、認知度が低いため、あまり活用されていません。こちらは、本人が元気なうちに、あらかじめ将来の認知症発症の備えとして、信頼のおける家族などを後見人に指名しておくものです。

任意後見制度は、事前に計画した「保険」のようなものですので、追い込まれ感はなく、制度利用に当たっても不満は出ないことが多いと思います。後見人の活動内容については、事前に「任意後見契約」の中で本人の希望に沿ってに定めてあるので安心です。

ただ、本人が認知症を発症しなければ、任意後見契約が発動することはないため、せっかく設定した任意後見契約が無駄になります。費用をかけて契約設定しても無駄になる恐れがあるため利用が進まないのかもしれません。言わば「掛け捨て保険」ですので、余裕のある人が利用することになります。

これに対して、法定後見である成年後見は、目の前にある課題の解決のためには成年後見制度を利用するしか選択の余地がない状態に追い込まれての活用となります。


( 成年後見制度の課題 )

法定後見制度の成年後見には、従来より色々な課題が指摘されてきました。主な課題や問題点は次の通りです。

  • 家庭裁判所による選任手続に費用と時間がかかる。
  • 親族を後見人にしたいが要望がかなわず司法書士や弁護士が後見人に付く場合が多い。
  • 専門職が後見人に付いた場合、家族や親族と意見の対立が生じる場合がある。
  • スポット的な問題が解決しても成年後見制度は終了せず、本人が亡くなるまで制度が継続される。
  • 専門職後見人には、毎月報酬の支払が発生するが、報酬額の算定根拠が不明確である。

色々な課題はあるのですが、最大の問題点はスポット的な制度利用ができないことです。遺産分割協議のために成年後見人を選任した場合、遺産分割協議が終了して相続手続が無事完了しても成年後見制度は終了しません。本人が亡くなるまで継続し続けます。


当然、専門職後見人への毎月の報酬も発生します。本人の財産管理方法について後見人と家族で意見の対立が生じることもあります。しかし、一旦選任された後見人の交代は、横領行為などの犯罪行為でもない限り認められていません。

このことから、成年後見制度の利用を開始した家族や親族から成年後見制度を利用した後悔の声が多く聞かれることになります。もちろん、選任された専門職後見人と相性が良く上手くいってる家庭も多くあります。しかし、不満が出る場合も多いということです。


( 成年後見制度改正の検討 )

このように成年後見制度には色々な課題があるため、平成29年3月「成年後見制度利用推進基本計画」が閣議決定され、平成29年から令和3年までの5年間を利用促進基本計画年として、色々な施策が実施され制度の改善が行われてきました。

この基本計画が終了年度を迎えたことから、令和4年3月第二期基本計画が策定され閣議決定されました。この中で制度の持つ、残された様々な課題について改善策が検討されています。中でも、目玉となるものが、「スポット的な利用を可能とする成年後見」です。

第二期基本計画書の中では、積極的に「スポット利用」などの表現はされていません。あくまで官僚用語で書かれていますので、裏側を読み解く必要があります。計画書の文言は、次の通りです。

◆ 家庭裁判所による適切な後見人などの選任・交代の推進

「各家庭裁判所には、地域の関係者との連携により、本人にとって適切な後見人の選任や状況に応じた後見人の交代を実現できるよう、引き続き努力することが期待される。」

「選任・交代の推進」、「状況に応じた後見人の交代」という重要キーワードが計画文言に入ったことがポイントになります。これにより、スポット利用にお墨付きが付いたことになり、検討が進んでいくと思います。

これを受けて、法務省は公益社団法人「商事法務研究会」と共同で6月に有識者研究会を設置しました。ここで、検討案の骨格を作成してもらうことになると思います。現在、想定されているのは、例えば、自宅の売却が必要な場合は、選任された成年後見人である弁護士や司法書士などの専門職に業務を行ってもらい、終了後は利用をやめたり、親族や福祉職に成年後見人を交代することが検討されています。


有識者検討会は、民法なとの制度改正に向けた報告書を令和6年までにまとめる予定となっています。政府は、これを受け法制審議会でで議論した後、民法などの改正案として令和8年の国会に提出する見通しとなります。

多くの方がより活用しやすい制度に変更できることを期待したいと思います。

 

 

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