「養育費不払い」の「逃げ得」防止の為の民事執行法改正

離婚時、子供の養育費について約束をすることが多いと思いますが、養育費の支払いが、子供が成人になる前にストップしてしまうことがあります。元配偶者側の理由は様々でしょうが、毎月支払われていた養育費が支払われなくなれば、子供を養育する側の生活は大変苦しくなります。

相手方に支払いを請求しても支払われない場合、元配偶者に対して裁判を起こすことになります。裁判を起こせば、子の福祉に関わる問題ですので、通常は勝訴することが出来ます。

問題は、勝訴判決を勝ち取ったとしても元配偶者の財産の所在が不明の場合、支払いの執行をすることが出来ない点です。不動産などの財産があれば、勿論、それに執行をかければ良いのですが、そのような目に見える財産がない場合が問題となります。

不動産などの目に見える財産が見当たらない場合、執行の対象財産は、通常は元配偶者の預貯金や会社から支払われる給与ということになります。これらの財産に対して「差押え」を行って強制的に支払いを行わせます。

但し、元配偶者の預貯金や給与について、その所在に関する情報が分からないことが多いと思います。元配偶者の預貯金のある金融機関名や支店名、口座番号などは知らないことが多いと思います。また、勤務している会社名や所在地なども意外と知らない事が多いと思います。

これらの情報が分からなければ、裁判に勝っても勝訴判決は単なる紙切れとなってしまいます。従来は、ここで涙を呑んで終了となり、養育費の支払いができないことが多くありました。

今回、このような問題を解決するために民事執行法が改正されました。(令和元年5月10日可決、令和元年5月17日公布「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」)

具体的には、従来からあった財産開示手続の中に「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されました。裁判所から銀行の本店に照会をして、元配偶者の銀行口座がどの支店にあるのか分かるようになります。また、裁判所から市町村や年金事務所に照会をして、元配偶者の勤務先が分かるようになります。

裁判所から銀行の本店に情報の提供を命じることで、銀行のどの支店に元配偶者の銀行口座があるのかを回答してもらえるようになります。

市町村は、住民税の源泉徴収をしている会社の名称を把握しています。また、年金事務所は、厚生年金を納付している会社の名称を知っています。裁判所から市町村や年金事務所に照会して、元配偶者がどこの会社に勤務しているかを書面で回答させられるようになります。勤務先が判明した場合は、給与を差し押さえることができます。

このように財産開示手続による「第三者からの情報取得手続」は、強力な武器になります。

また、協議離婚時などに行われる将来の養育費の支払い約束について、公正証書で作成する場合がありますが、従来の制度では公正証書では財産開示制度を利用することができませんでした。正式の裁判の勝訴判決等が必要とされていました。今回の改正でこの点についても改善され、公正証書によっても財産開示制度を活用することが出来る様になります。

今回成立した民事執行法の施行日は、今後政令で発表されますが、2020年4月ではないかと思います。(正確な施行日は今後発表される政令でご確認下さい。) これから協議離婚をお考えの方は、養育費の支払いについて、公正証書によって約束されることをお勧めします。

養育費の支払い約束がなされていれば、従来の様な元配偶者の「逃げ得」は許されなくなります。不動産、預貯金、給与と差押えるべく財産を調べ上げて責任追及することが容易になります。また、このような制度が完備したことから、元配偶者も事情を説明すれば観念して任意に支払う場合も多くなるものと思います。

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